電子カルテとは?メリット・デメリットを解説
電子カルテとは、紙カルテを電子的なデータに置き換え、診療情報を一元管理するシステムのことです。問診内容・検査結果・処方薬・会計など、患者さんに関わる情報をデジタル化することで、医療の質向上と業務効率化を実現します。厚生労働省の発表によると、400床以上の大規模病院ではすでに9割以上が導入している反面、一般診療所では導入率が6割に届いていません。本記事では、電子カルテシステム導入によるメリット・デメリットを、実際の導入事例やよくある質問とともに詳しくみていきましょう。
※本内容は公開日・最終更新日時点の情報です
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※タイトルと本文を一部変更しています
目次
電子カルテとは
電子カルテとは、患者さんの診療記録を一元的に管理できるシステムのことです。従来の紙カルテでは検査結果や画像データ、会計などが別々のシステムで行われるため管理が煩雑になりがちです。
一方、電子カルテシステムは、診療に関わるさまざまな情報を一か所で管理できます。一元管理が可能な情報例は以下のとおりです。
- 患者さんの基本情報(氏名・生年月日・保険情報など)
- 診察記録(症状・診断内容)
- 検査結果や画像データ
- 処方内容
- 会計情報
電子カルテ導入による5つのメリット
まずは、電子カルテシステム導入によるメリットを1つずつみていきましょう。
メリット1. 情報管理・活用の即時性による業務効率化
電子カルテシステム最大のメリットは、情報のデジタル化による管理・活用の即時性です。データの閲覧や検索などが迅速かつ簡単にできるほか、医療情報の共有が瞬時にできる点で紙カルテより業務効率が向上します。
たとえば、外来で初診患者さんの基本情報や問診情報を受付スタッフが電子カルテシステムに入力すれば、医師は診察室にいながら確認できます。さらに、診察後にカルテ記載が完了すれば、事務側では確認だけで医療費が自動計算されるため、会計がスムーズです。
紙カルテは、検査結果やレントゲン写真などを探す手間がかかり、診察前後の時間を要する場合が少なくありません。また、ヒューマンエラーにより患者さんの情報が入違ってしまうリスクへのケアも必要です。
より、本来の仕事に集中しやすくなるのも、電子カルテシステムのメリットといえるでしょう。
メリット2. 医療安全の向上
電子カルテシステムは、紙カルテのように文字の判別に苦慮することがないため、看護師や事務員への伝達ミスや転記ミスを回避し、オーダーミスや請求漏れの防止が期待できます。
また、投薬についても薬の名称や薬効から検索しての入力、適応症から薬剤を選択するなど補助機能が充実しているため、書き間違いによる医療事故の未然防止が可能です。そのほか、患者さんのアレルギー情報や併用禁忌などをチェックしたり、重要な情報の見落としを防止できる機能で、安全性を高めたりできます。
メリット3. 紙カルテのスペース削減と劣化防止
電子カルテシステムは、患者さんが増えても紙カルテのように保管スペースを追加する必要はありません。オンプレミス型の場合はパソコンのサーバーに、クラウド型の場合はクラウド上で保管管理できます。
また、紙カルテを保管するスペースがなくなってしまい、保管場所をあらたに借りなければいけないといった悩みもなくなります。
さらに、電子データのため経年劣化する心配もありません。
メリット4. 患者サービスの向上
電子カルテシステムは、医療者側だけでなく患者サービスにも寄与します。具体的なメリットの一例は以下のとおりです。
- 業務効率化により待ち時間を短縮できる
- 検査結果や投薬歴を一画面で確認し安全な医療を提供できる
- オンライン診療・予約との連携で受診のハードルを下げられる
患者サービスの向上は、他院との差別化につながる部分ともいえます。積極的に情報発信することで、経営の安定化が期待できるでしょう。
メリット5. 医療機関同士の連携と情報共有の実現
電子カルテシステムは、タイムリーな情報共有が容易です。サーバーに診療記録を保存するため、紹介患者さんのニーズに合わせた最適な医療が提供できます。
物理的に移動が必要な紙カルテでは難しいことを実現できるのは、電子カルテシステムならではでしょう。
電子カルテ導入のデメリット
便利に見える電子カルテシステムにも、実はデメリットがあります。とくにこれまでの紙カルテ運用に慣れ親しんだ方ほど、壁に感じやすいかもしれません。
