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病院、診療所に対しては行政指導が実施されています。今回の記事では、その概要と対応について詳しく解説します。
取り消し処分となった場合には、登録取り消しに加えて返還金(いわゆる罰金)を求められます。こういったリスクを回避するためにも、現場でできる対策を事前にチェックしておきましょう。
医療機関における個別指導・監査とは
まずは、厚生局の個別指導・監査の概要や目的について解説いたします。
個別指導とその指導手順
個別指導とは、厚生局が医療機関や保険医に対して、保険診療や診療費の請求が適切に行えるように指導することです。
医療機関の場合、以下の3つの指導があります。
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厚生労働省『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』
個別指導では、まず対象となる医療機関や保険医に厚生局から文書通知が届きます。患者さまや保険者、審査支払機関から情報提供があったり、集団的個別指導を受けた医療機関でも改善がなかったりするケースなどが対象になりやすいです。
そして、文書に記載された指定の日時・場所に出席者※1が参加します。個別指導の場合、原則として指導月以前の連続した2か月間の診療報酬明細書や関係書類などを基に出席者と指導員が面談を行うという流れです。
※1 主に対象となる医療機関の管理者が出席、場合によっては事務担当者や看護師が出席するケースもあり
指導後の措置には、以下の4つがあります。
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厚生労働省『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』
なお、「要監査措置」を受けた場合、または個別指導を拒否した場合には次のステップである監査に進みます。
監査と監査の手順について
監査とは、厚生局が医療機関や保険医に対し、保険診療や診療費の請求で不正や不当を行なっていないかチェックするものです。監査の結果次第では、保険指定を取り消されるケースもあります。
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厚生労働省『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』
監査を行うにあたっては事前調査があります。診療報酬明細書による書面調査と、場合によっては患者さまに対する実地調査が実施されます。そして厚生局より監査の日時や場所が記載された通知が届き、出席者はその通知に従って監査を受けるという流れです。
個別指導と監査の違い
個別指導は、文字通り医療機関や保険医に対する指導です。適切な診療を促すため、教育的観点からルールの周知徹底を図るものになります。
監査はペナルティを伴うチェックを指し、ルールが故意に守られていないと疑われた場合に実施されるものです。
個別指導で「要監査」と判断された場合に、監査が実施されます。したがって両者は同列の作業ではなく段階になっています。個別指導の結果次第では、監査を受ける必要はありません。
個別指導・監査の実施状況を調査
次に、厚生労働省のデータを基に、個別指導と監査を受けた医療機関の割合を解説します。
個別指導・監査などの実施件数
近年の個別指導と監査の実施件数は、以下の通りです。
※個別指導の実施件数については、2021年度のデータが公表されていないため、2020年度のデータを引用
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厚生労働省『保険診療における指導・監査』
▼参考資料はコチラ
厚生労働省『保険診療の理解のために』
それぞれの実施年が異なるものの仮に同じ年に実施されたとすると、保険医療機関では個別指導を受けたうちの約3%、保険医などでは約5%で監査が実施されています。この数値を踏まえると、監査が実施される割合はそれほど高くないと言えるでしょう。
取り消しの状況
一方、指定取り消しの件数は以下の通りとなっています。
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厚生労働省『保険診療の理解のために』
また、監査の結果、医療機関では約40%、保険医においては約12%が取り消し処分になっています。つまり、「監査→取り消し処分」となる割合は「個別指導→監査」よりも高いわけです。まずは監査対象にならないことを心がけましょう。
【医科】厚生局からの指摘事項例を解説
監査対象にならないためには、過去に指摘された事例を参考にした対策が有効です。
個別指導(新規指導)でクリニックがとくに注意したい指摘事項の例として、以下の2つがあります。具体的な内容を確認して同様の指摘を受けないように注意しましょう。
●医学管理等
診療情報提供料(Ⅰ)について、紹介元医療機関への受診行動を伴わない患者紹介の返事について算定している。
●検査・画像診断・病理診断
