クリニックを発展させるスタッフマネジメント ~スタッフの定着・質の向上~
クリニックの力を向上させようとするとき、かなめとなるのはやはり人材です。スタッフ一人ひとりの能力を引き出しつつ、組織としての結束を高めることで、クリニックの医療の質は向上し、集患にもつながります。しかし、このようなスタッフのマネジメントに対して悩みを抱えるクリニックが多いことも事実です。
今回のセミナーでは、多数の病院・クリニックの経営コンサルティング・会計業務を担うホワイトボックス株式会社 代表取締役の石井 友二様を講師にお迎えして、クリニックを発展させるスタッフマネジメントのポイントをお伝えします。
[セミナー日時:2021年8月18日(水)※Web会議ツール(Zoom)での配信]
1. 戦略の明確化と実行
クリニックの運営において最も重要なのは「ビジョン」を持つことです。「どのようなクリニックを創りたいのか、どのような医療を行いたいのか」というクリニックの理念はもちろんのこと、それを事業計画やマネジメントプランに落とし込むこともしっかりと意識しましょう。ビジョンの策定にあたって重要なのは、それを分かりやすくアウトプットすること。そして、期限を決めて進捗を適切に管理していくことです。「時間」を日々のマネジメントで意識し、スタッフにも「いつまでに○○をしよう」と同じ認識を持ってもらえるよう働きかけましょう。
また、もう一つ大切なのは、「常にビジョンをアップデートする」ことです。事業計画を立てたのはいいけれど、クリニックを取り巻く環境に変化があっても事業計画は以前のまま……という例もよく見られます。定めた期限での達成度を評価し、次のステップとして新たな計画を策定します。こうしたサイクルを回し、常に計画をアップデートすることで、ビジョンの形骸化を防ぐのです。
2. スタッフをやる気にさせるマネジメント
人のモチベーションをいかに引き出すか、という問いに対して、重要な示唆を与えるのが、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」です。仕事には「動機付け要因」と「衛生要因」があり、前者は仕事への満足感を生み出し、後者は不満を生み出します。動機付け要因にあたるのが、「達成・承認・責任・昇進」などにかかわる要素です。一方、衛生要因には給与や福利厚生などが挙げられます。衛生要因に不足があればスタッフの不満につながりますが、これらを解消したからといって必ずしもモチベーション向上につながるわけではありません。すなわち、スタッフのモチベーションを向上させるには、動機付け要因である「達成・承認・責任・昇進」という要素を満たす必要があるのです。
スタッフに期待する役割を明確に示し、その達成度を適切に評価するというサイクルが、スタッフのやる気を引き出します。このサイクルについては「4.コミットメント(約束)の重要性」でも詳しく説明します。スタッフのなかにある、「自分の仕事の価値を認められたい」という欲求をしっかりとグリップして、効果的なスタッフマネジメントを実現しましょう。
3-1. 道具としてのマニュアル
どれだけ優秀なスタッフにも苦手な業務は存在するものです。「できない・わからない」という思いは、モチベーションにもネガティブな影響を与えます。こうしたスタッフをサポートし、組織全体として業務の標準化を行うにあたり、かなめとなるのがマニュアルです。マニュアルは、明文化されていなかったノウハウを可視化し、個人の知識を組織の知識に変えるものです。スタッフ全員が活用できるマニュアルを作成できれば、組織全体のレベルを底上げできます。
3-2. マニュアル作成運用フロー
マニュアルもビジョンと同じく、作成したのはいいけれど、あとの運用がおざなりになってしまっては、期待される効果を発揮できません。常に改訂を繰り返すことで、マニュアルを進化させていくよう心がけましょう。
まずは「業務整理」を行い、これに応じて「マニュアル作成」のステップを進めて業務を可視化します。「マニュアル運用」のなかで、業務の実態との乖離(かいり)が見られた場合はマニュアルの「改善提案」を行い、「マニュアルを改訂」します。こうして最新化されたマニュアルを使って、スタッフの「教育」を行います。定期的に「業務整理」を行い、このサイクルを循環させ続け、マニュアルを進化させていきましょう。
3-3. 構造化されたマニュアル
スタッフがマニュアルを活用するためには、読みやすくポイントを掴みやすいことが重要です。文章をだらだらと書いてしまいがちですが、それぞれの項目を「手順」、「留意点」、「必要な知識」、「本来の接遇」に区分して書いていくとよいでしょう。エクセルなどで4つの列を分けて書くと分かりやすくなります。
「手順」には、「何を行うか」を記入します。箇条書きなど、ポイントが分かりやすく伝わる工夫をすると良いでしょう。「留意点」は、その作業を行うにあたってのノウハウです。コツややってはいけないことなどをこの欄に書き込みます。この情報が充実していると、読み手は業務をイメージしやすくなり、マニュアルを読みながら頭のなかでシミュレーションができます。
また、それぞれの手順で参照すべき他のマニュアルなどは「必要な知識」欄に記載して、適宜読み手が確認できるようにしましょう。
患者さんへの対応で注意すべき事項は「本来の接遇」に書き込みます。クリニックでの業務で最も意識すべきは、やはり患者さんの存在です。たとえば、「この手順では整理用食塩水は冷たいと刺激になるので、体温程度に温めます」などのように記入すると良いでしょう。
3-4. 接遇の構造仮説
ここで、接遇とは何か、改めて確認してみましょう。
一人ひとりのスタッフを球体ととらえ、そのコアには「思い」があると考えます。そのコアの上に層を成すように、「技術技能」、「感情」、「笑顔、挨拶、礼節」が積み重なっていくのです。一般的には、最も表層にある「笑顔、挨拶、礼節」のみが接遇ととらえられがちですが、決してそうではありません。重視したいのは、患者さんの役に立ちたいという「思い」と、医療の「技術技能」です。技術技能をしっかりと身につけていれば、患者さんの不安な気持ちにも落ち着いて対処できます。医療技術への自信があれば、自らの感情のコントロールにも役立つでしょう。マニュアル活用による医療技術の向上は、接遇にもポジティブな影響をもたらすのです。