薬局BCPとは?一般企業との違い、目的や策定のポイントなどを解説
昨今、自然災害や人為的災害、パンデミック、サイバー攻撃など、多種多様なリスクにさらされていることから、緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Planning)、いわゆるBCPを考えなければならない時代になってきました。今まで、薬局にBCPは不要と思われてきましたが、前述したようなリスクが大きくなり、不要とは言えなくなってきています。そこでこの記事では、薬局BCPとはどのようなものかについて詳しく解説し、一般企業との違いや策定のポイントなどをご紹介していきます。
※本内容は公開日時点の情報です
目次
BCP(事業継続計画)とは?
BCPとは、災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画のことを言います。従来は、2011年の東日本大震災などのような自然災害対策に主眼を置いてきました。
しかし昨今では、システム障害のリスクやテロによる情報の混乱、さらには、システムが乗っ取られたり、情報を身代金にしたりと、恐喝まがいなことも起きています。情報の喪失も大きく、個人のプライバシーに関する情報が流出してしまうと信用問題にも関わり、取り返しのつかないことになりかねません。
そのため現在では、災害のほか上記のような非常事態が起きた場合にどのように対応するか、事業を継続するための行動指針を定めたものがBCPとされています。
薬局BCPの必要性
一度信頼が失われると、簡単には戻すことができません。今後事業を継続しようにも、大きな問題になるでしょう。また、薬局は医療機関とタッグを組んで地域医療を推進しており、近年、医薬分業が進んだことで、薬局の重要性が増しています。つまり、地域医療では薬局の役割が大きくなり、特に自然災害においては重要性が大きくなっていると言えます。
大規模災害に至らなかったとしても、近年の豪雨災害など、リスクは表面化してきていると言えるでしょう。従業員が出社できないというのも大きなインシデントにつながり、薬局においては大きな問題になりかねません。そういったことを考えても、早速な対応が必要になるのではないでしょうか。
薬局BCPと一般企業BCPの違い
薬局BCPと一般企業BCPにおいては、以下の点で違いがあります。
- 1.災害時における業務量が大きくなる点
- 2.業務範囲が拡大する点
ここから詳しく解説します。
災害時にすべき業務の量
薬局BCPと一般企業BCPの大きな違いとして、薬局BCPは災害時に業務量が増加するという点が挙げられます。
一般企業においては、通常の場合、平常業務も災害の影響を受けることが多く、災害時は平常時よりも業務量が減少します。災害時にできることが限られる他、災害時だからこそ業務量が減ることも多いでしょう。
一方、薬局を含む医療機関の場合は異なります。災害時には負傷者が多く出るため、早急な治療体制の整備が欠かせません。
業務範囲の拡大
もう一つの違いは、薬局BCPは災害時には業務の範囲が増加するという点が挙げられます。
一般企業においては、平常時であっても災害時であっても、その業務範囲にはほとんどの場合、変更は生じません。
一方、薬局の場合は、医療機関と協業して、地域医療を担わなければなりません。災害時に発生する応急業務にはどのようなものがあるのか、把握しておく必要があるでしょう。患者さんや従業員の安否確認に加え、近隣医療機関への連絡、医療救護所への薬剤師派遣などが必要となってきます。
薬局BCPの策定方法
薬局BCPは、以下の手順で決めていくことになりますので、順に見ていきましょう。
被害状況の想定を行う
まずは、被害状況の想定を行います。どのような規模の被害を前提に業務継続を検討するのか、明らかにします。例えば、東京都の「災害時の薬局業務運営の手引き」において想定している大規模地震災害は、首都直下地震を想定した、東京湾北部地震(M7.3)と多摩直下地震(M7.3)、海溝型地震を想定した、元禄型関東地震(M8.2)、活断層で発生する地震を想定した、立川断層帯地震(M7.4)の4類型を考えているため、それぞれにおける被害内容と被害程度を検討する必要があります。
災害時の優先業務を定める
次に、災害時の優先業務を定める必要があります。急性期(発災から1週間まで)は、自薬局を早期に復旧させ業務を継続させることが非常に重要です。そして、区市町村の災害医療計画に基づく医療救護活動を行うことにより、地域における情報の共有化にも努めなければなりません。
具体的には、医療救護所における調剤など、薬剤師の医療救護活動がそれに該当します。特に、超急性期(発災から72時間まで)は、外部からの応援が望めないため、地域内の他の薬局や病院、緊急医療救護所などと連携して災害医療に取り組むことが重要になるでしょう。