デメリット1. 導入・運用までの時間と労力
電子カルテシステムは、浸透するまでに一定の時間を要します。導入前と同じように運営するためには、院長先生はもちろんスタッフの教育が欠かせません。
また、大切な資産である紙カルテからの移行作業も発生します。ある瞬間から全情報を電子カルテシステムに切り替えるのは難しく、一定期間は併用しながら診療することになるでしょう。
混乱しないように運営するためには、電子カルテ版の業務フローをあらためて構築する必要があります。現状の業務タスクを洗い出し、担当者を交えながら電子カルテ導入後にどう運営していくかをシミュレーションして、スタッフが動きやすい業務フローを構築しましょう。
デメリット2. 初期費用と運用コストの負担
電子カルテシステムは導入費用だけではなく、運用していくための費用も必要です。標準仕様に加え、オプションやカスタマイズするとその分上乗せされます。おおよその費用目安は以下のとおりです。
導入費用
- クラウド型:無料~数十万円程度
- オンプレミス型:200万~500万円程度
保守・メンテナンス費用
- クラウド型:1万~数万円程度
- オンプレミス型:月額数万円程度
定期的なアップデート費用
- クラウド型:無料(保守・メンテナンス費用に含まれる)
- オンプレミス型:200万~500万円程度
クラウド型とオンプレミス型の費用面に開きがありますが、長く使うシステムのため、金額差よりも自院で実現したい環境に適したシステム選択を優先するとよいでしょう。
デメリット3. システムトラブルへの対応
電子カルテシステムはパソコンの環境に依存するため、システムトラブルへの対応が欠かせません。端末の故障や災害時など、電子カルテシステムが使えなくなる事態に備え、紙カルテで代用する手順をマニュアル化しておくと安心です。
端末が故障した場合、システムベンダーに対応方法を連絡することになるため、緊急連絡先をいつでも確認できる場所に保管しておくとよいでしょう。
デメリット4. セキュリティ対策の必要性
電子カルテシステムを安定して運用するには、セキュリティ対策が必須です。昨今では、医療機関をターゲットにしたサイバー攻撃が増えており、診療停止になった事例も複数報告されています。
また、アクセス権限を有していれば、患者さんのカルテを閲覧できるため、内部から情報が漏洩してしまうリスクにも配慮が必要です。
電子カルテシステム導入前にアクセス管理の規定を設け、最新のセキュリティが保てるよう定期的に電子カルテを利用するデバイスや端末をアップデートする体制を構築しましょう。
セキュリティに関するリスクと対策について、以下の動画で解説しています。ぜひ、ご活用ください。
動画セミナーはこちら:クリニックが行うべき4つのセキュリティ対策
デメリット5. 電子カルテに運用を合わせるケースが存在する
電子カルテシステム導入に伴い、これまでの院内の運用を変更しなければいけない場合があります。電子カルテシステムで対応できるところと対応できないところを確認し、それぞれの運用を取り決めておくことが必要です。
たとえば、カルテの書き方を電子カルテシステムの入力形式に合わせ、変更する必要があるかもしれません。また、電子カルテシステムで発行できない帳票を使っていれば、運用を変えて発行できる帳票を使うかそれ以外の代替手段をとるのか、事前に決める必要があります。
運用に関する工夫については、導入事例が参考になります。以下のページで各施設の事例を紹介しているため、ぜひご覧ください。
導入ページはこちら:導入事例
電子カルテのよくある質問
ここからは、電子カルテシステムについてよくある質問を5つピックアップして紹介します。
クラウド型の電子カルテが良いと聞きますが、本当のところどうか知りたいです。
クラウド型電子カルテシステムの大きなメリットとして、従来から実績のあるオンプレミス型では難しい初期費用の少なさが挙げられます。また、登場当初不安視されていたセキュリティ面の脆弱さの解消や場所を問わずに利用できるなど、選びやすくなったことが背景にあるといえるでしょう。
オンプレミス型でもクラウド型とメリットは変わりません。流行り言葉に惑わされず、先生が実施したい診療に合う電子カルテシステムの選定をおすすめします。
電子カルテはインターネットにつなぎますか。つなぐと、患者さんのデータが流出することはないでしょうか。
