目 次
1. 一般的な採用の流れ
クリニックは少人数で運営するため、優れたスタッフの採用・育成は大事なポイントです。病院では先生自らが採用・育成に取り組むことはあまりないので、ほとんどのクリニック院長にとっては、開業時のスタッフの採用・育成は初めての経験です。
一般的な採用の流れとしては、1)必要な人材の検討、2)求人方法の検討、3)採用活動、4)入職手続きです。
今回はスタッフの募集から書類選考、面接まで、採用のポイントを説明します。
2. スタッフの採用手法
スタッフの採用手法は、紹介だけでなく専用の求人媒体があります。採用手法を決める前に主な求人媒体の特徴と効果的な使い方を紹介します。
(1)ハローワーク
ハローワークは募集から採用まで無料で利用できます。初回の事業者登録時は開業地域管轄のハローワークに出向く必要がありましたが、2021年以降は事業者登録から募集手続きまで電話とネットだけで完了できる場合もあります。まずは電話で確認するとよいでしょう。
ハローワークの求人と言うと、以前は文字情報だけでしたが、現在は写真や自院の特徴を記載でき、Indeedなどのネット求人ポータルサイトで公開されます。
ハローワークは地域に住む退職者が雇用保険手続きで定期的に利用します。地元密着のクリニックの求人には適した媒体です。
(2)人材紹介会社
費用はかかりますが、無料媒体での求人が難しい場合は、人材紹介や短期のつなぎの派遣職員を使うことができます。クリニック専門の人材紹介会社には医療従事者の登録者も多いので、希望条件を伝えておくと書類審査や一次面接をした上で、希望にあった人材を紹介してくれます。
費用は成果報酬で年収の20~30%の手数料が一般的です。他の求人媒体に比べるとかなり高額です。まずは他の媒体で探しながら、希望の条件を伝えて相談しておくとよいでしょう。開業直前に一部足りない職種だけ短期的に紹介でつなぐこともできます。
(3)広告媒体
広告媒体と言っても、新聞折込の求人情報からネット求人媒体まで様々です。今はなんと言っても、Indeedに代表される求人ポータルサイトの利用が効果的です。最初から効果的な求人広告を作成するのは難しいので、医療系専門のネット媒体で実績のある広告代理店を使い、求人原稿を作成することを推奨します。初回掲載は特別価格が適用されることも多く、一度効果的な求人広告の文案を作っておくと、ハローワークやIndeedの無料掲載に使えます。
(4)ホームページ
開業準備として開業半年くらい前から自院のHPに採用ページとLP(採用HP)を作ることを推奨します。LPには院長の写真と言葉で診療方針やクリニックのビジョンと一緒に働く人に求める人材像や働く環境について紹介すると院長の人柄も伝わります。HP(採用LP)だけで応募が来ることはありませんが、他の媒体からの応募者に対し、事前にHP(採用LP)に記載した診療方針や募集案内を見てから応募することを条件付けます。あらかじめ当院の方針を理解した人だけが応募するので、書類選考の応募者の質があがります。
3. 採用活動を行う時期
新規開業では、開業準備と研修目的で開業1カ月前をめどに働き始めることができるように準備します。あらかじめ募集案内に開業および就労開始の時期を明記した上で、半年程前から採用の準備を始めます。いい人材ほど退職に時間がかかります。
特に大事なのは、どんな人が欲しいと希望を出すだけでなく、どのようなクリニックを目指すか、院長の「理念」を明確にすること、このクリニックでスタッフがどんな未来を描けるかを示すことです。
4. 採用すべき人材とは
新規開業時にどんな職種を何人採用すればいいのか、迷いますね。大事なことは、クリニックがどんな患者に対してどのような医療サービスを提供するかの立ち位置、つまりポジショニングを明確にして、戦略を立てることです。それによってクリニックの規模や施設、必要な職種と人数が決まります。
(1)必要な人材を把握しておく
クリニックの開業にあたり、先生の診療スタイルについて考えることをおすすめします。開業後も今の勤務先の診療スタイルが最適なのか、もっと他のスタイルでできないか、ゼロベースで考えてみましょう。
「先生の仕事の中で看護師や事務スタッフに任せられる仕事はないか?」
