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出資持分あり・出資持分なしの医療法人とは?
まずは、出資持分あり・出資持分なしの医療法人とはどういったものなのか、詳しく解説します。
出資持分あり医療法人とは
厚生労働省では「持分」を以下のように定義しています。
“「持分」とは、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」”
出典:「持分なし医療法人」への移行に関する手引書(厚生労働省)(PDF)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000940229.pdf)
出資持分あり医療法人とは、その定款に出資持分に関する規定(社員資格の喪失に伴う持分の払い戻しや、医療法人の解散時の財産の持分に応じた分配に関するもの)を設けている社団医療法人のことです。
2007(平成19)年の医療法改正において、非営利性の徹底と地域医療の安定性の確保のため、出資持分あり医療法人の新規設立はできなくなりました。法改正以前に設立された出資持分ありの医療法人は「経過措置型医療法人」として、経過措置が取られています。
出資持分なし医療法人とは
出資持分なし医療法人とは、社団法人であり、その定款に出資持分に関する規定がなく、持分が一切ないものを指します。
第五次医療法改正で、出資持分あり医療法人の新規設立が認められなくなりました。そのため、2007(平成19)年4月1日以降新しく設立された医療法人は、全て出資持分なし医療法人となっています。
出資持分なし医療法人の一類型として、基金制度を採用しているものを「基金拠出型医療法人」といいます。基金とは、医療法人に拠出された金銭その他の財産で、医療法人が拠出者に対して、定款で定められた条件に従い返還する義務を持ちます。
出資持分なし医療法人の移行計画について
出資持分あり医療法人は、社員が退社したり、亡くなったりした場合、持分の払い戻しを請求される可能性があります。こうしたリスクを回避するため、厚生労働省では、出資持分あり医療法人から「出資持分なし医療法人」への移行を推進しています。
出資持分なし医療法人への移行を検討している場合、移行計画を作成し申請すれば、厚生労働省大臣による認定を受けられます。申請受付は、2026(令和8)年12月31日までです。認定を受けた医療法人は、相続・贈与税の納税猶予や、低利で資金調達の貸付などを受けられます。
出典:「持分なし医療法人」への移行促進策(延長・拡充)のご案内(厚生労働省)(PDF)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000864652.pdf)
出資持分あり・出資持分なし医療法人の違い
出資持分あり・出資持分なし医療法人の2つの違いは、以下のような点にあります。
持分あり | 持分なし | |
---|---|---|
財産権 | あり | なし |
解散の場合 | 出資割合に応じた財産を払い戻す権利がある | 残ったお金は国(または他の医療法人)のものになる |
買取請求の場合 | 出資割合に応じた財産を払い戻す権利がある | 出資割合に応じた財産を払い戻す権利はない |
相続の場合 | 相続できる(相続税が課税される) | 相続できない(相続税は課税されない) |
財産権
出資持分とは、簡単にいうと医療法人の財産権のことです。まずは、出資持分あり・なし医療法人の財産権の違いを見ていきましょう。
出資持分ありの場合
出資持分ありの医療法人では、医療法人への出資者が財産権だけでなく、返還請求権を持ちます。
例えば、医師2人が100万円ずつ出資して200万円で医療法人を設立した場合、2人とも財産権を所有することになります。
出資持分なしの場合
出資持分なしの医療法人では、財産権や返還請求権を所有しません。ただし、基金拠出型医療法人の場合、拠出基金の返還を求める権利を持ちます。
解散の場合
医療法人を設立後、引退などで解散する場合、出資持分あり・なし医療法人でどのような違いがあるか、解説します。
出資持分ありの場合
出資持分あり医療法人が解散する際、医療法人に残っている財産は出資割合に応じて出資者に返還されます。
例えば、医師が100万円を元手に医療法人を立ち上げ、数十年後に解散させたとします。その際、医療法人に1億円の財産が残っていた場合、全て立ち上げた医師のものとなります。
出資持分なしの場合
出資持分なし医療法人が解散する際、医療法人に財産が残っていた場合でも、出資者には返還されず、国のものになります。ただし、基本拠出型医療法人の場合、拠出した金額の返還を求める権利があります。
例えば、医師が500万円を元手に医療法人を立ち上げ、数十年後に解散させた場合、医療法人から500万円を返還してもらうことが可能です。
買取請求の場合
医療法人を設立後、出資者の一人が法人を買い取る場合、出資持分あり・なし医療法人ではどのような違いがあるのか解説します。
出資持分ありの場合
出資持分あり医療法人では、何らかの理由で医療法人を離れることになった医師は、出資割合に応じた財産の払い戻しを請求する権利があります。
例えば、医師2人が1,000万円ずつ出資して医療法人を設立し、数十年後に1億円の財産が残っているとします。一人の医師が医療法人を離れる際、財産の払い戻しを請求した場合、5,000万円の返還が必要です。
出資持分なしの場合
出資持分なし医療法人では、出資をした医師であっても財産の払い戻しを請求する権利はありません。ただし、基金拠出型医療法人の場合は、法人を設立した際、拠出した金額を支払う必要があります。
例えば、医師2人が1,000万円ずつ出資して医療法人を設立し、数十年後に1億円の財産が残っていたとしても、返還されるのは1,000万円のみとなります。
相続の場合
設立した医療法人を相続する場合、出資持分あり・なし医療法人では、以下のような違いがあります。
出資持分ありの場合
出資持分あり医療法人の場合、相続人が医師でなくても、出資者の持分はそのまま相続できます。
例えば、出資金1,000万円で医療法人を設立し、1億円の財産が残った場合、相続人へ全ての財産を相続できます。ただし、医療法人の財産権を相続すると同時に、純資産1億円を基準に相続税が課税されます。相続税は現金で支払わなければならないため、相続を受けた人は納税資金の問題が生じるでしょう。
出資持分なしの場合
出資持分なし医療法人の場合、そもそも財産権を持たないため相続はできませんが、相続税もかかりません。ただし、基金拠出型医療法人の場合は、拠出した基金は相続税の課税対象となります。
出資持分ありと出資持分なしの違いを理解し、相続税対策を
医療法人には出資持分ありと出資持分なしの2種類が存在し、それぞれに違いがあります。出資持分あり医療法人は、出資者が財産権を持ち、出資率に応じた払い戻しや財産の分配権を有します。その一方で、出資持分なし医療法人は、出資者に財産権がなく、解散時の財産は全て国のものとなります。また、買取や相続の場合も返還の権利がありません。
相続税の課税問題に対し、国は出資持分なし医療法人への移行計画を推進しています。今後の経営を左右する相続税への対策は、専門家の意見も参考にし、慎重に検討しましょう。
出典:医療法人の基礎知識(厚生労働省)(PDF)
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf)