目次
薬局経営は安定した収益を得られるか?
健康保険法に基づく保険指定を受けた保険薬局の収益や費用の平均は、厚生労働省の第23回(令和3年実施)「医療経済実態調査(医療機関等調査)」によると以下になることがわかりました。
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個人の保険薬局1施設あたりの損益(年間)
収益:約8,256万円(介護収益約22万円)
費用:約7,424万円
損益差額:約854万円
※個人設立の薬局において開設者の報酬は費用には含まれていません。 -
法人の保険薬局1施設あたりの損益(年間)
収益:約1億7,290万円(介護収益約89万円)
費用:約1億6,232万円
損益差額:約1,148万円
税引後損益:約950万円
法人の場合は開設者の報酬が費用に含まれているため開設者自身の報酬額まではわかりませんが、個人・法人問わず薬局経営ではある程度の利益が得られることがわかります。
なお、令和4年賃金構造基本統計調査によると企業規模10人以上の企業に勤める薬剤師の平均年収は約583.4万円ですので、薬剤師が薬局経営を始める場合、薬局経営の方がより高い収入を得られる可能性があるでしょう。
▽参考記事
厚生労働省「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)」
厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
調剤報酬額改定などの動向にも左右される薬局経営
薬局経営はある程度の収益や利益を見込める可能性があると紹介しましたが、中には経営状況が悪化して倒産する調剤薬局もあります。薬局経営で安定した収益を確保できるかどうかは、調剤報酬額改定などの動向に注視し対応できるかどうかも大きく関係してくるでしょう。
保険適用の薬剤については、誰もが平等に医療にアクセスできるよう調剤報酬点数(1点10円)が定められています。調剤報酬は2年に1度見直しが行われており、令和4年度の調剤報酬改定では、薬価や材料価格を低減する見直しなどが行われました。
また、調剤報酬改定の近年の流れとして推進されているのが、地域医療の貢献や在宅薬学管理などです。近年の地域医療推進の一環として、かかりつけ薬局としての機能を持つ健康サポート薬局(一定基準を満たし都道府県知事に届け出た薬局のこと)への転換が進展していく可能性についても注視していく必要があります。
薬局の種類とは?開業場所やタイミングも重要
薬局を開業する前に知っておきたい薬局の種類、開業場所、開業のタイミングについて解説します。
薬局にも種類がある
薬局は、分業形態で、点分業と面分業に大きく分けられます。薬局の中でも多いのが点分業です。
点分業とは、主に特定の医療機関の処方箋を受け付けている形態で、医療機関の敷地内にある門内薬局、医療機関に隣接する門外薬局のほか、医療機関の施設内にある院内薬局も一部存在します。
面分業は、特定の医療機関に依存しない形態のことです。駅前など多くの人が利用しやすい場所に開設されるケースが多く、かかりつけ薬局ともいわれます。
厚生労働省では、医療の高度化や高齢化などを背景に医薬分業を進めており、かかりつけ薬局や、かかりつけ薬局機能に加えて地域住民の健康サポート機能を備えた健康サポート薬局の認定や推進を行っています。
薬局の開業場所
一般的に、人目につく場所や人が行き交う場所などが好立地として挙げられますが、薬局を開業する場合の主な利用者は医療機関から処方箋の交付を受けた人である点に注意が必要です。そのため、医療機関に近い場所で開業する方が有利になります。
医療機関との関係構築も重要です。医療機関の中には院内処方で完結しているところもあれば、すでに門前薬局があり集客をあまり見込めないケースもあります。医療機関の開業予定も含めリサーチしておきましょう。
なお、複数の医療機関の中間地点に開業場所を決めるのはあまり得策ではありません。利用者は近場の薬局を利用する傾向にありますので、一目でわかるような場所にないとほかの薬局に流れてしまうこともあります。
薬局開業のタイミング
既存の薬局を引き継いで薬局経営をするパターンもありますが、新しく開業する医療機関の開業のタイミングに合わせて薬局を新規開業するのが一般的です。薬局開業のタイミングも重要なポイントになります。
