目次
薬剤師の独立はするべきか
薬剤師としての独立を考えるとき「本当に今独立してもいいのか」「独立して本当にやっていけるのか」と不安に思うことがあるでしょう。
現状、薬局の開業には一定数の需要があるといわれています。すでに開局している薬局の後継者がおらず困っている経営者や、譲渡先を探している方がいるためです。
チェーンの調剤薬局であれば人事異動により人員の確保ができますが、個人薬局の場合は後継者を見つけなければ潰れてしまいます。このような理由から、独立の需要はあるといえるでしょう。
薬剤師が開業する4つのパターン
薬剤師が独立する方法には、主に4つのパターンがあります。ここでは、それぞれのパターンの特徴やメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
院内から院外への切り替えによる薬局開設
院内処方で診療を行ってきたクリニックや病院が、院外処方に切り替えるパターンです。既存の患者さんがすでに数多くいるため、数字が読みやすく、立ち上がりも早いため、不確定要素が少ない方法です。初期投資の回収の目途も立ちやすく、院外への切り替えに伴い、クリニックの医師は診療に集中できますし、患者さんにとっても相談窓口が増えることで三者に理がある形と言えます。
しかし、日本薬剤師会によると、令和5年2月の医薬分業率は79%でした。そのため院内から院外へ切り替えを検討している医師を見つける事は相当難しい状況です。ですが、クリニックや病院も後継者不足のため、M&Aで譲渡されるケースも多く、院長が変わるタイミングで院外処方へ切り替える場合もあります。そのため、このパターンで独立できる可能性もゼロではありません。
▽参照
日本薬剤師会 | 医薬分業進捗状況(保険調剤の動向)
クリニックと薬局のダブル新規
新たに開業する医師と一緒に開業するのが2番目のパターンです。最も大きなリスクは開局後の赤字期間です。そのため、この赤字期間をできるだけ短くできるかが独立成功へのカギとなります。ですが、実は町のクリニックや病院の3割は赤字と言われています。2022年の診療所の倒産は過去最多の22件でした。これらの状況も踏まえたうえで慎重に判断していく必要があります。
ですが、一方で、ゼロベースで医師と共に理想的な医療提供を目指すことができます。立ち上がりさえ早く見込めれば、初期投資も抑えた形での開業が可能となります。勇気が必要なパターンですが、リスクを考えたとしても一緒に地域医療を支えたいと想える医師との出逢えたとしたら、チャレンジの価値はあるかもしれません。
M&A仲介会社からの紹介
M&A仲介会社から、薬局を売却したいオーナーを紹介してもらうパターンです。譲渡譲受と呼ばれる方法です。一般的な形は事業の切り離しとして行われる事業譲渡です(他の形として株式譲渡などもあります)。この場合、かかる費用は「営業権」「仲介手数料」「薬剤購入費」等に加えてレセコンのリース代などです。
営業権とは、「のれん代」と呼ばれるもので、その場所で営業を続けていく権利を買うというイメージです。一般的な相場は営業利益の3~5年分です。営業利益とは、損益計算書上に表される利益のひとつです。売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」から、さらに人件費などの経費を差し引いて計算します。例えば、営業利益で1ヵ月あたり30万円でている場合、営業権3年分だと約1,000万円となります。ですが、近年売却で出ている薬局には営業利益が低いものもあり、出ていない場合はゼロの場合もあります。
仲介手数料とは、仲介業者へ支払う手数料。これは紹介会社によって落差が激しいです。かなり法外な金額を提示される場合もあるため情報収集は必須です。特に“相場感”については注意しましょう。
薬剤購入費とは、すでに在庫として持っている薬剤を購入する場合、売り主と交渉し薬価(もしくは購入費用)の〇〇%という形で支払います。実際の在庫金額と申告金額との差異によりトラブルも起きやすいため、棚卸を実際に行って実金額を把握する事をおすすめします。
このパターンだと、営業をしてきた店舗のため数字や患者さんの傾向が読みやすいため、経営の見通しや資金調達がしやすいという特徴があります。営業権や仲介料には注意が必要ですが、独立するための方法としては採用しやすいパターンと言えます。
独立支援やフランチャイズ制度がある会社と組む
最後は独立支援やフランチャイズ制度会社と一緒に開業するパターンです。この方法はメリット・デメリットの差が激しいと言えます。
