在宅医療の必要性が高まっている昨今において、患者さまの自宅や施設への訪問サービスに取り組む薬局が増えています。また、なかには在宅に特化した「在宅専門薬局」も見られるようになりました。薬剤師や薬局経営者である皆さまのなかには、こうした在宅専門薬局の開業の流れや通常の薬局との違いなどについて気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、在宅専門薬局について解説するとともに、開業の4つのポイントを紹介します。
在宅専門薬局とは
在宅専門薬局とは、正式に定義された名称ではなく、一般的に在宅訪問と施設訪問に強みをもつ薬局を指す言葉です。
患者さまの「薬局へ薬を受け取りに行くのが負担になっている」「自宅(や施設)でも安心して服薬を続けたい」などのニーズに応えられる体制を構築しています。
在宅専門と言えども開局にあたっては通常同様の条件のため、待合室などの設置が必要です。 調剤報酬については、場合によって医療保険か介護保険が適応されます。
在宅医療の提供体制で薬局に求められるのは、主に次の4つの役割です。
(1)医薬品・医療機器・衛生材料の提供体制の構築
(2)薬物療法の提供及び薬物療法に関する情報の多職種での共有・連携
(3)急変時の対応
(4)ターミナルケアへの関わり
▼参考資料はコチラ
厚生労働省『在宅医療の基盤整備について(その2)』
これらをふまえつつ、まずは在宅医療に取り組む薬局の数や訪問サービスの種類などを見ていきましょう。
在宅医療に取り組む薬局は増えている
厚生労働省の資料『在宅医療の現状について』によると、薬学管理などの訪問サービスを実施している薬局は増加傾向にあります。医療保険適応の「在宅患者訪問薬剤管理指導料」を算定している薬局数は、2018年4月が6,177件、2020年9月には8,230件となり約2,000件増加。また、介護保険適応の「居宅療養管理指導費」を算定している薬局数も、2018年4月が22,657件で、2020年12月は25,569件と約3,000件も増えました。
在宅医療に取り組む薬局が増えている理由は、チーム医療を担う人材の育成や在宅医療の基盤整備、地域単位での在宅医療提供体制の確保など、在宅医療を普及させるために必要な施策を国が推進していることが一因と言えるでしょう。
在宅専門薬局の2つの訪問サービス
在宅専門薬局では、「在宅訪問」と「施設訪問」を行っています。それぞれのサービス内容や実施までの流れについて解説します。
●在宅訪問
在宅訪問は、患者さまの自宅に訪問して薬の利用状況の確認や薬の提供、質問への回答などを行います。主な利用条件は次の通りです。
・歩行困難や認知機能の低下などにより介助が必要で、通院や来局が困難
・自宅での薬の使用や管理に不安があるなど、在宅訪問サービスの必要性が高い
・在宅訪問サービスが必要であることを医師が認め、薬剤師に指示をしている
・在宅訪問サービスの利用に対して、患者さま本人またはご家族からの同意を得られている
在宅訪問の費用は、通常の薬局同様で「薬剤師による調剤や薬学管理にかかわる費用」と「薬代」の合計額です。前述の通り、医療保険もしくは介護保険を適用します。
次に、在宅訪問サービスの提供の流れを見ていきましょう。
(1)患者さまから在宅訪問サービスの利用希望の申し出を受ける
(2)薬剤師が患者さまの状況を訪問などで確認する
(3)患者さまの状況を薬剤師から医師へ報告し、「訪問指示」を仰ぐ
(4)訪問指示を受けた場合は、患者さまにサービス利用について意向を確認する
(5)あらかじめ決めておいた日にち・時間に訪問する
●施設訪問
施設訪問とは、薬剤師が施設に足を運び、主治医の往診に同行したり、服薬指導やバイタルサインチェックをしたりするサービスです。往診同行の後は、処方せんをもとに薬を準備して施設へ届けます。主治医の治療方針やご家族の希望、患者さまの状況などを確認できるため、より良い服薬指導につながります。
一方、施設への訪問では保険上の制限があります。
特別養護老人ホーム(特養)に入所している患者さまに対しては、がん以外の疾患では訪問薬剤管理指導料が算定できません。
在宅医療に薬局や薬剤師が携わる意義とは
在宅医療に薬局や薬剤師が携わることには、次のような意義があります。
・入院治療から在宅療養への移行の促進
・薬物治療の安全性の確保
・介護職や看護職がやむを得ず薬に関与している現状の改善
・多職種との連携とそれぞれの専門性を発揮することによるサービスの品質向上
・在宅医療を提供する医師の負担軽減
・薬の適正使用や副作用の有無などの確認
・患者さまからの相談対応や関係職種への連絡などの分担
これにより、患者さまが最適かつ安心な薬物療法を自宅で行えるわけです。
では、在宅訪問における薬剤師の業務内容や役割などについて、次で詳しく見ていきましょう。
訪問薬剤師の業務内容とは?