病院勤務で独立開業を考えており、門前薬局を開業する人を探している医師もいますので、アンテナを張って、そうした医師とコネクションを持つことが大切です。開業を考えている医師とのコネクションをなかなか持てない場合は、マッチングサービスを利用する方法もあります。
薬局の開業手順
薬局(調剤薬局)の新規開業は、次のような流れで行います。
1.薬局開設許可申請書などを提出する
薬局を開業するには許可が要ります。登記事項証明書や施設の平面図などの必要書類を添付して薬局開設許可申請を各自治体の保健所で行います。
2.保健所の検査を受ける
申請書を提出した保健所とのスケジュール調整後、保健所職員による立会検査が行われます。検査までに内装工事や器具の搬入などは済ませておく必要があります。
3.厚生局に開設届と保険指定申請書を提出する
保健所からの許可が下り次第、厚生局に保険薬局の指定のための書類を提出します。
4.厚生局指定の審査会が開かれる
厚生局の審査を通過することで、はじめて保険薬局の開業ができます。
5.保険指定を受け開業する
保健所の許可が下りれば薬局の開設はできますが、厚生局の審査に通過するまでは保険指定が受けられないため、保険調剤などの掲示が制限されます。
薬局新規開業の手順については、以下の記事で詳しく説明していますのでこちらをご覧ください。
▽関連記事
調剤薬局開業までの具体的な流れ~新規開業の場合~
薬局経営で成功するためのポイント
薬局経営で成功するにはどのような点を意識するとよいのか、4つのポイントを取り上げます。
加算を取りこぼさない
調剤報酬は、調剤技術料(調剤基本料、薬剤調整料)、薬学管理料(調剤管理料、服薬管理指導料、かかりつけ薬剤師指導料、服薬情報等提供料、外来服薬支援料、など)、薬剤料、特定保健医療材料料で構成されています。
それぞれ複数の項目があり、項目ごとの特定の要件を満たすと報酬として加算される仕組みです。似たような調剤でも、どのくらい加算を獲得できるかで報酬は変わってきます。要件を満たせそうな加算を取りこぼさないように管理することが薬局経営で成功するポイントのひとつです。
▽関連記事
2023年度薬価改定のポイントと薬局経営への影響を解説
薬価差益を増やす工夫をする
薬価差益とは、医薬品卸売会社からの仕入れ値と薬価の差による利益のことです。頻繁に行われる調剤報酬改定によって、薬価の報酬は下がり、薬価差益は減少してきてはいますが、それでも工夫をすれば薬価差益を増やすことはできます。
代表的なのが、薬剤の価格交渉を受け持つ共同購入グループへの参加や、ボランタリーチェーン(独立した複数の事業者による業務の連携)による大量仕入です。一般的に、まとめて仕入れることによって仕入れ値は下がる傾向にあり、薬価差益の確保にプラスになります。
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中小調剤薬局ができる薬価差益の確保対策
地域包括ケアシステムに沿って経営する
2025年を目途に、要介護となっても住み慣れた地で、医療、介護、介護予防、生活支援が確保される、地域包括ケアシステムの構築が進められています。
地域包括ケアシステムの実現に向け、薬局に求められるようになったのが、門前からかかりつけ、さらには地域への貢献です。このような中で、かかりつけ薬局や健康サポート薬局が推進されるようになってきました。
在宅医療への対応や副作用や効果の継続的確認など、地域包括ケアシステムに沿った薬局の在り方は、処方箋の獲得や調剤報酬加算にもつながるところです。薬局経営成功のためには、今後の薬局の在り方に沿った取り組みが重要度を増します。
販促に力を入れる
調剤薬局は門前薬局が主流でしたが、かかりつけ薬局の推進などもあり、調剤薬局の利用は多様化しています。今後は、特定の医療機関からの処方箋だけに依存するのは難しくなっていくかもしれません。
薬局経営を成功させるには、地域密着型の薬局として販促に力を入れることが重要です。例えば、地域のイベントで相談会を実施したり、ニーズのある物販を取り入れたり、SNSを活用して処方箋の受付を行ったりといった方法が考えられます。現役世代など、これまで薬局の利用頻度が少なかった層へのアプローチも重要度を増してくるでしょう。
薬局経営における注意点
今後、薬局経営を始める場合の注意点を3つ取り上げます。