「看護師の仕事と思っていたけれど、資格のない看護補助や事務スタッフでもできないか?」
クリニックは少人数の運営になります。最初から専門性にこだわり多職種の正社員を雇用すると人件費も多くなります。パートや派遣で専門性の高いスタッフを必要な業務時間だけ来てもらうことも可能です。
最近では、電子カルテ・レセコンはもちろんWeb予約、Web問診、セルフレジの導入で事務スタッフの業務も効率化が進んでいます。患者様の利便性が高くかつスタッフが働きやすいクリニックのあるべき姿を描いて、理想の診療スタイルと必要な人材を考えてみましょう。
(2)スタッフの雇用形態も重要
正社員でなければ優秀なスタッフは雇えないと言うことはありません。フルタイムの正社員だけでなく短時間正社員やパートと派遣や外注を組み合わせて考えましょう。
介護や育児中の経験豊かな看護師や事務スタッフをパートや繁忙期だけ雇用する方法もあります。パート採用時に正社員登用の可能性ありと示すことも有効です。
また、個人医院でも最近は社会保険完備としているところが増えています。応募・定着に効果があるので、税理士や社会保険労務士と相談し、加入を検討するとよいでしょう。
5. 選考時のポイント
迅速に間違いなく選考を進めるためのポイントは、応募者の選考状況と応募経路、結果を一覧リストにしておくことです。また、選考時の面接・採否連絡のメール文書はあらかじめ所定のフォームを用意し、抜け漏れがないようにします。
(1)書類選考
書類選考はできるだけオンラインで完結するようにします。応募者が多いと書類選考結果や面接連絡だけでも大変です。応募用のメールアドレスを設け、ハローワークもHP経由もネット媒体もすべての応募を一つのメールアドレスに集中させると効率よくなります。
応募案内に職歴と応募動機を記載するよう書いておくのも大事です。書類選考では、HP(採用LP)と募集案内をしっかり読んだ上で応募しているかどうかを確認します。応募動機として、経営方針や望む人材像に答える動機を書いている人は本気度が高いとわかります。
職歴は医療機関の勤務経験よりも当院で期待する仕事を任せられるかどうかの視点で候補者を絞り込みましょう。
(2)面接
面接連絡時に、もう一度HP(採用LP)の応募案内に目を通しておくように伝えます。理念や望む人材像を理解した応募者と面接することで、より深く理解し合うことができます。
面接で最適な人材を判断するのは簡単ではありません。院長、事務長もしくは院長夫人、開業コンサルタントや社会保険労務士など、違う立場の3人程度で面接するとよいでしょう。
短時間の面接で的確に応募者を比較検討するには、人柄や考え方を知る定番の質問を決めておきます。例を示します。
- 前職の退職した理由は?
- 前職で一番やりがいを感じたのはどんなときですか?
- 仕事で大変だったときの経験を話してください
- 当院に応募したいと思った一番の理由は?
6. 採用活動時の注意点
採用活動時の注意点は、選考の日程管理を適切に行い、採用したい候補者への内定を速やかに行い、採用までの信頼関係をしっかり維持することです。
(1)内定通知は3日以内
面接時に他の面接の予定も考慮し、応募者にいつまでに選考結果を連絡するか、あらかじめ伝えておきます。応募者は他の事業所も応募している可能性があります。選考の結果、採用したい応募者が決まれば、できるだけ早く連絡し、入職意思と入職可能日を確認した上で「内定通知書」もしくは「採用通知書」を出します。
開業時には、全員そろってオリエンテーションを行うとよいですが、中途採用の場合でも、入職手続きを兼ねて1時間ほどのオリエンテーションを行うと安心です。
(2)内定承諾書があると安心
クリニック開業時には、開業まで数カ月先の場合もあります。内定が決まったら書面で「内定通知書」を出し、応募者からも「内定承諾書」に署名・押印を受け取ります。
その後速やかに入職手続きを行い、就業場所や勤務時間の労働条件を記載した「労働契約書」を取り交わします。
内定から開業まで時間がある場合は、開業までに内定者との懇親会や気軽な勉強会などを開き、よい関係性を作っておくと安心です。
筆者プロフィール
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