日本では、高齢社会を見据えて、1986年に訪問診療の概念が導入され、1996年に在宅医療が診療報酬に新設のうえ推進されてきています。一方で、思うように普及が進んでいないと言われているのも事実です。そのため、在宅医療への参入を検討している開業医の方のなかには、不安を感じて決めかねている人も多いでしょう。今回は、在宅医療の普及がなかなか進まない背景や現状の課題、必要な対策などについて詳しく解説します。
在宅医療が注目される背景
まずは、近年、在宅医療が注目されている背景について見ていきましょう。
内閣府が発表している『令和4年版高齢社会白書』によると、高齢者の人口は3,621万人(2021年10月1日現在)。総人口に占める割合(高齢化率)は、28.9%となっています。
さらに高齢者の数は増え続け、2025年には3,677万人、2040年には3,921万人にまで増加すると推計されています。
また、日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査結果』によると、人生の最期を迎えたい場所について「自宅」を希望する人が国民の約6割いることも判明。
さらに厚生労働省『人生の最終段階における医療に関する意識調査』では、最期を迎える場所を考えるうえで多くの人が「家族の負担にならないこと」「体や心の苦痛なく過ごせること」「自分らしくいられること」を重要だと考えていることがわかりました。
高齢化が進むに伴い、在宅医療の必要性は高まっているわけです。
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内閣府『令和4年版高齢社会白書』
日本財団『人生の最期の迎え方に関する全国調査結果』
厚生労働省『人生の最終段階における医療に関する意識調査』
在宅医療に必要な医療体制・サービスとは
在宅医療は、「訪問診療」と「往診」に分けられます。
訪問診療は、患者さまの病歴や持病、症状などを詳しく把握したうえで訪問スケジュールを立て、自宅や介護施設などで医療を提供します。一方、往診とは、通院できない患者さまからの要望に基づき、その度に診療を行うものです。
国は『在宅医療の体制構築に係る指針』の中で、在宅医療に必要な医療体制について各都道府県の実情を踏まえた課題や施策を提示しています。前提となる必要な医療体制は次の通りです。
・退院支援…入院医療機関と在宅医療にかかる機関の連携
・日常の療養支援…多職種の連携による患者さまや家族の生活を支える医療を提供
・急変時の対応…在宅療養者の急変における往診・訪問看護体制の構築・入院病床の確保
・看取り…住み慣れた自宅や介護施設など患者さまが希望する場所での看取りの実施
上記を実現するためには、多職種間の連携により在宅医療を24時間提供できる体制作りが必要です。
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厚生労働省『在宅医療の体制構築に係る指針』
在宅医療の現状について
在宅医療の普及が推進されている昨今では、実際にどれだけの医療機関が訪問診療・往診を行っているのか詳しく見ていきましょう。
在宅患者さまへの訪問診療と往診件数の推移
厚生労働省の『在宅医療の現状について』によると、在宅患者さまに対する訪問診療の件数の推移は2006年の198,166件から2020年の831,080件へと大幅に増加しています。一方、往診は、2007年は128,673件、2013年は130,816件、2019年の141,541件で微増となっています。また、訪問診療を受ける患者さまの約9割が75歳以上の高齢者だということもわかりました。
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厚生労働省『在宅医療の現状について』
訪問診療を行う医療機関数の推移
また同資料によると、訪問診療を行う診療所数は2005年の16,920件から2008年の19,501件へと増加したものの、以降は2011年が19,950件、2014年が20,597件、2017年は20,167件と横ばいの状況です。
訪問診療を行う病院数は、2005年が2,849件、2011年が2,407件、2017年が2,702件とこちらも同様に横ばいで推移しています。
在宅療養支援診療所の届出数の推移
さらに、在宅療養支援診療所と在宅療養支援病院の数について見てみましょう。
在宅療養支援診療所の数は、2007年には約10,000件でしたが、2011年には約12,500件まで増加しました。しかし、2012年に約10,500件に減少し、その後の2020年まではほぼ横ばいになっています。在宅療養支援診療所が減少した理由は、要件の改訂によって実績のない施設が振り落とされたためです。
一方、在宅療養支援病院の届出数の推移は、2010年の約350件から2020年の1,546件へと大幅に増加しています。
在宅医療の普及における今後の課題
厚生労働省の『在宅医療連携モデル構築のための実態調査報告書』では、在宅医療の普及における今後の課題が示されています。同資料で公表されているアンケート結果を基に、在宅医療の普及や在宅医療継続のための課題について解説します。
在宅医療に携わる医療従事者の確保
アンケート結果によると、医療機関の約6割が「診療所のある地域での在宅医療における課題」として、「在宅医療に携わる医療従事者(マンパワー)の確保」をあげていました。医療機関には、通常の診療に加えて訪問診療・往診を行うのに十分な人材の確保が必要なわけです。
