目次
医療法人とは
医療法人を知る上で重要な定義や目的、種類や要件について解説します。それぞれを把握し、医療法人に関する理解を深めましょう。
出典:医療施設調査(厚生労働省)(PDF)
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/22/dl/02sisetu04.pdf)
定義
医療法人とは、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院の開設を目的として設立される法人を指します。
また、医療法人では業務に支障が出ない範囲内で、寄附行為や定款で規定された条件に沿って附帯業務を行うことが可能です。例えば、医学・歯学に関連する研究所の設置や医療従事者の養成・教育、医療法第39条で規定されていない診療所の開設などが該当します。
一方で、本来の診療に関わる業務や附帯業務を行わず、外部に委託することは禁じられています。医療法人を運営する際は、あくまで医療や介護に即した業務を主体としなければなりません。
とはいえ、医療法第42条に定められた範囲内であれば、附帯業務を通して多種多様な活動を展開することが可能です。
目的
医療法人の目的は、医療提供体制の確保を図り、国民の健康維持に貢献することです。私人である個人事業主とは異なり、資金が得られやすく、医療の質の向上が図りやすいといえます。
種類
医療法人には、「社団医療法人」と「財団医療法人」の2種類があります。
「社団医療法人」とは、医学・歯学の研究や医療の提供を目的として設立される形態です。医師や歯科医師などが集まって設立され、医療・介護の提供を主目的として活動していきます。
設立するためには、不動産・医療機器・金銭などの出資や拠出と、2ヵ月以上の運転資金が必要です。
社団医療法人の理事は、日常的な業務の運営管理者としてマネジメントを行う必要があります。
理事を専任するといった重要事項を確定する際は、最高意思決定機関である社員総会にて閣議を取った上で決定します。
一方で、「財団医療法人」とは、寄付金などで集まった財産や金銭をもとに設立する法人です。厚生労働省の「種類別医療法人数の年次推移」によると、社団医療法人が58,508存在するのに対し、財団医療法人は約394しかありません。(令和6年3月31日時点)
出典:種類別医療法人数の年次推移(厚生労働省)(PDF)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001266062.pdf)
要件
医療法人の要件は、主に以下の3つです。
人的要件
- 社員が3人以上必要
- 役員は理事(理事長含む)3人+監事1人を置くこと
- 理事長は医師または歯科医師である必要がある
- 医療法で規定されている欠格事由に該当する者は役員に就任できない
施設・設備要件
- 医療行為に必要な設備・器具を確保すること
- 少なくとも1カ所以上の病院・診療所・介護老人保健施設を設置すること
資産要件
- 年間支出予算の2ヵ月分の運転資金を有すること
- 個人で保有していた設備を買い取る場合は、別途そのための資金があること
個人病院・診療所と医療法人の違い
個人が経営する病院・診療所と医療法人の違いと医療法人の主な違いは、以下の通りです。
項目 | 個人 | 医療法人 |
---|---|---|
開設時 | 各種届出のみ | 都道府県知事の認可が必要 |
登記 | 不要 | 必要 |
種類 | 病院・診療所 | 病院・診療所・介護老人施設など |
開設可能な数 | 1カ所のみ | 分院の開設が可能 |
決算日 | 12月31日 | 自由に決められる |
決算書の提出 | 不要(青色申告者の場合は必要) | 必要 |
退職金制度 | なし | あり |
立入検査 | なし | あり |
社会保険 | スタッフが5人以下の場合は加入義務なし | 加入義務あり |
医療法人化のメリット
医療法人化すると、さまざまなメリットが得られます。期待できる効果は以下の通りです。
社会的信用が向上する
医療法人化すると社会的信用が向上し、金融機関から融資が受けやすくなります。また、監査報告書や事業報告書などの提出によって財務管理がしやすくなるでしょう。
また、社会的信用が向上することで、優秀な人材の採用や確保がしやすくなります。
人材が多く確保できれば、医療法人化して介護事業や分院展開などを行う際に、配置転換ができるようになります。
また、急な退職や体調不良による欠員が出た場合にも柔軟に対応できるようになるため、リスクヘッジにもつながるでしょう。
従業員がより働きやすい環境を整えると、業務効率や施設全体の売上の向上につなげやすくなるため、社会的信用を向上させることは重要です。
節税効果がある
医療法人では税制面で優遇されるため、節税効果が高いといえます。個人病院(診療所)の場合、売上から経費を差し引いた事業所得に対し、最大税率45%の所得税がかけられます。
