レセプトの入力作業は複雑であるために間違えやすい業務のひとつで、修正できずにレセプト請求を行うと返戻対応が必要となります。そこで、レセプトの誤りを少しでも減らすために導入されたのが受付・事務点検ASP機能です。
今回は、ASP機能の基本事項や先日行われたASP機能の変更・拡充の内容を紹介し、ASP機能を生かしつつさらなる業務効率化を行うためのレセコン選びについて詳しく解説します。
ASP機能によるレセプトチェックとは?
保険医療機関がオンライン請求システムを利用して、レセプト提出を行うときに、受付・事務点検プログラムを利用してレセプトに事務的な記載ミスがないか確認できます。そして、この事務点検を行うときに利用しているのがASP(Application Service Provider)サービスです。
レセプト提出先の国民健康保険団体連合会(以下、国保連)および社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)で利用しているASPサービスは、一部運用方法に違いはあるものの共通の仕組みを用いています。今回のASP機能変更による請求先ごとの運用方法の違いは、後ほど説明します。
ASP機能を利用することで、提出したレセプトの請求ファイルの形式・医療機関情報・保険者情報・受診日・窓口負担額・診療行為・医薬品などに誤りがないかを事前にチェックすることが可能です。ASP機能により発見したミスを修正したあとに請求確定を行うことで、返戻を未然に防げるようになります。
ただし、ASP機能を利用するためにはオンライン請求によってレセプトの提出を行う必要があります。
9月請求分からASP機能が拡充
レセプト請求前のエラーチェックを担うASP機能は2021年9月請求分から一部の運用方法が変更しています。ここからは、ASP機能の変更点について詳しく紹介していきます。
変更点・追加点
まずは変更点を紹介します。従来のチェック項目(L3、L3000番台に該当)の中で必ず返戻となっていた項目について、ASP機能によるレセプトチェックの段階で修正を必須とするように仕様が変更されました。この変更点は支払基金と国保連で共通です。
次に、ASPサービスに追加された機能を2点紹介します。
1. 査定・返戻回数が多い基本的な誤りをチェック項目(L4, L4800番台を除くL4000番台に該当)として追加(国保連・支払基金共通)
2. 電子点数表を用いたチェック項目(L7, L7000番台に該当)を追加(支払基金のみ)
1つ目の追加機能は「診療行為に対応しない診断料の記録」や「実日数を超える診療回数の記録」など、過去に査定・返戻件数を多く認めた基本的な記載ミスの事例の追加です。たとえば「縫合加算が算定できない診療行為に縫合加算が記録されたレセプト」や「診療月の日数を超える国保診療実日数が記録されたレセプト」が該当します。
2つ目の電子点数表を用いたASPチェック項目は支払基金へのレセプト請求分のみ対象となります。国保連のレセプトチェックで電子点数表を利用するにはシステム更改が必要となるため、現時点では対応していません。なお、国保連のレセプトチェックに係るシステム更改は2024年を予定しています。
修正および追加の詳細は下記を参考にしてください。
国民健康保険中央会「オンライン請求における受付・事務点検 ASP 機能の拡充について」
別紙1:修正を必須とするL3000番台の事例一覧
別紙2:L4000番台の追加事例一覧
別紙3:L7000番台の追加事例一覧
利用開始日
機能が拡充したASPサービスの適用は2021年9月からです。国保連への請求分は2021年9月5日、支払基金への請求分は2021年9月6日から拡充した受付・事務点検ASP機能の利用が開始されています。
拡充によるメリット
今回のASP機能の拡充による最大のメリットはレセプト請求前に把握・修正可能なエラー項目が増えたことです。これにより、基本的なミスが原因となる返戻の件数減少が期待できます。
「ASP機能があれば安心」ではない理由
拡充したASP機能を用いたレセプトチェックにより、すべての医療機関で返戻がゼロになる可能性は低いです。その理由として、主に以下の2つが考えられます。
チェック項目が十分ではない
今回のASP機能の変更・拡充も含め、ASPサービスを用いたレセプトチェックではあくまで基本的かつ規則的にエラーと認識できる部分しかチェックできません。基本的な誤りだったとしても件数が少ない事例や返戻理由が特殊な事例をASP機能によるチェックで修正することは困難です。
情報の更新頻度が低い
2007年から導入されたオンライン請求における受付・事務点検ASP機能は、2020年と2021年に変更・拡充が行われました。しかしながら、それ以前に医科・DPC・歯科の領域でASP機能の変更は行われていません。新たな治療方法の導入や診療報酬改定などがあればチェック項目をその都度見直すことでより精度の高いチェックを実施できますが、十分な見直し・システム変更を行うために十分な更新頻度とは言い切れません。
今回のASP機能の拡充により、レセプト関連業務の効率化につながることが期待できます。一方で、レセプト提出時のASP機能を用いたチェックだけでは全ての誤りを発見・修正することは困難です。
また、ASP機能が利用できるのはオンライン請求が可能な5日~10日の限られた範囲内であり、利用するためには、オンライン請求システムへのアップロードが必要です。さらに修正する場合には、再度電子カルテやレセコンの内容を修正しデータのエクスポートとオンライン請求システムへのアップロードが必要となり、大幅に時間と手間がかかります。そのため、ASP機能に頼りすぎてしまうと、むしろレセプト時期の業務負荷を増やしてしまうことにもつながります。
レセプトの誤りを減らすためには、まず日々の電子カルテやレセコン入力時のデータの正確性が重要です。そのチェックを細かく行える電子カルテやレセコンであれば、レセプト期間(5日~10日)に限らず、日々の業務のなかでデータの修正が可能です。都度チェックを行えるため、患者さまへの返金や追加請求も削減できます。さらに、エラーが出た場合は同じシステム内で修正が完結するため、データのエクスポートやアップロードも不要です。
日常的にレセプトチェックを行うことが、レセプト期間の業務負荷軽減につながります。ASP機能によるレセプトチェックはダブルチェック機能と捉え、日々のレセプトチェックは電子カルテやレセコンに内包されているチェック機能を活用すると良いでしょう。
本記事のポイント
1. オンライン請求によるレセプト提出では簡易的なチェックを行うASP機能を利用可能
2. 2021年9月請求分からレセプト受付・事務点検ASP機能が変更・拡充
3. 過去に査定・返戻回数が多い基本的なエラー事例をチェック項目に追加
4. ASP機能の利用だけでなく、日々の正確なレセプト作成を補助するレセコンを選ぶこと