目次
オンライン診療における処方箋の取り扱い
オンライン診療における処方箋は、対面診療と同様の取り扱いで問題ありません。具体的には、患者さんが服薬指導を希望した場合、以下の手順をとれば対応が完了します。
- 処方箋の備考欄に「オンライン対応」と記載
- 患者さんの同意を取得したうえで、薬局に処方箋情報を送付する(FAXやメール)
- 送付先の薬局をカルテに記載
- 処方箋情報を送付した薬局に処方箋原本を送付
出典:厚生労働省「オンライン服薬指導における処方箋の取り扱いについて」
(000995232.pdf (mhlw.go.jp))
オンライン診療で薬をお渡しするまでの流れ
院内処方と院外処方のそれぞれのケースにおいて、オンライン診療の受診完了から患者さんが薬を手にするまでの一連の流れを解説します。
院内処方の場合はお薬をご自宅に送付
院内処方の場合、お薬は病院・クリニックから直接患者さんの自宅に送付します。薬局に処方箋を送ったりFAXしたりといった手間が省けるメリットがあります。
一方で、病院やクリニック内に医薬品の在庫を用意し、調剤する薬剤師を雇用しなければなりません。また、送付のための梱包・発送業務も発生するため、スタッフへの負担が大きい部分がデメリットです。
院外処方の場合は処方箋を薬局に送付
オンライン診療における院外処方には、以下2つの方法があります。
・ 薬局での受け取り
・ 自宅での受け取り
薬局で受け取る場合、診察した医師は、患者さんが希望する薬局へ処方箋情報をFAXやメールなどで送ります。その後に、患者さんやご家族が薬局へ向かい、薬を受け取る方法です。
自宅で受け取る場合も、薬局で受け取る場合と流れは同様です。医師が薬局へ処方箋情報をFAXやメールなどで送り、薬局は患者さんへ連絡したうえで薬を発送し、自宅で受け取ってもらいます。
オンライン診療で活躍する電子処方箋とは?
電子処方箋とは「電子処方箋管理サービス」を介して処方箋を運用するほか、処方関連の情報を医療機関や薬局とやり取りできる仕組みのことです。オンライン資格確認をはじめとする医療DXの1つとして、今後普及すると予想されます。
より詳しい内容は『電子処方箋サイト』で解説しているため、ぜひご覧ください。
紙処方箋にはないメリット
紙の処方箋と比較して、多方面で複数のメリットがあります。
患者さんの視点でいうと、薬受け取りの待ち時間短縮や紛失のリスク低減が期待できるでしょう。
医療機関の視点では、処方箋発行や押印などの事務処理が省略できたり、薬局へのFAX送付が省略できたりします。
また、1つの情報を同時に複数の施設で共有できるため、情報の誤認防止につながり、医療の質向上に貢献します。
導入するための手順
電子処方箋を導入するためには、大きく4つのステップが必要です。
- 準備開始
- システム事業者へ発注
- 導入・運用準備
- 補助金の申請
電子署名のための医師資格証(HPKIカード)申請やICカードリーダー購入、電子処方箋対応版ソフトのパソコン設定などを自主的に準備しなければなりません。特に医師資格証の申請とパソコン設定は医療機関側で時間がコントロールできない部分のため、早めの動き出しが吉といえます。
厚生労働省がステップごとのポイントをまとめた資料を公開しているため、導入を検討する際には参考にするとよいでしょう。
出典:厚生労働省「電子処方箋導入に向けた準備作業の手引き」
(PowerPoint Presentation (mhlw.go.jp))
オンライン診療で処方する際の注意点
オンライン診療は外来での患者さんの待ち時間がなくなる、医師の働き方の選択肢が増えるなど、医師と患者さんの双方にメリットがあります。ただし、処方の際には注意すべき点もあります。
主な注意点は下記の3つです。
・ 診療ガイドラインを参考に慎重に行う
・ 麻薬および向精神薬の取り扱いの制限
・ 8日以上の処方の禁止
それぞれ詳しく解説していきます。
診療ガイドラインを参考に慎重に行う