一方で、医療法人の場合は年間の事業所得が800万円を超えたとしても最高で23.2%の税率になります。
また、医療法人の財産は国や地方自治体、その他の医療法人に属するため、相続税の負担がありません。
収入は医療法人から役員報酬として得られるため、給与所得控除が受けられるのもメリットでしょう。
さらに、家族がいる場合、役員報酬を分配することでトータルの課税額が抑えられる点も魅力的です。
医療法人化する場合は、節税メリットを活かしていくことができるでしょう。
事業規模が拡大しやすい
医療法人は、分院や介護事業所などの複数施設を経営できるため、事業規模を拡大しやすいといえます。
複数の施設を経営すると、医療法人全体の売上増加が期待できます。また、医薬品や消耗品などを系列グループ全体で購入すると、割安で購入しやすくなるのもメリットです。
また、同系列の施設内で人事異動を行うなどスタッフ体制を柔軟に変えやすくなるでしょう。
事業承継がしやすい
医療法人の場合、理事長の引退や死去によって継承する際、理事長交代の手続きのみで事業承継ができます。
建物や設備、土地などの財産は医療法人に帰属します。個人病院(診療所)のように閉院の手続きや後継者による開院手続きなども必要ないため、手軽に事業承継しやすいといえるでしょう。
また医療法人では相続税や贈与税が課されないため、経営がしやすいというメリットもあります。
事業承継を検討し、節税効果を図りたい場合は医療法人化することをおすすめします。
医療法人化のデメリット
医療法人化すると、運営するためにさまざまな手続きが発生します。以下のデメリットを把握しておきましょう。
運営管理に手間がかかる
医療法人化すると毎年決算終了後、3ヵ月以内に都道府県知事に対して事業報告書を提出しなければなりません。
また、役員重任の登記や資産総額の登記、監事による監査を年1回実施したり、社員総会・理事会の開催を1年に2回実施したりする必要があります。
そのため本来の業務である医療行為に時間を割くことが難しくなる可能性があるでしょう。患者さんへの対応に支障が出ると、施設に対する評判が落ちたり、クレームに発展したりするケースが考えられます。
売上低下を招かないよう、スケジュール管理を徹底しながら医療法人化を検討してください。院内スタッフと協力して役割分担しながら、運営管理を進めていくことをおすすめします。
運営費がかさむ
医療法人化に伴い、健康保険・介護保険・厚生年金などへの加入が必須となるため、運営費がかさむ可能性があります。
社会保険料の掛金は給与の約30%であり、そのうち半分は医療法人が負担する必要があります。
そのためスタッフが多ければ多いほど、事務手続きや金銭的な負担が増えるでしょう。手続きを税理士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼する場合、よりコストがかかるため注意が必要です。
もし、経営が芳しくなかったり、経営が安定していなかったりする場合は運営費の関係から医療法人化ができない場合が想定されます。
医療法人化する際は、施設全体の収支を加味し、現実的な経営が維持できるかを考えて検討しましょう。
負債が引き継げなくなる
開業してすぐの医師が医療法人化する場合は、借入金の引き継ぎが認められなくなるため、医師の役員報酬から返済する必要があります。
もし医師の自己資金に余裕がない場合、医療法人化後の経営が困難になるケースがあるでしょう。
一方で、医療機器にかかった設備投資費は引き継ぎできます。借り入れする際は、設備投資に充てる費用を運転資金として借り入れないようにしましょう。
解散する際に手間がかかる
医療法人を解散する場合、都道府県に届出を提出し、法務局で解散の登記をする必要があります。
解散の理由によっては解散許可申請が必要になり、最終的に許可が下りるまで時間がかかることもあるでしょう。
解散の手間によって、他の業務にも支障が出てしまい、悪影響が出るケースがあるでしょう。もし各都道府県に解散の届出を申し込む際は、手続きにかかる時間を確認することをおすすめします。
医療法人化の流れ・手続き
医療法人化する際は、主に以下の流れ・手続きを行う必要があります。
- 設立事前登録
- 医療法人設立説明会
- 定款の作成
- 設立総会の開催
- 設立認可申請書の作成・提出
- 設立認可申請書の審査
- 設立認可書受領
- 設立登記申請書類の作成
- 登記完了
なお、各自治体によって手続きの詳細や必要書類、所要時間などが異なります。詳細は管轄の役所へ確認してください。
設立事前登録
医療法人の設立に当たり、事前に登録を行う必要があります。
医療法人設立説明会
年2回開催される医療法人設立総会に参加しなければなりません。都道府県によって、現地の会場に足を運ぶ必要がある場合と、オンラインで参加できる場合の2パターンがあります。詳細は、各自治体のホームページを確認しましょう。
定款の作成
