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6月7日に閣議決定された「骨太の方針2022」には、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の内容が多く盛り込まれています。骨太の方針のベースとなったのが、5月17日に自民党がまとめた「医療DX令和ビジョン2030」です。その中では、「電子カルテ情報の標準化」や「診療報酬改定DX」など、医療機関の経営に大きく影響をもたらす内容が示されています。
骨太の方針2022
2022年6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022について」(いわゆる骨太の方針)が閣議決定されました。この骨太の方針は、今後の政策運営の中で中心的な役割を担うものであり、今後の医療政策に大きく影響するものです。
出典:「経済財政運営と改革の基本方針2022 について 」(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf
この「骨太の方針2022」の中で、医療DXについて大きく取り上げています。「医療・介護費の適正化を進めるとともに、医療・介護分野でのDXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・質の向上を図るため、デジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの認証制度や評価指針による質の見える化やイノベーション等を進め、同時にデータヘルス改革に関する工程表にのっとりPHRの推進等改革を着実に実行する」としています。
骨太の方針2022における医療DXの項目
具体的な項目としては、以下のような内容が取り上げられています。
○オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。
○2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。
○「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。
医療DX令和ビジョン2030
この骨太の方針2022は、5月17日に自由民主党政務調査会がまとめた「医療DX令和ビジョン2030」という提言を元に作られています。骨太の方針2022よりさらに踏み込んだ内容がまとめられていますので、こちらを中心に「電子カルテ情報の標準化」と「診療報酬改定DX」について、解説していきます。
出典:「『医療DX令和ビジョン2030』の提言」(自由民主党政務調査会)
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/203565_1.pdf
電子カルテ情報の標準化
提言の中で、電子カルテの標準化については、「HL7FHIRを活用して、共有すべき項目の標準コードや交換手順を厚生労働省が定める。まずは検査情報を含む診療情報提供書、キー画像を含む退院時サマリー、健診結果報告書の3文書・6情報を対象とし、順次情報を拡大する」としています。(6情報とは、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方を指しています。)
世界的に利用が進むWebベースの交換規約「HL7FHIR」をベースに、厚労省が情報共有のルールを定め、医療機関間でスムーズに情報活用が進む仕組みを作ろうとする試みです。ルールが決まり、そのルールを遵守した電子カルテであれば、簡単な操作で情報開示や情報共有が図れることを期待しています。ここで注目すべきは、電子カルテシステムそのものの標準化を目指しているのではなく、あくまで電子カルテに記録された情報を交換・共有する部分の標準化であることへの理解が必要です。HL7FHIRでは、共通のAPI(Application Programming Interface)モジュールを利用した情報連携をイメージしています。
電子カルテは義務化されるのか?
2023年12月時点では、電子カルテの導入は義務化されていません。とはいえ、オンライン資格確認システムのネットワークを活用した「電子カルテ情報共有サービス(仮称)」の構築が急ピッチで進められており、電子カルテの必要性が高まっています。
現在、各医療機関では独自のシステム連携をしているため、電子カルテ情報の共有がスムーズに行えない状況です。そこで、電子カルテ情報の標準規格化やシステム開発が進められ、2024年度中には先行的な医療機関から運用を開始する予定です。
2030年までには、おおむね全ての医療機関において電子カルテ導入を目指しており、全国的な電子カルテ情報の共有に向けて、標準化や電子カルテ導入も検討する必要があるでしょう。
電子カルテの普及目標
また、標準型電子カルテの検討に当たっては、このプロジェクトが進んだとしても、「HL7FHIRの活用による厚生労働省標準規格となった項目のみが共有されるため、電子カルテ未導入又はHL7FHIR未導入の医療機関では連携が図られないため、電子カルテの標準化を強力に推進する」としています。 現在、わが国で流通している電子カルテのすべてがHL7FHIRに準拠しているわけではありません。ましてや医療機関の約半数に上る電子カルテの未導入先はいまだ紙での運用であり、早急に電子カルテの普及が必要となります。
そこで、電子カルテの普及目標として、「2026年度までに80%、2030年度までに100%とするという電子カルテの普及率の目標を実現するため、電子カルテ未導入の一般診療所や非DPC病院向けに関して、厚生労働省が主導して、官民協力により低廉で安全なHL7FHIR準拠の標準クラウドベース電子カルテが開発され活用されるための施策(補助金など)を行う」としています。具体的な標準化項目として以下4点を盛り込むことを提言しています。
① 閲覧権限を設定する機能や閲覧者を患者自身が確認できる機能を実装すること
② 診療を支援し、作業を軽減する機能を実装すること
③ 検査会社への発注や受け取りなど検査会社との情報連携の方法を決めること
④ 介護事業所等にも医師が許可した電子カルテ情報について共有できること
提言では、「官民協力により低廉で安全なHL7FHIR準拠の標準クラウドベース電子カルテを開発する」としていますが、これは厚労省が電子カルテ開発ルールを提示し、それに基づき開発された電子カルテを優先的に補助金の対象とすることが予想されます。新規に電子カルテを導入する際の補助金が創設されるとともに、すでに電子カルテが導入されている医療機関に対しても、買い替えやバージョンアップの際も、補助金が利用できるかが重要な争点となります。
医療現場の混乱に配慮
医療機関にとって、電子カルテの新規導入並びに乗り換え、改修は現場に大きな影響をもたらします。そのことを鑑み、同プロジェクトを進めるにあたり、「医療現場に混乱をもたらさないよう細心の注意を払うとともに、最終的には、費用面を含めた医療現場の負担の軽減を実現する」という文言が加えられています。
電子カルテを新規導入する場合は、アナログ運用からデジタル運用に変わることになり、それに伴い、ワークフローの変更、医師及びスタッフのリテラシーの向上が必要となります。また、電子カルテを乗り換える場合は、現システムから新システムへのデータコンバートやシステムのアップグレードが必要となります。
どちらにしてもこれらの変更は、現場に大きな混乱をもたらす可能性があるため、費用、労力、運用といった部分でのサポートが必要になることでしょう。
電子カルテ情報の標準化は、現在進められている「オンライン資格確認」のプロジェクトよりもはるかに難しいプロジェクトであることは間違いないのです。