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クリニック経営 医師 事務長 2022.05.30 公開

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医師法19条「応召義務」とは?応召義務を負わない「正当な理由」を解説

医師は、診察治療を拒んではいけないとする「応召義務」(おうしょうぎむ)が医師法にて定められています。しかし、いつ、いかなるときも患者に応対しなければならないとなると、医師の負担は大きすぎます。応召義務とは、一体どのようなものなのでしょうか。この記事では、法の趣旨を踏まえ、医師の応召義務について詳しく解説します。

※本内容は公開日時点の情報です

#マネジメント #労務管理

「応召義務」は医師法19条(歯科医医師法19条)で定められている

医師法19条1項には、「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。歯科医師法も同様の規定で、医師が診察治療を拒んではいけない義務を、一般的に「応召(応招)義務」、「診療義務」といいます。

応召義務の法律解釈としては、患者に対する義務ではなく、国との関係の公法上の義務とされています。医師法では、応召義務違反について刑事罰ありません。義務違反があった場合には、戒告等の行政処分はありえますが、実例として行政処分を受けた例は確認されていません。

応召義務を免れるのは「正当な事由」がある場合です。どのような場合が「正当な事由」に当たるかは、昭和24年9月10日付厚生省医務局長通知において、「それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきものである」となっています。

患者との関係での応召義務

医師(診療機関)と患者との法律的な関係は、患者(委任者)が医師(受任者)に診療行為を委任するという準委任契約(民法656条)が成立してものとして民法の適用を受けることになります。

民法の原則論では、「契約自由の原則」により、医師は受任を拒否でき、応召義務を負わなくてもよいということができます。ただし、応召義務は公法上の義務ですが、その趣旨は患者を保護することにあり、診療拒否によって患者に損害を与えた場合には法の趣旨に反し、医師側に過失があるとして賠償責任を負うこともあります。

実際に、診療拒否した医師への損害賠償を認めた裁判例もあります。たとえば、生命に関わる重篤な症状があり、すぐに治療すれば救命できたはずであるのに診療拒否した場合などが挙げられます。

したがって、医師は直接的には患者に対し応召義務を負わないものの、正当な理由なく拒否すると賠償責任を問われる場合もあるため、間接的には患者に対しても応召義務を負っているといえるでしょう。

勤務医と診療機関との関係

診療機関(医療法人)等で雇用される医師、いわゆる「勤務医」の場合には、雇用主である診療機関等との関係での応召義務が問題となりえます。

ただ、勤務医は診療機関等との雇用契約(労働契約)に基づき、診療機関等の指揮監督下で勤務しているもので、雇用主に対して応召義務を負うわけではありません。

応召義務を負わない「正当な事由」とは

では、どのような場合が診療を拒否しうる「正当な事由」に該当するのでしょうか。厚生労働省「応召義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日、以下「同通達」)によると、大きく3つの要素が検討すべき点として整理されています。

1つめは「緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)」。応召義務は患者の生命・身体の保護を図ることを目的とするものであるため、緊急性の有無は検討すべき要素になります。

2つめは「診療を求められたのが診察時間内か時間外か」という要素。医師も人間であり、休息・余暇が必要で、基本的には勤務時間外(診療時間外)であれば、医師は応召義務を負わないといえます。

そして3つめの事由が「患者との信頼関係」です。患者側に問題行動がある場合、医師が応召義務を負うのは相当性を欠きますので、そのような状況においては、応召義務を負わなくてもよいとされています。

「正当な事由」が認められる個別事例

ここでは、同通達において、応召義務を負わない「正当な事由」が認められる具体例を、ケースごとにみていきましょう。

診療時間外・勤務時間外に診療を求められた場合

診療時間内・勤務時間内に診療を求められた場合、当該診療機関では対応できない病状であるなどの例外がない限りは、原則として応召義務を負います。しかし、診療時間外・勤務時間外に診療を求められた場合には、応急処置を取るのが望ましいですが、原則として応召義務を負わないものとされています。

緊急対応が不要な場合

診療時間外・勤務時間外で緊急対応が不要な場合は、原則として応召義務を負いません。しかし、緊急対応が不要な場合でも、診療時間内・勤務時間内に診療を求められた場合には、当該診療機関では対応できない病状であるなどの例外がない限り原則として応召義務を負うとされています。

そのほかの個別事例

・患者の迷惑行為
患者が診療内容とは関係のないクレームを繰り返すなどの迷惑行為がある場合には、患者との信頼関係がないことから、新たな診療を行う必要はないとされています。

・医療費の不払い
以前に医療費の不払いがあったとしても、不払いを理由に直ちに診療を拒否することは正当化されません。ただし、保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には、診療を拒否することができます。

・入院患者の退院、ほかの医療機関への転院
入院継続の必要性がない場合に退院させることや、必要性があってもほかの診療機関へ転院させることについては、患者の保護に反するものではないため、応召義務を負いません。

・差別的な取り扱い
患者の年齢、性別、人種、国籍、宗教などのみを理由に診療を拒否することは正当化されません。ただし、言葉が通じなかったり、宗教上の理由などで適切な診療が行えなかったりする場合は、診療を拒むことも正当とされます。

【ケーススタディ】想定事例でみる応召義務

たとえば、診療時間終了間際に来院された患者さんや、保険証を忘れた患者さんに対して応召義務は発生するのでしょうか。最後に医師法の趣旨や同通達を踏まえ、この2つの事例における判断基準について考えてみましょう。

診療時間の終了間際に来院された患者さんの診察を断る

まずは、緊急対応が必要な病状かどうかを把握しましょう。患者の話を聞き、症状を診るなどして、緊急対応が必要と判断される場合は応召義務があるといえます。しかし、緊急対応の必要がない場合は、医師が応召義務を負うことはありません。

保険証を忘れた患者さんの診察を断る

同通達での医療費の不払いの事例をもとにすると、保険証を忘れたことのみで診察を断ると、応召義務に反すると判断されかねません。ただ、何度も保険証を忘れ続けるなど、患者側に問題行動があると判断される場合には、正当とされる可能性が高いでしょう。

まとめ

医師の応召義務は公法上の義務で、その趣旨は患者を保護することにあり、診療拒否によって患者に損害を与えた場合には賠償責任を負うこともあります。しかし医師も人間であり、現実的に24時間365日応対することは不可能です。

そのため「正当な事由」があれば、応召義務を拒むことができるとされています。応召義務を負うケースかどうかは、医師法の趣旨(患者の保護)と、それを踏まえて整理された厚生労働省の上記通達をもとに判断するようにしてください。

【参照】
厚生労働省「医師の応召義務について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf

厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf

著者情報

南 陽輔

南 陽輔

弁護士
大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録、2021年独立開業(大阪弁護士会所属)。大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件など幅広い領域の法律業務を担当。2021年3月に一歩法律事務所を設立。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主とした業務を取り扱っている。

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