病理判断料について、病理学的検査の結果に基づく病理判断の要点を診療録に記載していない。また、重複とみなされる検査の実施。
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厚生労働省『令和元年度特定共同指導・共同指導(医科)における主な指摘事項』
本来行うべきである指導を行わない、併用が禁止されている薬剤の同時処方や自費診療との混合なども当然ですが指摘が入る傾向にあります。
こうした事態を避けるためにも、管理者による現場のチェックは欠かせません。たとえば、治療計画の判断の根拠が薄いものは担当医師に確認すべきでしょう。レセプトの備考に理由の明記を義務づけると、事務サイドでも抜け漏れがないか確認できます。
また、ICT化でデータベースを導入して管理するなども対策としてあげられます。データベースで管理することによりアクセスや確認が容易になるので、現場のミスにも早い段階で気づけます。
取り消し処分になり得る4つの理由
ここまでに、指摘事項の事例を解説しました。次では、取り消し処分の原因となり得る4つの理由とその対策について解説します。
架空請求
架空請求とは、実際には行っていない診療の請求を行うことです。次に例をあげます。
例)
実際には行っていない保険診療を行ったものとして報酬診療の不正請求を行う
対策)
経理・事務・診療の3つの視点から記録の照合、電子カルテの導入
まず、レセプトとカルテの照合をすることで、実際の診療と診療報酬の請求内容に齟齬がないかを確認できます。また、レセプトと現金の動きを照合して、虚偽の報告がないか確かめることが可能です。
ただし上記の手順で管理すると多くの工数が必要となるので、多忙な医療現場の負担になってしまうでしょう。そのため、電子カルテを導入し、システム上で一元管理するのがおすすめです。
付増請求
付増請求とは診療回数(日数)、数量、内容などを実際に行ったものより多く請求することです。例をあげて、解説します。
例)
実際に行った保険診療に、虚偽の保険診療内容を付け足し、報酬診療の不正請求を行う
対策)
レセプトとカルテの照合、データベース上での管理
まずは、レセプトとカルテを照合し、虚偽となりうる報告がないか確認しましょう。その他・診療の記録をデータベースで一元管理することで、管理者によるチェックがしやすくなります。管理者は診療記録において、処方している薬剤の数量・通院回数などで異常な数値が存在しないかを確認しましょう。
振替請求
振替請求とは、保険診療の内容を保険点数の高い他の診療内容に振替えて請求することを指します。
例)
実際に行った保険診療を、保険点数の高い別の診療に振り替えて、報酬診療の不正請求を行った
対策)
レセプトとカルテの照合、データベース上での管理
前述と同様となりますが、管理者は診察に対する、治療計画や処方している薬剤が適切であるかどうかに目を光らせなければなりません。また、事務側もレセプトの摘要を確認し、不適切な内容が存在しないかの確認をしてください。
二重請求
二重請求とは、自費診療を行って患者さまから費用を受領しているにもかかわらず、保険でも診療報酬を請求することを指します。現場では下記のようなケースがあげられます。
例)
自費診療で行なった患者さまの診療内容を、保険診療の内容のものに振り替えて請求した
対策)
経理部門による支払い記録とレセプトの照合、電子カルテの導入
二重請求においては自費診療の請求が既にあるため、支払い記録とレセプトの照会で齟齬が発見できます。電子カルテを導入すれば、よりスムーズに確認作業を行うことができます。
厚生局から取り消し処分を受けるとどうなるのか
監査の結果、取り消し処分を受けた医療機関もしくは保険医は、原則5年間は再指定・再登録が行えません。
また、5年間分の診療報酬を返還する義務も発生します。通常の返還金に加え、40%の加算金が必要になる場合もあるのです。
2021年度の返還金は、総額で約109億円にも上っています。
(3)返還金
指導、適時調査、監査により返還を求めた金額…約109億円
▼参考資料はコチラ
厚生労働省『保険診療の理解のために』
2021年度の監査後に取り消し措置に至った施設は21施設です。1施設当たり、約5億の返還金が発生している計算となります。こうした事態を招かないためにも、個別指導・監査対策を普段から実施しておくことをおすすめします。
個別指導・監査には事前の対策が必要
個別指導・監査について、その違いや具体例を説明しました。
以下に要点をまとめています。
・監査は個別指導と違い、行政措置を伴う
・監査の対象となった医療機関の半数、保険医の4分の1が取り消し処分となっている
・記載漏れや文書の改ざん、認められていない診療の実施は取り消し処分の対象となる
・取り消し処分が決まると原則5年は再登録ができず、返還金を請求される
取り消し処分の措置が適用されるケースの多くは、故意に不正を行なった場合になります。よって不正と取られるような記録のつけ方は避け、自身が医療機関の管理者である場合、院内全体で不正が起こっていないか確認しておくのが重要です。
個別指導対策について知りたい方は、こちらの動画コンテンツをご覧ください。
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