訪問薬剤師は、以下の流れで業務を行います。
(1)薬剤師が処方せんをもとに調剤して自宅へ薬を届ける
(2)患者さまの薬の使用状況や生活状況を本人やご家族に確認する
(3)必要に応じて薬の種類や用法用量を変更する
・一包化や粉砕などの調剤の工夫
・錠剤やカプセルなどの剤形を散剤(粉薬)や液剤へ変更
(4)処方した薬について説明のうえお渡しし、次回訪問日の確認を行う
(5)訪問後に医師やケアマネジャーへ報告する
薬局内で行う業務と異なる点は、より安全に在宅医療を利用できるように訪問後に関係者間で情報を共有する点です。
薬局・薬剤師の果たす役割
在宅訪問で薬局・薬剤師が果たす役割は、安全・安心な薬物療法の提供です。これを実現するために、次の業務を行います。
・患者さまへの医薬品、衛生材料の提供
・患者さまの状態に応じた調剤
・服薬指導、支援
・服薬情報と副作用のチェック
・残薬の管理
・医療用麻薬の管理
・在宅医療の担当医への処方提案
・在宅医療の安全性の向上を目的とした医師やケアマネジャーへの情報共有
在宅医療における薬剤師業務には課題も
在宅医療における薬剤師業務には、いくつかの課題があります。厚生労働省の『在宅医療における薬剤師業務について』では、次のような課題が指摘されています。
・薬局に薬剤師が少なく在宅訪問への対応が難しい
・休日や夜間での対応が難しい
・無菌設備がないため対応できない
・医師への報告書の作成などの負担が大きい
・患者さまの自宅への移動時間が長い
・調剤報酬点数が低いため採算が合わない
・医師をはじめとした関係職種から理解を得られていない
・対応できる薬局の周知がされていない
・患者さまから訪問を拒否される
・関係者間でのタイムリーな情報共有が難しい
・麻薬調剤の負担が大きい
これらの課題を解決するには、薬剤師をはじめとした薬局スタッフの確保や業務効率化のためのツールの導入、国による在宅医療のさらなる推進などが必要でしょう。
また、実際の薬局経営においては、次のような意見も聞かれます。
・在宅の対象患者が見つからない
・営業したくても方法が判らない
・無菌、緩和ケアに対応するだけの基本的知識がない
在宅専門薬局が普及するためには、経営ノウハウの共有や情報提供が求められているわけです。
在宅専門薬局の開業・運営における4つのポイント
在宅専門薬局の開業方法は、通常の調剤薬局を開業する方法と同じです。
(1)薬局開設許可申請書などを保健所に提出
(2)保健所の検査が入る
(3)厚生局は開設届と保険指定申請書を提出
(4)厚生局指定の審査会が行われる
(5)すべての許可申請をクリアすれば開設できる
それでは、在宅専門薬局を開業・運営するにあたり、薬局経営者が取り組むべきポイントについて解説します。
1.在宅医療に取り組む医師との連携
在宅訪問を行ううえで医師との連携は欠かせません。地域で在宅医療を行っている医師と連携する必要があります。連携には信用を獲得することが必要なため、実際に在宅医療のチームを結成できるまでに数年を要するケースもあるでしょう。
医師との連携に必要なのは、薬局(薬剤師)として患者さまに関わることに覚悟を決められているかどうかです。
2.多職種のスタッフに薬剤師業務への理解を深めてもらう
在宅医療を行う薬剤師の業務は、まだ理解されていない部分が多くあります。
たとえば、さまざまな業務を担う看護師が薬のセットをしているケースも多く見られます。薬剤師がチームに加わりそうした業務に取り組むことで、看護師が患者さまに対応する時間を確保しやすくなるでしょう。
このように、まずは薬剤師の必要性や担える役割について周知する必要があります。
3.クリーンルーム(無菌室)の設置
クリーンルーム(無菌室)は、自宅での中心静脈栄養法で必要な注射薬の調製や医療用オピオイド注射薬の調剤などに必須な設備です。クリーンルームを設置すると、経口摂取のみでは栄養状態の維持が困難な患者さまに対する在宅中心静脈栄養法や疼痛緩和をしながらの自宅療養の支援にも対応できるようになります。
自局に設置しない場合は、地域で共同利用する方法も検討できるでしょう。
4.オペレーションの効率化
在宅専門薬局を運営するうえでは、次のようなオペレーションの効率化が重要です。
●薬剤師以外の人材の活用
薬剤師が在宅訪問を効率的に行うために、ピッキングや一包化、全自動分包機のオペレーションなどを非薬剤師に任せることが国の方針として示されています。オペレーションを効率化することで、より多くの薬剤師が在宅訪問を行えるようになります。
●業務時間の調整
薬局の在宅に関わる業務は、医師の訪問診療が終了してから開始となります。このタイムラグをうまく活用できれば、薬剤師の勤務時間の効率化が可能となるでしょう。
●調剤のロボット活用などによる自動化
そのほか、対人業務・対物業務を分けることが必要だと考えられます。現在、調剤のロボット活用による自動化などが進んでいます。たとえば、処方せんのQRコードを読み取ると、一包化された薬ができ上がります。また、一包化した薬の監査をするロボットなども開発されています。今後はこうしたデジタルの活用が経営のカギになるでしょう。
在宅医療に特化することで専門性と利益を追求できる
在宅専門薬局は、正式な名称ではなく、一般的に在宅訪問と施設訪問を得意とする薬局を指す言葉です。
在宅医療に取り組み利益を上げていくためには、効率的に訪問を行うことが重要と言えます。訪問に特化した在宅専門薬局になることは、専門性を追求しつつ効率的な経営を行えるという点で有効でしょう。
また、より良い在宅医療の提供には、医師や看護師、介護士など多職種との連携が欠かせません。限られた数の薬剤師で業務をまわしていくためのオペレーションの効率化や、特定の薬の調剤に必要なクリーンルームの設置(もしくは地域での共同利用)なども検討すると良いでしょう。
業務の連携や効率化にあたっては、他の医療機関や多職種との情報共有をサポートしてくれる電子カルテなどの導入も検討してみてください。
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