オンライン診療において、新たな疾患に対し医薬品を処方する場合は、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」など、関係学会が定める診療ガイドラインを参考に、慎重な処方が必要です。特にオンライン診療の初診に適さないものとして挙げられるのが、下記の症状です。
種類 | 症状 |
呼吸器系 |
・急性または亜急性に生じた呼吸困難や息苦しさ、安静時の呼吸困難 ・喀血や多量の血痰 ・急性の激しい咳嗽 ・喘鳴 ・急性または亜急性に生じた嗄声 |
循環器系 |
・強い、あるいは悪化する胸痛や胸部圧迫感 ・突然の動悸 ・何らかの症状を伴う血圧上昇 |
消化器系 |
・強い腹痛 ・悪心や嘔吐 ・吐血 ・血便・下血 |
腎尿路系 | ・発熱を伴う腰痛や排便障害、下肢の症状を伴う腰痛 |
その他 | ・強い疼痛 |
ほかに感冒症状などでも重症化しやすい糖尿病や心疾患などの既往歴や、高齢などの悪化因子がある患者さんには、オンライン診療は適さないとされています。
関連団体の出すガイドラインや国の指針に基づいて診療しましょう。
参考:一般社団法人日本医学会連合「オンライン診療の初診に関する提言」
(20210603172150.pdf (jmsf.or.jp))
麻薬および向精神薬の取り扱いの制限
厚生労働省が提示する『オンライン診療の適切な実施に関する指針』において、オンライン診療の初診では、麻薬および向精神薬の処方は行わないようにとの記載があります。
さらに、日本医学会連合が提示するリスト「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」では、初診の処方において麻薬や向精神薬、ほかにもハイリスク剤として扱われる抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤の処方について柔軟な対応は必要なものの、原則控えるべきとされています。
そのほか、オンラインでの慎重な投与が必要な薬剤についても同資料に記載があるため、オンライン診療を始める際には事前に目を通しておきましょう。
8日以上の処方の禁止
厚生労働省が提示する「オンライン診療の適切な実施に関する指針」には、基礎疾患などの情報が把握できていない患者さんへの8日以上の処方を禁止するなどの規定もあります。
一度に大量の処方を避けることで、高齢者や精神疾患の患者さんの多受診による重複処方や医薬品の違法な転売、意図的な重複処方など、悪意をもった患者さんの受診を防ぐのが狙いです。
また、処方後も患者さんの服薬状況を把握することに努めるべきとも記載されています。オンライン診療において慎重な処方の重要性が示されています。
参考:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月)(令和4年1月一部改訂)」
(06 参考資料1 (mhlw.go.jp))
一般社団法人日本医学会連合「オンライン診療の初診に関する提言」
(20210603172150.pdf (jmsf.or.jp))
メリット・デメリットを理解して正しい活用を
オンライン診療は患者さんの外来待ち時間を削減したり、リモートワークの実現による医師の働き方改善につながったりするなど、双方にメリットがあります。
医療DX推進に伴い、今後もさらにオンライン診療の普及は進み、医療機関の導入数は増えてくるでしょう。
一方、クリニック経営者や医師は、対面での診療にはないリスクや注意点を理解したうえで実施しなければなりません。フランスでは、オンライン診療での誤診によって、患者さんが死亡した事例も報告されています。
また、ICT機器の活用によって利便性が高まる一方で、オンライン上での個人情報流出の恐れもあり、適切な管理と対策が必要です。オンライン診療を実施する医療機関は、国や日本医学連合などが提示する指針やガイドラインを読み、確実に対応しましょう。
本サイトでは特設の『電子処方箋サイト』の中で、クリニック向けに電子処方箋の利用手順について動画で解説しています。こちらもぜひチェックしてみてください。