例えば独立支援制度がある会社へ入社した場合。案件が来た際に株式を半分ずつもち会社を設立し軌道に乗るまでサポート受けながら経営を学び、数年後、株式を買い取る形で完全独立という形があります。理想的!と感じるかもしれませんが、実は最もトラブルにもなりやすいです。3年で、という話が4年、5年と伸びるケースなどもあり、相当な信頼関係がなければ成立は難しいといえます。
一方で、フランチャイズ制度を活用する場合、開業まではスムーズにいく可能性は高い半面で、ロイヤリティを支払い続けなくてはならないという状況が続きます。ロイヤリティとはフランチャイズとして開業をしたり、ノウハウを教えてもらったりすることに対しての対価です。ですが、このロイヤリティをめぐって親会社との訴訟になるケースも少なくなく、デメリットも大きいパターンと言えます。
ですが、独立支援やフランチャイズ制度で独立開業する場合、独立後も相談できたりサポートを受けたりすることができるため、経験値がまだ少なく、経営や運営に不安がある人にとっては、助かるケースともいえます。
薬剤師が独立するメリットとは?
薬局や病院で勤務する薬剤師が大多数を占めているなか、独立を選ぶのは勇気がいることかもしれません。独立にはもちろんデメリットもありますが、雇われとして働いているのとはまた違ったメリットもあります。ここでは4つのメリットについて見ていきましょう。
自分の理想の薬局を作れる
独立することで、理想の環境を整えた薬局を作れます。自分で薬局の方針を決められるため、薬局の経営方針を決めたり扱う薬を自由に選択できたりすることがメリットです。OTC医薬品に力を入れるのも良いでしょう。自分がやりたい、これは実現したいと思うことだけに注力できます。
内装や外装を自分の好きなようにしたり、薬局オリジナルのグッズを作ったりしている方もいます。世界に一つしかない、自分の理想を追求した薬局を作るという経験は、独立した薬剤師にしかできません。
自分の裁量で仕事ができる
独立すると、ある程度は自分が好きなように仕事ができるようになります。雇われの場合は職場で決められたシフトに従って勤務することになりますが、独立すれば自由に出勤することも不可能ではありません。従業員を雇用したり自分でシフトを調整したりすることで、柔軟な働き方を実現できます。
また、定年がなくなるため、老後もしっかり働きたいという方はそのまま経営を続けることもできますし、ゆっくりしたいという方は早めに引退することもできるでしょう。後継者がいる場合は薬局を譲るという選択肢もあります。
収入を上げることができる
独立をすることで、大きく収入を上げられる可能性があります。雇われ薬剤師の年収は、およそ500~600万円です。管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職に就くと、600~800万円ほどになるといわれています。
一方で、独立した薬剤師は年収1,000万円を超えることも夢ではありません。複数店舗の独立を成功させ経営を軌道に乗せると、さらに収入を上げられる可能性もあります。雇われ薬剤師では難しい年収を目指せるため、収入を大きく上げたいと考える薬剤師には良い機会となるでしょう。
スキルアップになる
独立によってスキルアップすることも可能です。といっても、雇われ薬剤師として働くときに得られるスキルとは少々違います。薬局や病院で働く薬剤師は薬に関する知識を身につけていくことになりますが、開業した場合は経営のノウハウやコミュニケーションスキルなどを得ることができるのです。
独立したからこそ体験できることが多くあるため、開業によって自分自身をレベルアップさせることができます。独立はゴールではなくスタートにすぎません。理想とする未来を描きながら働くことで、大きくスキルアップできるでしょう。
薬剤師が独立するデメリット
薬剤師が独立する一番のデメリットは、独立が絶対に成功するわけではないというリスクが伴うことです。赤字の病院やクリニックの門前として薬局を構えれば、当然のことながら利益はあまり期待できません。
毎月のように決まった額の給料が振り込まれる雇われの薬剤師とは違い、経営がうまくいかない場合は収入が減ってしまう可能性もあります。
また、独立してもしばらく赤字経営が続いたり、初期費用として数千万円かかってしまったりすることもあります。急なトラブルがあれば休日でも関係なく薬局に出向かなければなりません。
自由を手に入れるために独立したものの、かえって時間を拘束されてしまったという薬剤師もいます。このほか、働く場所が限局されてしまうこともデメリットです。独立すると万が一子どもの進学や両親の介護などのイベントが起きたとしても、勤務先を柔軟に変えることができません。
薬剤師が独立するのは難しい?