調剤報酬改定の動向を把握する
医療保険が適用される医薬品は、調剤報酬によって収益が決まります。薬局の収益の多くは保険適用のものになりますので、調剤報酬改定の動向を把握しておくことが必要です。
近年は、かかりつけ薬局や地域医療の推進により関連する調剤報酬の加算が行われる一方、薬価などの基本的な報酬は加算点数が減少する傾向が見られます。薬局経営で安定的な収益を確保するためにも、調剤報酬改定の動向や今後の影響について早め早めに情報を取得し対応できるようにしておきましょう。
在宅医療の対応を検討する
医薬分業の進展もあり、薬剤師の在宅医療への参画が求められるようになってきました。薬剤師が在宅医療に携わることによって、医師の負担軽減や在宅医療の質向上などが期待されています。
在宅医療における主な薬剤師の役割は、患者宅への薬剤の供給、服薬の説明、薬剤の使用状況の確認、医師やケアマネジャーとの情報共有、などです。調剤薬局を開業する場合、このような在宅医療にどのように対応していくかも検討しておく必要があります。
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在宅医療における薬剤師の役割とは?業務内容と必要なスキルを解説
オンライン服薬指導の導入を検討する
社会的なニーズもあり、2020年(令和2年)9月よりオンライン服薬指導が制度化されました。オンライン服薬指導とは、スマートフォンなどの情報通信機器を利用して、薬剤師が患者に対して服薬指導をできる制度です。これにより、患者側は自宅に居ながら服薬指導を受け、薬局からの配送により薬剤を受け取れるようになりました。
オンライン服薬指導は、改正により利用しやすい制度へと変わってきています。社会的なニーズに対応するためにもオンライン服薬指導の導入も検討していく必要があります。
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【2023年最新版】オンライン服薬指導とは?算定要件や流れを解説
薬局経営の成功事例
実際に薬局経営に成功したケースではどのような取り組みが行われたのでしょうか。薬局経営の2つの成功事例を取り上げます。
薬剤師による薬局経営成功事例
ある薬局は、小規模ながらも、システムやSNSを活用することで効率化を図り成功を収めています。
まず、同薬局では、薬歴管理から会計までのデータをまとめて管理できるように、レセコン(健康保険組合などに診療報酬を請求するためのレセプト作成のためのコンピューター)と連動したPOSシステムを導入しました。これにより、短時間勤務のスタッフがいても業務を回しやすくなりました。働きやすい環境構築にも貢献しています。
また、ニーズに対応するためにSNSのアカウントを作成し、メッセージを利用して処方箋受付や相談に対応できるようにもしています。
さらに、主なターゲットを意識した取り組みも同薬局が成功したポイントといえるでしょう。育児中の人も利用しやすい育児コーナーのある空間設計、育児中に利用したい製品の物販なども取り入れ、顧客を取り込むことに成功しています。
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レセコン(レセプトコンピューター)とは
医師による薬局経営成功事例
医師と薬剤師の2つの免許を持つ薬局経営者の成功事例です。この事例では、在宅医療への対応や店舗数拡大にともなうシステムの導入が成功の大きなポイントとなりました。
近年では、かかりつけ薬局の推進や医薬分業の進展などもあり、在宅医療における薬剤師の役割は重要さを増していますが、同氏が開業したのは、まだまだ在宅医療が普及していない時代です。
このような中、いち早く在宅医療に対応できるように、自社の薬剤師向けに講習会などを実施して、薬剤師のスキルアップを図り、店舗拡大を成功させています。
店舗拡大後は、全店舗で薬歴管理ができるように、システムの統一を図り、訪問先ではタブレットを利用して薬歴チェックなどができるような環境を整備しました。システムが統一されたことで、自社内の異動時にもスムーズに新しい環境になじめるようになったとプラスの反応として返ってきています。
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