目 次
1. 開業届とは?
クリニック開業準備の中で、今日は開業届の書き方のポイントを説明します。開業時にお役所に提出する書類は多々ありますが、開業に関するものだけでも3種類あります。間違えやすいのでしっかり押さえておきましょう。
- 開業届(税務署、事業開始後1カ月)
- 診療所開設届(保健所:医療法に基づく診療所開設届、開設後10日以内)
- 保険医療機関指定申請書(厚生局:保険診療を行うための申請、開設届受理後)
開業届はクリニックの開業にかかわらず、個人事業主が事業を始めるときに所轄の税務署に事業開始の届け出をする書類です。所轄の税務署は、個人事業主の場合は住所地です。副業として自宅で仕事をする場合や複数の非常勤勤務をする場合の開業届は、納税地に自宅の住所・電話番号を記入します。
2. 開業届の提出は義務?出さない場合の罰則は?
開業届は、事業開始後1カ月以内に提出します。提出は義務ではなく罰則もありません。
ただし、後述の青色申告などの税務署の手続き、金融機関の口座開設や借入時などに、開業している証明として開業届けの写しが求められます。求められた際は遅滞なく提出しましょう。
開業届には、国税庁の税務署に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書」と都道府県税事務所に提出する「個人事業税の事業開始等申告書」の2種類があります。
3. 開業届を提出するメリット
個人事業主が開業届を提出するメリットは大きく分けて2つあります。
1つは、継続的な事業として経費を計上できることです。執筆や講演など医療行為以外の副収入が多い場合、開業届を出すことで副業に関わる旅費や研究費用を経費として計上し確定申告ができます。節税効果の高い青色申告制度を使うこともできます。
もう1つは、個人事業主としての社会的な証明を得ることができることです。
開業届は、クリニックの賃貸借契約や事業用の屋号付き銀行口座の開設、事業用クレジットカード決済の導入時にも必要となります。
(1)青色申告特別控除が使える
確定申告とは、毎年1回、前年度の収入(売上)から経費を差し引いて、所得税がかかる所得金額を確定する税務上の手続きです。算出された所得全額に所得税がかかるわけではなく、社会保険料などの所得から控除する(差し引く)と決められた費用(所得控除)を差し引いて、所得金額を確定します。青色申告制度を使うと、さらに最大65万円の控除を受けることができます。所得税と住民税の節税効果があります。
(2)事業用口座の開設が可能
クリニックで使う銀行口座は、基本的には院長の個人名義になりますが、最近では、クリニック名や屋号を使った事業用口座の開設ができる金融機関も増えています。
プライベートの銀行口座と別に事業用の口座とクレジットカードを開設するとプライベートのお金と事業のお金が明確に区分できます。個人事業主の事業用口座やクレジットカードの申し込み時に開業届の控えが必要になります。
(3)創業融資の申し込み時に必要
クリニックや事務所などの賃貸借契約は事業開始前の契約になります。事業を行う公的な証明書として開業届の控えが求められることがあります。同じ理由で、金融機関から借入を行う融資手続きの場合も開業届の控えが必要です。また、経済産業省や厚生労働省の補助金や助成金の申請をする場合にも求められることがあります。
(4)職業の証明になる
個人医院の開設は、法人のように正式な「登記」手続きが決められているわけではありません。開業届は、対外的な信用を得るための証明書の役割を果たします。勤務医として働きながら執筆や講演、外部との連携で事業を行う場合、本名に加えて屋号を使うことができます。屋号付きの開業届をだすと事業用銀行口座の開設もできるので、医師のアルバイトではなく事業家として信頼を得やすくなります。
4. 開業届を提出する場合のデメリットや注意点
次に開業届を提出するデメリットを紹介します。
失業手当を受給中や配偶者や親の扶養の人、副業をしている人は、開業届を提出するのに注意が必要です。
(1)職業や所得によって税率や課税対象が異なる
開業届を出すときに「職業」の記載には注意してください。個人事業主の職業と所得金額によっては所得税以外に個人事業税を払う必要があります。課税対象は、70種の「法定業種」の職種が定められています。職種により非課税から5%まで税率が異なります。
