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レセプトの保存期間は10年間?
レセプトの保存期間は10年間が推奨されています。背景にあるのは、2020年の民法改正による消滅時効の期間変更によるものです。
保険医療機関及び保険医療養担当規則では、3年間と定められているものの、実務上は10年を目安にすべきでしょう。その理由は以下の2点です。
- 医療費の適正請求の証明:レセプトは、診療行為の正確な記録であり、保険者への請求根拠です。長期保存により、過誤請求の修正や適切な請求であったことの証明が容易になります。
- 保険者や患者からの開示請求への対応:医療情報の透明性が求められる中、レセプト情報の開示請求に迅速に対応するためには、一定期間のデータを保持しておく必要があります。また、電子保存であれば、膨大なデータでも瞬時に検索・提供が可能です。
なお、3年間の法定保存期間を遵守することは最低限の義務であり、これを怠ると罰則を受けるリスクがあります。そのため、電子保存システムを導入する際は、最低でも3年間のデータを確実に保持できる仕組みを整えましょう。
近年、医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進展しており、2025年からはレセプトの返戻・再請求も完全オンライン化が予定されています。医療DXの流れに伴い、レセプトも電子保存が基本となることで、長期保存がより容易になっているのが実態ですので、法定の3年間を超えて10年間の保存という推奨期間を実現しやすくなっています。
2020年民法改正の影響
2020年4月の民法改正により、診療報酬請求権の時効が令和2年3月診療分までは3年間のところ、令和2年4月診療分からは原則5年間に変更されました。「権利を行使できると知った日から5年間」または「医療機関が権利を行使できる時から10年間」のいずれか早い方が適用されます。
レセプトの増減点に関する請求は、支払機関から患者さんへの通知に時間がかかる場合があるため、医療機関としては余裕を持たせて10年間保管しておくことで、万が一の請求や照会にも対応しやすくなります。
法改正の内容を踏まえると、レセプトを10年間保存することの重要性がより高まったといえるでしょう。
レセプトを保管しておかないとどうなる?
レセプトを規定期間保管しておかないと、さまざまなリスクが生じる可能性があります。まず、法定の3年間保存を怠ると、保険医療機関の指定取消しや保険医の登録取消しなどの重い罰則を受ける可能性があります。
また、過去の診療内容の確認や保険者からの照会に対応できず、適切な医療サービスの提供や請求の正当性の証明が困難になる可能性があります。さらに、患者からの情報開示請求に応じられないなど、医療機関の信頼性にも関わる問題となりかねません。
レセプトの保管をはじめ、診療報酬請求に関するルールは、厚生労働省が「保険診療の理解のために」としてまとめています。この機会に一度目を通しておくとよいでしょう。
出典:「保険診療の理解のために【医科】令和6年度」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/001322769.pdf)
レセプトの効率的な保存方法
レセプトを10年間保存するためには、電子媒体での保管がメインになります。しかし、返戻分や院内過去分などの紙媒体が混在する可能性を考えると、両方を組み合わせたハイブリッド方式も検討しておくとよいでしょう。以下では、各保存方法について詳しく解説します。
電子媒体での保管が一般的
現在、レセプトの保管方法として最も一般的な方法が、電子媒体での保管です。
電子媒体での保管により、物理的な保管スペースが大幅に削減できます。また、デジタルデータのため検索や参照が容易だったり、バックアップを取ったりすることで災害時のデータ消失リスクも軽減できます。
一方で、システムダウンや機器故障によるリスクといったデメリットがあります。また、患者の個人情報を扱うため、高度なセキュリティ対策は必須です。不正アクセスやデータ漏洩を防ぐために、暗号化やアクセス制限などの措置を講じる必要があります。
院内の保存容量が不足し、院外のクラウドストレージサービスを利用する場合は、セキュリティ対策やサポート体制がとられている法人向けのサービスを選びましょう。
過去の返戻・査定の紙請求は、紙保存かハイブリッド保存
過去の返戻・査定に関する紙請求の保存には、紙媒体と電子媒体を組み合わせたハイブリッド方式が効果的です。たとえば、新しいレセプトは電子保存し、過去のものは紙で保管する方法や、原本は紙で保存しつつスキャンしたデータも併せて保管する方法などがあります。
ハイブリッド方式のメリットは、紙と電子それぞれの長所を活かせることです。また、段階的に電子化を進められるため、急激な変更による混乱を避けられます。
ただし、デメリットとして、紙と電子の管理方法の整合性を図る必要があります。最新版の所在を明確にし、データの整理・検索方法を統一することが重要です。これらのルールを明文化し、担当者が変わっても円滑に運用が引き継げるようにしましょう。
まとめ
レセプトの保存期間は法律上3年間ですが、実務上は10年間の保存が推奨されています。厚生労働省の請求命令(省令)改正により、2024年4月からはレセプトのオンライン請求が基本となっています。
現在オンライン請求に対応している場合は、将来的なデータ保存の容量確保について検討を進めましょう。紙から移行段階の場合は、10年保存に向けたハイブリッド保存の計画立案から始めてみてはいかがでしょうか。