加えて、在宅におけるさまざまな医療技術に対応できる、高い専門性をもった人材の育成も急務です。
アンケート結果では、マンパワー不足に続き、「急変時等に対応するための後方支援体制の整備」「家族による看護・介護の負担を軽減するサービス(レスパイトケア)の整備」「医療従事者の看取りや急変時対応等在宅医療に係る知識・経験・技術の向上」などを課題として回答した医療機関が多くなっています。
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厚生労働省『在宅医療連携モデル構築のための実態調査報告書』
サービス提供体制の構築
前述のアンケート結果にもあるように、在宅医療では地域が一体となり以下の体制構築に取り組むことが求められています。
・退院支援
・日常の療養支援
・患者さまの急変時の対応
・患者さまが希望する場所での看取り
このためには、多職種間の連携により在宅医療を365日24時間提供できる体制作りが必要です。多くの場合、緊急時には訪問看護スタッフが対応し、その連絡を受けて医師が往診する形がとられます。そのため、医師は24時間いつでも連絡を受けて指示が出せるように待機しておくことが必要とされます。
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厚生労働省『在宅医療における急変時対応及び看取り・災害時等の支援体制について』
福岡県『福岡県保健医療計画』
家族向けの支援サービス(レスパイトケア)の整備
在宅医療の普及が進まない背景として、ご家族向けの支援が十分にできていないという背景もあると考えられています。在宅療養や在宅介護に取り組む場合、患者さまのご家族には体力的かつ精神的な負担がかかります。通所介護(デイサービス)や通所リハビリテーション(デイケア)、ショートステイなどをうまく取り入れるのが、在宅療養を続けるためのコツと言えるでしょう。
そのため、クリニックなどではそうした支援を患者さまの身近で行うケアマネジャーとの連携を強めることが求められます。
国が注力する在宅医療普及のための取り組み
厚生労働省の『在宅医療の最近の動向』によると、在宅で療養を行う患者さまが在宅療養を行えた理由には、「必要な在宅医療・介護サービスが確保できたため」「家族などの介護者が確保できたため」などがあがっていました。こうした人を増やすべく、国は次のような取り組みを行っています。
チーム医療を担う人材の育成
在宅医療の適切な対応ができる体制を強化するために、医師や看護師などによるチーム医療を担う人材の育成研修を全国で実施しています。同時に、講師人材の育成も実施し、人材育成研修会の拡充および継続性の向上を推進。普及啓発についても積極的に行っています。
在宅医療の基盤整備
訪問診療や訪問介護、訪問歯科診療、訪問薬剤管理指導など、在宅医療の基盤を整えるために、他職種の連携を進めています。さらに、情報通信機器などの活用を含め、在宅医療の効率的な提供のための体制作りも取り組みの一つです。
質の高い在宅医療提供体制の確保
複数の診療科における医師同士の連携、急変時に対応できる医療機関の連携など、地域単位での在宅医療提供体制の確保が求められています。また、近年増加傾向にある小児に対する在宅医療の整備も重要な課題となっています。
災害時や感染症対策
災害時における医療体制の確保、在宅患者さまにおける感染症対策なども国が推進する取り組みの一つです。災害時の在宅人工呼吸療法や在宅酸素療法を行う患者さまの安否確認や医療機器の確保などができる体制を構築しておく必要があります。
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厚生労働省『在宅医療の最近の動向』
在宅医療の普及にはマンパワーの確保や家族の支援が必要
今後の在宅医療の普及には、ケアにあたるクリニックの次のような取り組みが重要です。
●専門知識のある医師や体制の整備
●信頼関係の構築(十分な情報提供と話を聞くなどの寄り添った対応)
●本人や家族の意思決定のサポート
クリニックは関連機関との連携を進めつつ、患者さまやご家族の不安を解消できるような支援を行いましょう。また、在宅医療では治療の手段や緩和ケアなどに関する選択肢が多いぶん、その決定に迷いが生じることも増えます。
医師は十分な専門知識の習得を目指し、そのうえで患者さまと信頼関係を築くために積極的に情報提供を行いましょう。親身な対応や声かけをするのも大切です。
在宅医療の普及に向けて体制の整備を進めましょう
近年ますます重要性が高まっている在宅医療。参入を検討しているクリニックでは、「専門知識をもつ医療従事者の確保」「各医療機関との連携」「患者さまとそのご家族への十分な説明や心に寄り添った対応」などに取り組む必要があります。
また、在宅医療の体制構築には、地域でのICT(情報通信技術)による情報共有が適しています。
院外でも閲覧・記載が可能な電子カルテを活用すれば、訪問診療や往診の場においても正確かつスピーディな診療のサポートになります。WEMEXが提供する電子カルテMedicom-HRf Hybrid Cloudでは、豊富なレセプトチェックを標準搭載しているため、知識や経験に左右されない的確な診療報酬の算定ができるでしょう。
クリニックごとの方針や状況に適したご提案も可能なので、気軽にご相談ください。