【津下先生解説】行動変容の評価で重要な〇〇とは?第4期見直しのポイントについて vol.2
制度にとって大きな転換期となる見直しの内容が発表された第4期特定健診・特定保健指導。この変更点等について2023年8月4日にセミナーを開催し、第1期より厚生労働省等の検討会委員を務めている女子栄養大学特任教授の津下一代先生に解説いただきました。本コラムでは、講演内容の中で抑えたいポイントをさらに詳しく解説いただき、連載でお届けいたします。第2回目は、セミナーアンケートで多くの質問を頂戴した第4期見直しのポイントについて教えていただきました。
※本内容は公開日時点の情報です
目次
Q1.第4期の見直しの主なポイントを教えてください。
A.第4期の主な見直しのポイントは以下の通りです。ここでは改訂の理由や保健指導現場への活用について触れたいと思います。
1.特定健診について
標準的な質問票回答の選択肢について、より個別性の高い保健指導につなげる目的でいくつかの修正をしています。
喫煙・飲酒については過去の喫煙歴・飲酒歴を回答する選択肢を加えています。
現在吸っていない、飲んでいない人でも、過去に健康問題等をきっかけに禁煙・禁酒した者が含まれる可能性があります。「やめた」という情報は、禁煙・禁酒のきっかけや原因、禁煙・禁酒に成功した要因、現在も負担なく続けられているかどうか(再喫煙、再飲酒の可能性)を確認する糸口になります。
また、これまでは「保健指導参加の希望」を尋ねる質問がありましたが、希望しない人も特定保健指導の対象となる点について、対象者への説明に苦労しているとの意見が出ました。それに代わり、「これまでの保健指導参加の有無を尋ねる質問」に変更されました。
本制度も定着して15年となり、繰り返し特定保健指導を受ける者が増えています。保険者や保健指導機関が変わることもあり、質問票で保健指導参加経験を尋ねることは重要です。
参加歴のある者に対しては、初回参加者と同じような説明を繰り返し行うのではなく、本人の受け止めの確認、過去の参加時にどのような行動目標を立て、どう取り組んだのか、その後の経過はどうか、などを尋ねることにより、対象者に寄り添った保健指導につなげることができます。
検査項目については大きな変更がありませんでしたが、中性脂肪の判定において随時測定値も「やむをえない」場合に認められることになりました(175㎎/dl以上を保健指導判定値)。随時血糖と歩調を合わせて対応できるように修正したものです。
2.特定保健指導について
アウトカム評価の導入は今回の改訂の最も大きな関心事であり、本制度の大きな転換点となるといえるでしょう。
前回のコラムでも触れましたが、保健指導の目的は「参加者の健康状態の改善」や「内臓脂肪減少に向けた行動変容」ですから、その目的に合わせて、積極的支援の実績評価に体重・腹囲の変化や行動変容などのアウトカム評価を導入することになったのです。
保健指導の質の向上を図るため、また本制度が適切に運用されているかを評価する必要性から、「保健指導の見える化」も同時に進められることになりました。
アウトカム達成状況、行動変容指標の設定状況や達成状況、健康上のアウトカムとの関連などについて、NDB等を活用して詳細に分析することとなります。ビッグデータを活用して保健指導の質の評価を行うことにより、全体の底上げを図ることを目的としています。
また、対象者特性に合わせたより効果的な保健指導についての知見が得られることも期待されます。
保健指導の効率・効果を高める目的で、ICTの活用も推奨されています。
もちろん対面での保健指導で得られる情報や伝えられることも多いので、両者の併用も望ましいといえます。特に継続的支援においては脱落を減らす効果が期待されます。
保健指導へのアプリ活用も推奨されています。腹囲・体重や歩数、行動計画に沿った指標を記録することで、参加者自身のセルフマネジメントに活用するほか、保健指導者との共有により具体的な助言を送ることが可能となります。
現時点ではアプリといっても玉石混交であるため、その利用そのものはポイント換算されません。結果として保健指導の効率・効果を高めることを評価していく必要があります。
Q2.行動計画の立案提案をする際の注意点はありますか。
次の健診を見据えた、実現かつ継続可能な目標を設定
A.短期的で実現可能性の高い目標を設定することで、行動変容への意欲が高まることが知られています。
腹囲2cm・体重2kg減の達成は、特定保健指導参加者の2~3割程度で達成している状況ですし、第3期に行われたモデル実施参加者では約45%が達成したと報告されています。単に「体重を減少しましょう」といわれるよりも、「2cm・2kgの減量で合格」といわれたほうが、やる気に火が付く状態になったかもしれません。
