医療現場のDX推進、地方の中小規模病院にみる課題と取り組みを探る
デジタル技術を活用して組織の変革や業務改善、医療の質向上を実現する医療現場におけるDX化推進は、医療機関の規模にかかわらず求められています。しかし、病院DX化を図るにはICT化予算はもちろん、デジタル技術に精通したスタッフの確保などさまざまな課題があり、特に中小規模病院のなかには病院DX化に踏み切れない病院も少なくありません。一方、政府は医療DX推進に対して次々と施策を打ち出しており、その対応は待ったなしの状況です。そうした中、医療法人社団 秋桜 丸川病院(38床)は、電子カルテをはじめとするデジタル技術を活用しながら業務改善に取り組んでいます。中小規模病院が抱える課題とともに取り組みの実状を、丸川浩平院長、中島和彦本部長にお話を伺いました。
※本内容は公開日時点の情報です
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目次
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一般・療養型中小規模病院向け電子カルテ「CKシリーズ」導入事例
医療機関様概要

医療法人社団 秋桜 丸川病院
住所:富山県下新川郡入善町青島396-1
開業年月:1979年9月
理事長:丸川 忍 氏
院長:丸川 浩平 氏
診療科目:脳神経外科・神経内科・整形外科・内科・消化器内科・リハビリテーション科
病床数:38床(一般病床)
従業員数:109人
Webサイト:http://www.marukawa-hp.com/
職員全員の定時退勤に向け業務改革を推進
富山県新川郡入善町の丸川病院は、1979年に現理事長の丸川忍先生が脳神経外科病院として開院。現院長の丸川浩平先生が2005年に着任・継承してから脳血管疾患患者のリハビリテーションを強化し、亜急性期治療亜急性期・回復期医療を担ってきました。2016年2月に新病院の移転・新築を機に、一般内科・消化器内科を新たに標榜し、急性期医療を担う近隣の黒部市民病院との連携により地域医療を支える地域包括ケアシステムの構築を推進しています。
同院は、ウィーメックスの病院用医事一体型電子カルテシステムによる外来業務のデジタル化を経て、2020年1月に一般・療養型中小規模病院向けWeb型電子カルテシステム「Medicom-CK」を導入・運用(現在は後継のMedicom-CKⅡを運用)されており、院内情報のデジタル化とともに業務改革に取り組んでいます。こうした医療現場のICT化推進の端緒には、丸川先生が院長を継承したときからトップダウンで進めてきた業務改善活動、職員の働き方改革があります。
丸川先生が院長を継承したときに感じたことは、多くの職員の退勤時間が遅く、残業が常態化していたこと。その職場環境を何とか改善したいという気持ちが業務改善を主導する動機でした。
また、病棟看護師として応募・採用された看護師のほとんどが幼児・小児を抱えている母親が多く、15時30分あるいは16時に退勤する時短勤務が基本だといいます。「時短勤務の職員が就業時間内に仕事を終わらせようと忙殺されているなか、通常勤務の職員は残業になってもいいと非効率な仕事を続けてしまうと、職員間の分断にもなりかねません」(丸川院長)とし、時短勤務者のみならず、職員全員が早く終業できるようにすることが命題であり、そのために就業時間内に効率的に業務を行うための改善、就業規則の改定などに取り組んできたといいます。
電子カルテ導入で加速する業務改善活動
定時終業できるような職場環境にしようという考えで病院を運営する中、その実現のためにどのように業務改善するべきか、そこに電子カルテをはじめとしたICTをどう活用すべきか考えてきたという丸川院長。
「電子カルテ導入に際し、3つの目的を明確にし、『そこに向かっていくためにどうすべきか』と進めてきたので、職員からの大きな反発はありませんでした。その目的は、定時退勤すること、看護の質を向上させること、診療報酬上の記載をしっかりとすること、の3つです」(丸川院長)
電子カルテを中心とした医療情報システムを活用することで、業務改善はトップダウンによるものだけでなく、現場職員を中心としたボトムアップの動きもみられるよう変化したと言います。
「プロセス改善による成功体験が生まれると、職員自ら『ここも変えられるのではないか』と考えるようになり、改善活動がより進むようになりました。その都度、入力項目の変更など、使いやすくケア上も成果に結びつく改善活動が進展しています」(中島氏)
政府主導の医療DX、対応には補助金が必須