データ流出をゼロにすることは難しいのが実態です。なぜなら、サイバー攻撃は日々多様化しておりすべてを万全にすることは難しいためです。
対策として、サーバー機を含む全端末に「ウイルス対策ソフト」を標準搭載し、ウイルス感染の予防と、感染してしまった場合のウイルス駆除による方法が挙げられます。
電子カルテは停電時も利用できますか。
基本的に利用できません。
ただし、無停電電源装置(UPS)の設置やモバイルWi-Fi、閲覧用のノートパソコンなどを用意しておくと、診療が突然ストップする事態を防げます。
電子カルテが壊れて、保存しているデータがなくなることはないでしょうか。
万が一、電子カルテシステムの端末が故障しても何重にもバックアップをとっているため、データがなくなることは基本的にありません。
電子カルテを導入すると、入力の手間が増えて、逆に患者さんの会計までの時間が長くなることはありませんか。
一概にはいえませんが、インターネットの他、メール・ワード・エクセルなどの基本ソフトをご使用になる先生であれば、入力は手間ではないと考えられます。
入力が苦手と感じる先生には、入力補助機能(テンプレート入力、アシスト機能など)が備わっています。
電子カルテを導入された方々の声
ここからは、実際に電子カルテシステムを導入された先生方の声を3つ紹介します。
医師の事務作業を減らす設計
康明会 荻窪クリニック様(在宅)
ー メディコムを選んだ理由は?
診療後クリニックでの事務作業に時間を費やすことが多く、医師含めスタッフの負担を削減したかったためです。
ー システムの運用成果は?
院外で情報閲覧できるので、いちいち事務員を情報確認のためクリニックに出勤させることなく、主治医でなくても安心して患者さん家族に病状説明が可能になりました。
患者様を待たせない診療
医療法人はじか外科・内科/院長:髙橋総司 先生
ー メディコムを選んだ理由は?
患者様を診ていく中で、待ち時間が長くなるという課題があり、解決策としてカルテ記載のスタイルを変えることなく使える設計だからです。
ー システムの運用成果は?
受付から診察、会計までとても業務がスムーズになり、患者さんの在院時間が圧倒的に短縮されました。
情報統合可能なシステム連携
社会福祉法人すずらん福祉会 すずらん診療所(内科・外科)/院長:石川義典 先生
ー メディコムを選んだ理由は?
限られた診療所スタッフで業務フローを効率的に回していくためには、電子カルテシステムを中心とした診療所のIT化は必須と考えていました。多職種間の情報連携・共有も期待できると思いました。
ー システムの運用成果は?
在宅医療で電子カルテシステムをモバイル端末で利用してきました。院内の看護師による訪問看護でもケア記録や経過を電子カルテシステムに入力しており、双方の情報共有の密度も増しています。
電子カルテの普及率
厚生労働省の発表では、2023年の電子カルテシステム普及率は以下のとおりです。
一般病院:65.6%
- 400床以上:93.7%
- 200~399床:79.2%
- 200床未満:59.0%
一般診療所:55.0%
政府は医療DX推進として、電子カルテシステムによる地域医療連携や医療情報の標準化施策について、補助金などでIT化を進めています。
2025年からは、標準型電子カルテの試行版の運用が予定されており、よりいっそう、政府からの電子カルテシステム導入に関する動きは激しくなると考えられます。
出典:厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」
電子カルテシステムの種類と比較
電子カルテシステムには、クラウド型・オンプレミス型・ハイブリッド型があります。
クラウド型電子カルテシステムは、企業のサーバーを借りて利用するシステムです。インターネットに接続できれば、どこからでもデータを保存したり、閲覧したりできます。
オンプレミス型は、電子カルテシステムのデータを院内に設置するサーバーに保存するシステムです。自院だけで利用するため、自院独自のカルテ環境がつくれます。また、インターネットを切断すれば外部から侵入されることもありません。
ハイブリッド型は、院内のサーバーと企業が管理するサーバーの両方を利用するシステムです。ハイブリッド型は、クラウド型・オンプレミス型の良い面を利用できるため、院内のサーバーが故障した場合でも、クラウド上のサーバーに切り替えて使い続けられます。