しかし、忘れてはならないのは3ヵ月後の評価はあくまで通過点でしかない、ということです。
モデル実施では、1年後の健診時には平均で3cm・3kgの減量を達成し、血圧・脂質・血糖などの健診データも有意な改善を示しました。積極的支援期間の成功体験が生活習慣病予防行動の継続につながった、保険者からの継続的なリマインドがあった、などの可能性が考えられます。
2cm・2kgの減量計画を立てる中で、食事や運動などの教材を活用してエネルギー収支バランスを整える行動目標を設定するだけでなく、実践を継続的に支援するための計画づくりが重要です。
設定した行動目標が妥当であったのかを振り返る機会を、初回面談の2週間後~1ヵ月以内にもてるとよいでしょう。最初の1ヵ月で体重減量の兆しが見えなければ3ヵ月後の評価につなげることは難しいとの観察研究もあります。
行動目標の実践が難しそうであれば目標の修正や支援計画の修正を行うことも推奨されます。また、保険者等の提供するポピュレーションアプローチの事業を紹介していくことなども効果的と考えられます。
体重減量以外の目標を立てた場合にも、参加者のペースに合わせた支援を
一方、「2cm・2kgの減量」を目標としたくない人、達成しそうもないと考える人に対し、「2cm・2kgの減量」を強要したり、ネガティブなメッセージを発信することは現に慎まねばならないことです。
人により生活改善のペースが異なりますし、特に50歳以上になると筋肉量の減少を意識する必要があります。睡眠不足、ストレス過剰、生活の困難さなどのために、すぐにはメタボ対策に気持ちが向かない人への支援も重要です。
「2cm・2kgの減量」を達成しなくても、気持ちが前向きになり自分の健康を大切にしなければと思うようになることは、保健指導の本来のあるべき姿ではないでしょうか。生活習慣の中で変えられることに着目し、回数を重ねて支援していくこと(プロセス評価)で終了することも価値があることに留意して、行動計画を立てていくとよいでしょう。
「保健指導の参加」は参加者個人にとってプラスになるものであってほしいと思います。
Q3.生活習慣の評価において、どの程度達成されたら習慣改善と判断して良いのでしょうか。
アウトカム評価は、目標設定時の具体化が重要
A.生活習慣病予防につながる行動変容(食習慣、運動習慣、喫煙習慣、休養習慣、その他)については、一人ひとりと面接した結果から個別的に目標設定し、それが2ヵ月以上継続できていることを確認、ポイントとして算定することとしています。
行動目標の例として「1日の間食は,適量(○kcal以内)にする(又は週に○回に減らす)」、「甘い飲み物(清涼飲料水、加糖コーヒー等)を飲まない(又は○回に減らす)」、「歩行時間を今より○分増やす」、「1日の平均歩数を〇歩にする」など、具体的であり、参加者・保健指導者双方が客観的に評価可能な指標を立てることが推奨されています。
「なるべく歩くようにする」というあいまいな表現を避けることが重要です。
習慣化が行動目標達成のポイント
中間評価(面接・メール等)や最終評価時アンケートにより、そのような行動をどのくらいの期間続けているかを尋ねることで、ステージモデルの「実行期」に入ったことを確認します。アプリや生活記録などを活用すれば、より客観性を保つことができます。
完璧に、ではなく「だいたいできている」でOKと思います。「やったりやらなかったり」、「最初の1ヵ月は頑張ったけど、最近は中だるみ」などの場合は習慣化できていないと考えるべきでしょう。
そのように考えると、あまりにハードルの高い短期間しか続かない目標よりは、「将来にわたって継続してほしい生活習慣」、「続けることで健康マインドを実感できる目標」を掲げることが望ましいといえるでしょう。
最初の1ヵ月は2cm・2kgを目指してがんばり、1ヵ月後からはなだらかな継続可能な目標に切り替えるなどの方法も考えられます。
▽第1回のコラムをご覧になりたい方はこちら
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/healthmanage-shg-01
▽第3回のコラムをご覧になりたい方はこちら
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/healthmanage-point-03
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