薬剤師が独立するのは簡単なことではありません。何かにチャレンジしたい、自分が理想とする薬局を作りたいなど、大きな目標がないのに独立してしまうと、ただ大変な思いをするだけになってしまう可能性があります。
また、独立のチャンスを掴むことも意外と難しいものです。独立したいと思ったタイミングで開業を考えている医師と出会ったり院外処方へ切り替えようとしている医療機関を見つけたりするのは難しいです。
独立支援やフランチャイズ制度を利用する手もありますが、独立したからといって100%成功する保証はありません。経営を軌道に乗せるためにどのようにして患者さんを集めたら良いのか、どうやって加算を増やしていけばいいのかなども考える必要があります。
調剤報酬改定の影響で利益が減ることもありますし、薬剤師を雇った場合は従業員が生活できるように責任をもって経営を行っていかなければなりません。
リスクを負いながら自分で考えて自分で行動する機会が増えるため、独立は雇われとして働くより難しいと感じる方が多いでしょう。
成功するためのポイント
独立を成功させるためには、どのようにして生き残るのか戦略をしっかり考えることが大切です。患者さんを確保する方法、再来してもらう方法、不必要な経費を減らす方法などを考える必要があります。ただ闇雲に独立しても、経営はなかなか軌道に乗りません。
近年では、薬局経営者にとっては不利な調剤報酬改定が進められていることから、利益を出すことがどんどん難しくなっています。覚悟をもって独立し、しっかり戦略を立てることが成功するためのポイントです。
スケジュール管理が重要
薬剤師が独立するにあたって、スケジュール管理はとても重要になります。独立するには、いくつもの手続きを踏まなければなりません。保健所での検査や厚生局での審査を受ける必要もあります。
まず、開局したいと考えている2ヵ月前の10日ごろには薬局開設許可申請書を提出するようにしてください。その後、開設届や保険薬局指定申請書などを提出します。
書類の審査が通るまでには少し時間がかかるため、余裕をもって提出するように心がけましょう。いつ人員を雇っていつから働いてもらうのか、いつから薬を発注して棚を作り始める必要があるのかなども開業予定日から逆算して進めていく必要があります。
資金の調達や人脈の形成を心がける
薬剤師が独立するためには、ある程度のまとまった資金が必要です。数百万円で済むこともありますが、数千万円かかることも珍しくありません。資金をすぐに用意することは難しいため、どのようにして調達するのかを早めに調べておきましょう。
通常は、自己資金と融資を組み合わせて調達します。また、人脈の形成も大切です。人脈があれば開業を考えている医師とつながれたり、開業した薬局で力になってくれる薬剤師を見つけたりすることができます。
また、独立をするにあたって、人脈に助けられることは意外と多いものです。独立をしたいと少しでも考えている方は、早めに資金の調達や人脈の形成に力を入れ始めるようにするのをおすすめします。
まとめ
薬剤師が独立をするのは、決して楽な道のりではありません。経営がうまくいかなかったり、人員が集まらなかったりして思い通りにいかないこともあります。しかし、独立すれば自分が理想とする薬局を作れますし、好きなように仕事をすることが可能です。
もちろん独立にはリスクが伴いますが、独立をするからこそ得られる経験もあります。資金調達や人員確保などの事前準備をしっかりと行い、情報収集をうまく行いながら独立に向けて進めていきましょう。
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