目次
そもそも疑義照会とは
疑義照会とは、処方箋を発行した医師や歯科医師などに処方内容について問い合わせることです。厚生労働省の調査によると、発行された処方箋の約3.5%が疑義照会されていると言われています。
処方箋の内容が誤っていたり疑問点があったりする場合は、疑義照会をして問題を解決しなければ薬剤師は調剤を行うことができません。なぜなら、そのまま調剤すると患者さんに健康被害をもたらす恐れがあるためです。
用法用量が適正か、ほかの医療機関で処方された薬と重複しているものがないか、相互作用がある薬がないかなどを確認します。
疑義照会には、大きく分けて形式的疑義照会と薬学的疑義照会の2つがあります。
出典:医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)(厚生労働省)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103268.pdf
形式的疑義照会
形式的疑義照会とは、処方箋に記載不備があった際に行うものです。主に以下のような点を確認します。
- 薬剤の規格が書かれているか
- 用法用量が正しく書かれているか
- 医師の記名または押印があるか
- 向精神薬や新薬などの処方日数が制限を超えていないか
- 販売中止品や名称変更品目が処方されていないか
- 偽造した処方箋でないか
- 処方箋の有効期限が切れていないか
処方箋の有効期限切れは意外と多く見られるので注意しましょう。発行日を含めて4日以内の処方箋でなければ調剤できません。また、複数枚の処方箋が発行されている場合は、全ての処方箋を患者さんから受け取っているかどうかも確認します。
薬学的疑義照会
薬学的疑義照会とは、薬学的観点から処方箋の確認を行い、必要に応じて行う疑義照会のことです。主に以下の内容を確認します。
- 患者さんに禁忌や慎重投与の薬が処方されていないか
- 相互作用に注意が必要な薬が処方されていないか
- 副作用歴のある薬が処方されていないか
- 適切な用法用量が記載されているか
- 患者さんの症状に適した薬が処方されているか
- 残薬がないか
- アドヒアランスが良好か
禁忌や慎重投与、相互作用など薬学的に問題がないかをチェックし、問題があれば疑義照会を行います。患者さんの健康状態に直結する問題がある場合もあるため、しっかり確認しなければなりません。
残薬については処方箋を見ても有無がわからないため、残っている薬がないかを患者さんに確認する必要があります。
疑義照会が重要な理由
そもそも、なぜ疑義照会が重要視されているのでしょうか。その理由として、次の3つが挙げられます。
法律(薬剤師法)で定められている
疑義照会は、薬剤師法によって義務化されています。薬剤師法第24条では、次のような記載がされています。
“薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。”
出典:薬剤師法(昭和三十五年法律第百四十六号)(e-Gov法令検索)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000146
このように、処方箋に疑わしい点があるときは疑義照会をしなければならないと法律で決められているのです。疑わしい点があるにもかかわらず疑義照会をせずに調剤した場合は、罰則を受けたり、裁判で過失を問われたりする可能性があります。
患者さんを健康被害から守る
患者さんを健康被害から守るのも疑義照会の重要な役割です。処方箋には、患者さんに禁忌の薬や併用注意の薬が記載されている可能性があります。用法用量が間違っている可能性もゼロではありません。
処方箋の誤りに気が付かずに調剤したことにより、生後4週間の新生児が呼吸困難やチアノーゼを起こしたり、入院患者が死亡したりした例が実際にあります。このような健康被害から患者さんを守るためにも疑義照会が必要なのです。
多くの処方箋はそのまま調剤しても問題ありませんが、まれに死亡事故を招くような誤りがある処方箋もあるため、しっかりとチェックを行う必要があります。
医療費の削減
疑義照会は、医療費の削減を行うためにも重要な役割を果たします。残薬の調整や重複薬の削除などを行うことで、医療費削減に貢献できるのです。厚生労働省が公表している「医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)」によると、疑義照会によって年間約118億円もの医療費を削減できると推計されています。薬剤師一人ひとりの力が合わさると、これだけの金額を削減できるのです。