オンプレミス | クラウド | ハイブリッド | |
---|---|---|---|
サーバー | 院内に設置 | 企業サーバーを利用 | 院内サーバー/企業サーバー併用 |
端末 | 基本は指定だが、最近は選べるように | スペックを満たしていれば自由に選べる | スペックを満たしていれば自由に選べる |
利用場所 | 基本は院内、外部に持ち出す場合は別途設定 | インターネットがつながればどこでも可能 | 外部に持ち出す場合は別途設定 |
インターネットセキュリティ | インターネットにつながない場合は、外部からの侵入の脅威はない | インターネットにつなぐ場合アンチウィルスやファイアウォールなどの対策が必要 | インターネットにつなぐ場合アンチウィルスやファイアウォールなどの対策が必要 |
ネットトラブル | 影響あまりなし | 影響あり | 随時切り替えて利用 |
スピード | サーバーに依存 | 回線速度に依存 | サーバーに依存 |
カスタマイズ | 自由度が高い | ほとんどできない | ある程度の自由度はある |
設置・操作指導 | パッケージに含まれる | 別料金 | パッケージに含まれる |
連携 | システムや医療機器との連携実績は多い | システムや医療機器との連携実績は少ない | システムや医療機器との連携実績は多い |
価格 | パッケージ価格(イニシャル+ランニング) | サブスクリプションモデル(月額定額) | サブスクリプションモデル(月額定額) |
リプレイス | OSのバージョンアップに合わせて買い替え(5年~6年) | ハードのみ定期的に買い替え | ハードのみ定期的に買い替え |
クライアント数 | クライアントごとにソフトが必要 | 同時アクセスする端末数で設定 | クライアントごとにアプリが必要 |
サポート | 訪問、リポート、電話、FAX | オンライン(訪問は別料金) | 訪問、リポート、電話、FAX |
電子カルテが満たすべき3つの原則
導入が一般化しつつある電子カルテシステムですが、電子保存の3原則として、真正性・見読性・保存性を満たす必要があります。
具体的には、真正性の確保が責任の所在・虚偽入力や書換えなどの防止、見読性の確保が必要に応じて肉眼で見読できること、保存性の確保が保存期間5年の中で復元可能になっていることの3つです。
以下の記事でより詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
関連記事:電子保存の三原則について
電子カルテの選定を成功させるためには?
電子カルテシステムは長く使う基幹システムのため、後悔のない選定をしたいものです。そのためには、複数のベンダーに相談しながら比較検討することをおすすめします。具体的には以下の点をチェックリストとして確認いただくと、自院に適した電子カルテシステムが絞れてくるでしょう。
システムの信頼性と実績
- 導入実績と市場シェア
- 医療機器との連携実績
- バージョンアップの頻度と内容
導入・運用コストの最適化
- 初期費用と月額費用のバランス
- 保守サポート体制
- 将来的なアップグレード費用
使いやすさとカスタマイズ性
- 直感的な操作性
- 業務フローに合わせた調整の柔軟さ
- スタッフ教育のしやすさ
地域連携への対応(政府が推進する医療DXの観点からも重要とされている)
- 地域医療ネットワークとの親和性
- 他院との情報共有のしやすさ
- 今後の制度改定への対応力
使いやすい電子カルテシステムのポイントについて、以下の記事で紹介しています。情報収集の一環としてご活用ください。
関連記事:クリニック向け電子カルテの選び方。使いやすい製品選びのコツ
ウィーメックスでは、手軽にご利用いただけるオンラインデモを用意しています。必要なのは、インターネットが接続できる環境だけです。以下よりご希望日時を選択いただけるため、ぜひご覧ください。
監修
松永 錦弥
ウィーメックス株式会社ヘルスケアIT事業部(旧メディコム事業部)プロダクトマネジメント部 医科プロダクト課 課長
神奈川県出身、群馬大学大学院にて情報工学専攻。
約7年間レセコン等のシステム開発を担当後、医療機関・保険薬局向け医療ITシステムの商品企画に従事。
現在は電子カルテ・レセコン等の医療機関向けITシステムの責任者として、よりお客様に寄り添う商品の企画・開発に取り組んでいる。