日々、継続的な業務改善の推進を実践していくために電子カルテなどを活用している丸川病院ですが、一方で政府は医療DX推進のための各施策を次々に展開しています。周知のとおり、オンライン資格確認の導入、マイナ保険証の利用勧奨、電子処方箋運用、電子カルテ情報共有サービス運用などが具体化されつつあります。こうした現状について、病院経営者としてどのように捉えられているのか伺いました。
「政府が医療現場にもDX化を促すことは基本的に良いことと思っています。ただ、施策の対応には医療機関側に持ち出しのコストが発生し、中小病院にとってその負担が小さくないのは事実。基本的には助成金などを活用しながら進めていくことになります」(丸川院長)
同院では電子カルテ導入以降、早い段階でオンライン資格確認システムへの対応や電子処方箋運用も準備し、すでに運用申請も行っています。「今後、医療機関あるいは患者にとって、より便利で役立つサービスが提供されていくのだと思います。医療機関経営者としては、いずれ対応が義務付けられるのであれば、早めにシステム環境を整えていこうと考えています」(丸川院長)と説明します。
オンライン資格確認については早い段階で導入・運用されており、患者同意が得られた際、他院の診療情報が臨床現場で閲覧できる環境が整っています。「実際に運用してみると、他院の算定内容からどのような検査や処方が行われてきたかがわかりますし、健康診断時の血液検査結果なども事前にわかり、診療に役立ちます。報道等でマイナンバーカードに良い印象をお持ちでない方もいらっしゃると理解していますが、私は利便性や診療精度が高まるのであれば積極的に活用したいと考えています」(丸川院長)と施策への理解を示しています。
今後、計画されている電子カルテ情報共有サービス(3文書・6情報の共有化)についても、「取得した情報を政府がどのように活用していくかについては、理解が追い付いていない部分もありますが、患者サマリー(療養計画書)を登録すれば、現在の生活習慣病管理料における療養計画書の作成・交付などが不要になると聞いています。医師の負担軽減や医療機関側のメリットがあるものも少なくないと理解しているので、良いものは積極的に活用したいと思います。そのためにも医療機関が負担する対応コストを支援する制度を充実してほしい」(丸川院長)と要望しています。
サイバーセキュリティ対策、ベンダーなどの支援が不可欠
電子カルテをはじめとする医療情報システム内で管理されている健康情報は、個人情報の中でも極めて機微な情報として取り扱われる「要配慮個人情報」に分類され、医療機関は、これらの情報を適切に管理するために、厚生労働省の発行する「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」への対応が求められます。そして、同ガイドラインは規模の大小を問わず、すべての医療機関等に適用されます。また、昨今は医療機関を対象としたサイバーセキュリティ攻撃による甚大な被害も発生しており、医療機関は否応なく対応していかなければならない時代となりました。こうした事態は、医療情報部門を持たないことが多い中小医療機関にとっては大きな課題でもあります。
大規模病院のようにシステム部門を組織化することは、中小医療機関では困難であり丸川病院も例外ではありません。サイバーセキュリティ対策について、丸川院長はランサムウェア被害の実例からもわかる通り、どこの医療機関も被害に遭う危険性があると指摘。「サイバー攻撃被害は当院にとっても起こり得ることを前提として対策することが大切だと考えています。そして、万が一の際は被害を最小限に食い止める対策を事前に立案しておく必要があると思います。ただ、当院のような中小医療機関では自院だけで対策立案することは難しく、ウィーメックスや販売代理店の支援を得ながら対応をしています。費用がかかる対策についても、導入コストを鑑みながら自院にとって適切だと思う対応をしていくことが重要だと思います」(丸川院長)。
ただ、システムベンダーの支援が不可欠であるとはいえ、システムベンダーに丸投げすると本質的な対応から逸れてしまうと強調。「システムベンダーから適切な情報提供をしてもらい、病院側がそれらを加味した経営判断をしていく必要があると思います。過大なセキュリティ投資をして、本業収益を圧迫することは本末転倒。医療機関とシステムベンダーが協働して、自院にとって適切なサイバーセキュリティを確保していくことが重要と考えています」(丸川院長)とし、医療情報システム運用のガバナンスを確立していくと話しています。
また、中島氏は「医療情報システムの安全な運用において、職員の訓練も重要だと考えています。何をやるべきか、何をしてはいけないのか、院内各部署の責任者を通じて、しっかり周知するとともに最新情報を共有していく必要があります」(中島氏)といいます。