また、疑義照会によって副作用を回避できれば、副作用の治療に使われる医療費も削減できます。重複投薬や相互作用を疑義照会により防止できた場合は、加算を取ることも可能です。
出典:医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)(厚生労働省)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000103268.pdf
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疑義照会は難しいのか
「疑義照会は難しいもの」と感じている薬剤師もいるでしょう。たしかに疑義照会は簡単ではないケースもあります。
疑義が見つかるタイミング
疑義が見つかるタイミングで最も多いのが、処方箋の受付時です。日本薬剤師会が行った「2010年度薬剤服用歴活用、疑義照会実態調査」の結果によると、疑義照会が発生したタイミングの52.6%が処方箋の受付時、22.4%が患者さんの薬歴の確認時、21.1%が服薬指導のときでした。
過半数は処方箋を受け付けた時点でわかる疑義となっています。内容としては、8割以上が薬学的内容に関するものです。
出典:【日薬調査】薬学知識生かし疑義照会‐7割が処方変更(薬事日報)
https://www.yakuji.co.jp/entry24690.html
知識と経験が必要
疑義照会を行うためには、まず疑義に気付ける知識と経験が必要になります。薬剤師としての経験値がないと、そもそも疑義照会が必要なこと自体に気が付きません。薬には、さまざまな禁忌や併用注意、副作用があります。少なくとも自分が勤めている薬局で取り扱っている薬に関しては、知識をしっかりと身に付けておかなければなりません。
また、患者さんから必要な情報を得るためのコミュニケーションスキルを身に付けておくことも大切です。割合としては少ないものの、服薬指導時に疑義に気が付くケースもあります。
疑義照会が困難なケースも
疑義照会を行おうと思っても、すぐにできないことがあります。例えば、医師が忙しいときは電話をしても事務の方に「今、診察中なので…」と断られてしまうこともあるでしょう。後でまたかけ直してほしいと言われることもあります。
疑義を解決しないことには調剤ができないため、患者さんを待たせてしまいクレームにつながることも珍しくありません。なぜ調剤が遅れているのかを患者さんが納得できるように説明できるスキルも必要なことから、疑義照会が難しいというイメージを抱いてしまう場合があります。
疑義照会の書き方
疑義照会を行った場合は、処方箋と薬歴にその旨を記載しておく必要があります。ここでは、具体的にどのようなことを記載すべきか見ていきましょう。
処方箋への記載
疑義照会をした場合は、処方変更が不要な場合も備考欄または処方欄に疑義照会をしたことがわかるように記録を書きます。処方箋に書く必要がある内容は次の通りです。
- 疑義照会をした年月日、時刻
- 疑義照会をした医師名
- 疑義照会を行った薬剤師の押印
- 疑義照会が発生した理由
- 疑義照会をして得られた医師からの回答
薬局や病院によって書き方にルールが設けられている場合も多いため、あらかじめ書き方の確認をしておきましょう。基本的には黒または赤のボールペンで記載します。
薬歴への記載
疑義照会を行った場合は、薬歴にも記録が必要です。以前は調剤録への記録が必須でしたが、現在は薬歴に記入していれば調剤録への記録は不要となりました。調剤録への記録内容は、処方箋に書くべき内容と同じです。
- 疑義照会をした年月日、時刻
- 疑義照会をした医師名
- 疑義照会を行った薬剤師の押印
- 疑義照会が発生した理由
- 疑義照会をして得られた医師からの回答
基本的に、処方箋に記載した内容と同じものを調剤録に書いて問題ありません。電子薬歴のシステムによっては、SOAPの欄とは別に疑義照会について記載する項目がある場合もあります。
疑義照会を行う際の注意点
疑義照会をスムーズに行うためには、いくつか注意点を押さえておくことが大切です。ここでは、形式的疑義照会と薬学的疑義照会の注意点をそれぞれご紹介します。
形式的疑義照会の注意点
形式的疑義照会では、次の点に注意しましょう。
- 疑義照会した理由と医師からの返答を必ず記載する
- 処方箋に記載漏れが合った場合は、直接書き足さず備考欄に記載する
- 薬剤変更、処方制限などによって分量や処方日数が変わった場合はその旨も記載する
疑義照会した場合は、どのような内容を問い合わせて、どういった返答をもらったのかを必ず記載します。何も記載しないまま元の状態で保存しておくと、後から処方箋を見たほかの薬剤師が「疑義照会をしていない」と勘違いし、再び医師に問い合わせてしまう可能性があるためです。