業務に必要な資源を把握する
優先業務について、業務を実施するために必要なもの(業務資源)を把握する必要があります。そのためには、事前に何が必要であるか、何が不足しがちなのかリサーチしておく必要があります。
住宅が密集する地域などでは、大規模な火災・延焼が発生することも予想され、電気やガス、水道、通信などのライフラインが一定期間停止することも覚悟しなければなりません。従業員や関係者の身体生活に危機が迫っていないかを確認し、その上で、何が重要になるかの判断が必要です。
その他、ヒト(スタッフ・患者さんなど)・モノ(薬局そのもの・薬剤、薬剤関連材料など)に関する業務が感覚的に重要なことはわかりますが、近年、医療機関関連においては、情報に関する業務の重要性が叫ばれています。レセコンなど情報の保全と再現にも注力していきましょう。
優先業務ごとの評価を行う
BCPでは、日常業務を継続していくことと、業務が進まなくなったり、できなくなったりすることに対する、応急処置業務が求められます。これらについては、全体として業務の進捗を考えた場合の重要性から、取り掛かる順位を決めておくべきです。非常時には情報が混乱しますし、当事者も冷静でいられないことが普通です。順番を決めておくことで、無駄なく復旧にあたることができ、対応も必然的に早くなるでしょう。
業務継続目標を定める
いざというときに業務を継続するためには、道筋を事前に考えておくことが必要です。複数の災害規模を想定して、程度別に分けて考えることが必要になるでしょう。災害の場合、時間経過とともに回復するケースも考えられます。例えば、最小限の薬剤保管を継続的に行い、それ以上のものついては、複数の手段を確保しながら対応するとよいでしょう。
対策を検討し、BCPを継続的に見直す
薬局を取り巻く環境は日々変化しています。当然、ベストな選択もその度に変更していく必要があり、定期的に対策を見直さなければなりません。例えば、周辺情報などは日々更新されていますので、最新情報へのアップデートが必要です。
レセコンについても常に最新情報を持つべきであり、費用が許せば最新のものへリニューアルが必要です。費用的な問題があれば、一部の機能をアップデートするといった対応も検討できるでしょう。
薬局BCPの策定のポイント
求められる可能性が高い業務を優先し、周辺の医療機関の復旧時間に合わせて復旧スケジュールを組むことがポイントとなります。求められる可能性が高い業務を割り出すためには、まず、普段の売り上げ割合が高いものを確認するとよいでしょう。また周囲の医療機関のBCPを参考にさせてもらうのも一つの方法です。連携している医療機関などがあれば、連携できるよう打診してみるのもいいかもしれません。
薬局BCPの策定は、薬局の規模や、周辺医療機関などによりポイントが異なるケースも少なくありません。まずは自薬局に何が求められているかを把握するところから始めてみてください。
2024年度調剤報酬改定までにBCP策定が必要?
介護保険料の請求を行っている薬局の場合、2024年4月までに、BCPの作成義務が課されていることに注意しなければなりません。この作成義務の背景には、過去の大災害において介護認定を受けている方への被害が大きかったことがあります。
感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に供給される体制の構築が求められており、体制の強化が急務となってきています。
負担を強いられるようですが、薬局には、調剤報酬の「連携強化加算」の取得や、また今後は地域支援体制加算の要件に入ることも想定されており、積極的に対応することに特段な不利益は想定されていません。
調剤報酬においても、BCP関連の加算が予想されています。薬局としても、積極的に関与していくことが得策と考えられ、今後の薬局経営では、行政の動きに沿った対応を心掛けていくことが重要です。
まとめ
薬局は一般企業と異なり、医療機関と連携して地域医療を支えていくことが期待されており、一般企業とは位置づけが大きく異なります。地域住民の生命身体を守っていく立場からも、その重要性は非常に大きいと言えるでしょう。
また、個人データを保管すべき立場である点や、また、その個人に対して処方を行う必要があることから、処方情報の提供は非常に重要な役割になります。レセコンでデータを保存し、災害時にもそのデータを確認できるようにしておきましょう。災害時に「生きたデータ」を持つことは、大きな地域貢献にもつながるはずです。
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