医療法人の定款を作成する必要があります。主に作成する必要がある定款は以下の通りです。
- 目的と業務
- 社員と社員総会に関わる規定
- 役員と理事会に関わる規定
- 資産と会計に関する規定
- 開設する病院・診療所・施設の所在地
- 広告の手段・方法
- 名称と事務所の所在地
- 解散・合併と分割に関する規定
定款を作成する際は、厚生労働省のホームページに社団医療法人の定款例があるため、参考にするとよいでしょう。
設立総会の開催
定款を作成した上で、設立者3人以上によって設立総会を開催し、議事録を残す必要があります。
なお、議事録に残しておくべき内容は以下の通りです。
- 役員報酬総額の予定額
- 役員と管理者の選任
- 設立代表者の選任
- 設立趣旨の承認
- リース契約引き継ぎの承認
- 定款案の承認
- 基金拠出申し込み、および財産目録の承認
- 設立後2年または3年の事業計画、ならびに収支予算の承認
- 病院・診療所・施設の建物と土地を賃借する場合、その賃貸借契約書に関する承認
- 開催日時・場所
- 設立時社員の確認
- 出席者の氏名・住所
各自治体のホームページに議事録のサンプルがあるので、参考にしながら作成しましょう。
設立認可申請書の作成、提出
設立認可申請書は、仮申請と本申請に分かれます。仮申請が通った後、本申請に進むことが可能です。
設立許可申請書の様式は、各自治体で異なります。詳しくは自治体へ確認しましょう。
設立認可申請書の審査
設立認可申請書を審査するとともに、都道府県によっては実地審査や代表者の面談審査などがあります。
審査に通過すると知事からの諮問(しもん)を受け、都道府県の医療審議会による審議も実施されます。
設立認可書の受領
設立認可申請書の審査に通過し、医療審議会による審議に通過したら、設立認可書が発行されます。
この認可書が発行されれば、医療法人設立の許可が得られたことになります。
設立登記申請書類の作成
設立認可書を受領したら、2週間以内に登記を行う必要があります。
- 医療法人の名称
- 目的・業務内容
- 事務所の所在場所
- 理事長の氏名・住所
- 存続期間・解散に関する規定
- 資産の総額
登記完了
登記が完了したら以下の手続きを行い、医療法人の開設処理が終了します。
名義変更
電気・ガス・水道・銀行口座・電話などの契約を行う必要があります。
税務署での手続き
法人設立届出・個人事業廃止届・青色申告承認申請書・給与支払事務所開設届・源泉所得税の納期特例の承認届出書の手続きを行う必要があります。
中小企業事業団の手続き
中小企業退職金共済掛金の変更・小規模企業共済の共済金請求の手続きを行う必要があります。
社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会での手続き
保険医療機関届や社保・国保の入金指定に関わる手続きを行う必要があります。
厚生局での手続き
法人の保険医療機関指定申請書・個人の保険医療機関指定廃止届の手続きを行う必要があります。
保健所での手続き
診療所の開設許可申請・診療所使用許可申請(有床診療所の場合)・法人診療所開設届・個人診療所廃止届の手続きを行う必要があります。
医療法人化することが望ましい場合
「節税を図りたい」「分院などを展開したい」「事業の幅を広げていきたい」といった診療所の場合、医療法人化するのに適しているといえるでしょう。
医療法人化する場合は、さまざまな手続きが必要であり、承認が下りるまで時間がかかります。法人化を検討する場合は、計画的に手続きを進めていきましょう。
また、医療法人には社会医療法人・特別医療法人・特定医療法人・基金拠出型医療法人などの形態が存在します。それぞれ、要件や法人税率が異なるため、役所や専門家に確認して把握しておきましょう。
医療法人化することが望ましくない場合
跡継ぎがおらず事業展開の方針がない場合は、医療法人化するメリットがあまりないといえるでしょう。
医療法人化は運営管理に手間がかかります。節税効果をシミュレーションした場合にメリットがない場合は、費用対効果がないため法人化しなくてもよいでしょう。
また、事業所得が少ない場合も、節税効果が薄れるため、医療法人化のメリットが期待できない場合があります。
施設全体の収支を計算しながら、収益上のメリットを加味し、医療法人化を検討してみてください。
メリット・デメリットを踏まえて医療法人化を
医療法人化をすると、社会的な信用度が向上して金融機関から信頼されたり、スタッフの採用時に有利になったりします。
また、節税効果があり事業拡大しやすい特徴があるため、医療機関としての利益増大が図りやすいといえるでしょう。
一方で、運営管理に手間と費用がかかるというデメリットがあります。医療法人化するメリット・デメリットを踏まえ、法人化を検討してみてください。
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