薬学的疑義照会の注意点
薬学的疑義照会では、次の注意点を押さえておきます。
- 疑義照会を行うことになった理由を記載する
- 疾患名や検査値などがわかった場合は情報を記載しておく
- 疑義照会が必要と判断するに至った情報を記載する
用法用量に誤りがあったのか、それとも禁忌の薬が処方されていたのかなど、なぜ疑義照会を行う必要があったのかを必ず記載してください。
どのような経緯で疑義照会が必要と判断するに至ったのかも同時に記載します。疾患名や検査値などの情報がわかった場合は、こちらについても記載しておきましょう。
疑義照会を行う際のポイント
ここでは、実際に疑義照会を行う際に押さえておきたいポイントを4つご紹介します。どれも疑義照会を円滑に進めるために欠かせないものなので、しっかり理解しておきましょう。
疑義照会に必要な情報をあらかじめ用意しておく
疑義照会を行う際は、医師に電話をかける前に必要な情報をあらかじめ用意しておきます。何も準備せずに疑義照会してしまうと、医師から代替案を聞かれたときにすぐ答えることができません。何度も電話をかけるはめになり、医師にも患者さんにも迷惑をかけてしまいます。
薬剤を変更する必要があるのならどのような薬が候補となるのか、どれくらいの分量が適切なのかなど、医師から聞かれる可能性があることに関しては事前に情報を集めておきましょう。一度の電話で疑義照会を完結できないと、医師から注意される恐れもあります。
要点を簡潔に伝える
疑義照会では要点を簡潔に伝えるスキルが必要です。医師は多忙のため、疑義照会の対応に長く時間を取れない場合が少なくありません。
電話をかけながら伝えたいことを考えていると話が長くなり、しかも要点がわかりづらくなります。疑義照会を行う前に何を医師に伝えたいのか、要点をまとめるようにしてください。
「◯◯様の処方箋についてお尋ねです。用法用量が変更になっているようですが、お間違いないでしょうか?」などのように、聞きたいことをなるべく早い段階で伝えることがポイントです。要点を簡潔に話さないと、多忙な医師の迷惑になる可能性があります。
医師と信頼関係を築いておく
疑義照会をスムーズに行うためには、医師との信頼関係を築いておくことが欠かせません。医師の中には、疑義照会は「自分の処方に文句を言われている」と感じてしまう人もいます。そのため、疑義照会をされることに嫌悪感を示す医師もいます。
信頼関係が築けていない状態で疑義照会を行うと、会話がギクシャクして気まずい思いをしてしまうこともあるでしょう。お互いに嫌な思いをしないためにも、信頼関係を築けるように普段から意識しておきます。
例えば、時間があるときに挨拶に行ったり、医師からヘルプがあったときは親身になって相談に乗ったりすることが有効です。
医師や患者さんへの配慮を忘れない
疑義照会によって、医師に時間を作ってもらったり、患者さんを待たせたりすることが多々あります。医師が時間を割いてくれるのも、患者さんが待ってくれるのも決して当たり前のことではありません。
時間を割いてくれること、待ってくれることに感謝し、できるだけ医師や患者さんに負担をかけないように配慮することが重要です。
手短に疑義照会が終わるように要点を簡潔に伝え、一度の電話で終わるように必要な情報を事前に収集しておきます。患者さんには処方箋の内容で医師に確認がいるので時間がかかることを説明しましょう。
電子薬歴のご相談はメディコムに
患者さんの薬歴の管理がしやすい電子薬歴をお探しの方におすすめしたいのが、メディコムの電子薬歴「PharnesX-MX」です。「PharnesX-MX」には重複投薬チェックの機能がついており、同種同効薬や配合剤成分の重複を自動で確認できます。
また、患者さんが服用しているOTC医薬品を登録しておけば、OTC医薬品と処方薬の相互作用のチェックも可能です。ミスを未然に防ぐ機能が豊富に搭載されている「PharnesX-MX」なら、疑義照会をはじめとする調剤業務をスムーズに行えます。
ポイントを把握し、円滑な疑義照会を
疑義照会とは、処方箋に誤りや不明点がある際に医師や歯科医師などに問い合わせることです。処方箋に疑わしい点がある場合は、疑義照会が必要と法律で定められています。
また、患者さんを健康被害から守ったり医療費を削減したりするために重要な役割を果たすため、疑義照会は薬剤師の業務の中でも重要視されているのです。
医師や患者さんに負担をかけることなく疑義照会を行うためには、いくつかポイントを押さえておく必要があります。ポイントをしっかり把握し、円滑な疑義照会ができるように心がけましょう。
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