なぜ、今クラーク運用が注目されているのか
長引く新型コロナウィルス感染症の感染拡大の中、クリニックを取り巻く環境に大きな変化が見られます。コロナ禍では、デジタル化が急激に進み、クリニックもデジタルツールを当たり前のように使いこなす時代となりました。また、患者は感染を恐れるために、「待たずに診察を受けたい」というニーズが拡大しています。さらに、政府は少子高齢社会による人手不足を受けて、「働き方改革」を進めており、クリニックにおいても働き方改革を実現するために「生産性向上」が至上命題となっています。デジタル化の進展、感染対策、生産性向上というクリニックを取り巻く環境変化に対応するために、「電子カルテのクラーク運用」に注目が集まっているのです。
電子カルテのクラーク運用とは?
電子カルテは紙カルテをデジタル化したものであり、一般的には医師がメインで操作するシステムと考えられています。しかしながら、2007年に「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」という厚労省通知により、事務職員が電子カルテを代行入力することの条件が明確化され、翌2008年に医師の負担軽減を目的として「医師事務作業補助体制加算」が新設されました。同加算は、医療現場でのタスクシフティングを推進し、医師の事務作業を補助する専従者「医師事務作業補助者(医療クラーク)」を配置している体制を評価するものです。現在、全病院の約1/3で算定されており、算定範囲も病院から有床診療所にまで拡大されています。
2022年現在、無床診療所では診療報酬点数はつきませんが、医療クラークを活用することで、様々な効果が得られることから、少しずつクリニックでも医療クラークの活用が広まりつつあります。
クラーク運用の効果
医療クラークを配置することにより、医師は電子カルテ操作を医療クラークに任せることができるため、「医師がパソコン入力が苦手」な場合や、「患者が多く電子カルテ入力が負担になる」場合に、大きな効果が発揮されます。医師はパソコンに入力する作業がほとんどなくなることで、診療に集中する環境が整い、診療スピードも格段に改善します。
また、日ごろ診療報酬の請求事務を行っている医療事務を医療クラークとして配置転換することで、診療行為とコスト算定の合致が進み、適切なレセプト作成が実現します。
さらには、医療クラークは、医師の診察に立ち会うことで、患者の背景および診療の流れが分かるようになり、患者との接し方が変わります。医師の診療スタンスを日ごろから見ている医療クラークは、徐々に医師の指示の先取りができるようになります。このようなスタッフは、いつでも相手の先回りをしようと考えた行動を取るため、医師にとっては非常に頼りになるスタッフになるとともに、患者にとっても「よく気がつく」スタッフと映ることでしょう。
クラーク運用を始めるには
さて、クリニックがクラーク運用を始めるには、何から始めたらよいのでしょうか。ハード面では、医師の隣で医療クラークが電子カルテを操作する「端末」及び「スペース」の確保が必要になります。診察室が比較的狭い場合は工夫が必要になります。場合によっては、医師の隣に座るのではなく、電子カルテカートなどで、少し離れた場所で電子カルテ操作を行うこともあります。
一方、ソフト面では電子カルテの操作スキルとともに、カルテや書類を作成するためのスキルが必要になります。これは医療クラークの教育と言えます。医療クラークは幅広い知識とスキルが必要となります。具体的には、①カルテ作成②電子カルテ操作③診療の流れ(疾患・薬・検査)の理解などで、カルテや書類を取り扱う上での個人情報の取り扱いについても理解する必要があります。(教育については、「医療クラーク運用の教育方法」で詳しく解説します)。
緊張を解くには場所に慣れるしかない
さて、医療クラークを医師の隣に配置して、いざ始めようとするとすぐには上手くいきません。医師の隣に座るということ自体が、コンバートされた医療事務にとって、とても高いハードルなのです。外から眺めるのと、実際に中に入るのでは、大きな差があるのです。
診察室の中には、医師と患者、そして看護師がいます。この中に医療クラークとして配置されるわけですが、最初のうちは「緊張で手が震える」とよく聞きます。緊張は初めてであったり、自信がなかったりするときに起きる現象です。医療クラークは、初めての場所で、初めての業務ですから緊張して当然でしょう。
この緊張を解くためには、まずは「慣れ」が必要です。毎日いる「受付」は緊張しないのは、場所も業務も慣れているからに他なりません。初めての場所に慣れるためには「頻度」と「密度」が大切です。医療クラークを始める前に、診療補助として、診察室で作業をすることから始めることで「場所」に慣れていきます。診察室内には、受付スタッフでもサポートできる業務が多くあります。患者の呼び込みから、着替えのサポート、子供の介助、機材出し、問診の入力、紹介状や診断書などの書類の準備、次回の予約など。まずは、これらの業務を診察室内で行い、場所に慣れることから初めてみるのも1つの方法です。
緊張を和らげるためには、診療側の「環境作り」も大切です。雰囲気づくりと言っても良いかもしれません。その場所の主である、医師や看護師は、医療クラークに対して常に優しい声かけをし、「失敗してもフォローするよ」という気持ちを言葉にして欲しいのです。その励ましが、医療クラークの緊張を徐々に解いていきます。
カルテの作成責任は医師にある
また、医療クラークが作成したカルテは、医師の指示のもとに行われている業務であり、作成責任は医師にあります。これは法律で決まっていることであり、そのことも事前に医療クラークに伝えることで、少し肩の荷が降りるのではないでしょうか。「カルテの責任はすべて医師にある」と宣言することで、医療クラークはあくまで下書きをしているに過ぎないという気持ちになるのです。
まとめ
電子カルテのクラーク運用を始めるためには、以下の5つが大切です。
(1)医師の隣で医療クラークが操作する「端末」及び「スペース」の確保を行う
(2)カルテや書類を作成するスキルをマスターするための「教育」を行う
(3)診療補助として診察室で作業をすることから始め「場所」に慣れる
(4)「環境作り」として、医師や看護師のフォロー体制を構築する
(5)カルテの「作成責任は医師にある」と宣言する