医師もしくはコンサルタント業は、第3種にあたり5%の個人事業税を払います。それ以外の事業をする場合は非課税になる場合もあるので確認してください。
(2)失業手当をもらっている場合は受給できなくなる
雇用保険の失業手当をもらっている人は受給できなくなります。雇用保険は就職準備中のかたのための制度なので、開業届を出すと自分で事業を始めたことになり、失業手当を受けることができなくなります。
また、副業中の方は今の勤務先を辞めた時に、雇用保険から失業手当を受け取る資格があっても、既に開業届を提出していると自営業者とみなされます。まだ収入がなくても対象外となります。
(3)配偶者の扶養から外れる場合がある
配偶者の扶養家族となっている場合は、開業届を出すと扶養から外れることがあります。扶養は税制上と社会保険上と2つの制度があります。
税制上は本人の所得(収入―経費)が一定額を超えていなければ、個人事業主でも扶養を外れることはありません。
社会保険上は厚生年金と健康保険の2つをチェックする必要があります。健康保険組合によっては自営業の場合は扶養から外れる場合があるので確認しましょう。
5. 開業届の書き方
新規に事業を開始する場合の開業届の書き方を解説します。届出書は「新設」「移設」「廃止」の時も共通です。事業開始時の記入箇所を網掛けで示します。 なお、個人事業主の納税地は個人の住所地になります。もしクリニック・事務所の住所を納税地とする場合、「3)納税地」をクリニック・事務所、「4)上記以外の住所地」を自宅住所とします。その場合は「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」をあわせて提出します。
項目 | 内容 | |
---|---|---|
従業員無の場合 | 1)税務署長名 | 所轄の税務署名を記入 |
2)提出日 | 事業開始後から1ヶ月以内の日(原則) | |
3)納税地 | 住民票のある場所または居住地を記入 | |
4)上記以外の住所地 | クリニック、事業所を借りている場合 自宅兼クリニック/オフィスの場合は不要 |
|
5)氏名・ふりがな・生年月日 | 住民票に記載されている氏名 | |
6)個人番号 | マイナンバーや通知カードの数字(12桁) | |
7)職業 | 事業所得を得る職業を記載 | |
8)屋号 | 任意(屋号入り銀行口座を開設する場合は必須) | |
9)届出区分 開業先住所氏名 | 「開業」開業先の住所と氏名を記入 | |
10)所得の種類 | 事業所得を選択(必要に応じ、不動産なども) | |
11)開業・廃業等日 | 開業した日を記入 | |
12)開業・廃業に伴う届出書の有無 |
|
|
13)事業の概要 | ||
従業員を雇う場合 | 給与の支払状況 | 給料を支払う場合は「従業員数」と「税金の有無」を記載」 |
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」 | 源泉所得税は、従業員の給与から差し引いた所得税を事業者がまとめて税務署に納付するもの 毎月納付が原則ですが、従業員が10人以下の場合は年2回支払う方法を選択できる |
|
給与支払いを開始する日 | 給与支払いの予定を記入 |
6. 開業届の入手方法と提出期限
開業届の入手方法と提出期限について解説します。
(1)開業届の入手方法
開業届出書は、最寄りの税務署で受け取るか国税庁のホームページからダウンロードできます。PDF書類ですが、パソコン上で入力できるフォームをダウンロードできるので、1枚目を記入すると自動的に2枚目も転記されます。
紙の用紙に手書きで記入する場合は2枚目をコピーします。
(2)開業届の提出にかかる費用
開業届出書は無料で入手でき、提出費用はかかりません。郵送の場合、開業届出は一部だけでも有効ですが、税務署の受領印のある開業届を返送してもらうため、所轄の税務署へ2部提出します。返信先の住所を記入し切手貼付の返信用の封筒を同封します。
(3)開業届の提出期限
開業届の提出期限は、事業開始から1カ月以内に納税地を所轄する税務署長に提出します。金融機関へ創業融資の申請や銀行口座の開設をする場合は、実際のクリニックの開業や事業開始前に準備期間を含めて早めの開業届を出します。
クリニック開業に関して、詳しく知りたい方はこちらもご参照ください。
クリニック開業の準備期間ってどれくらい?開業時期はいつが良いの?
7. 開業届以外の必要書類
クリニック開業時に、開業届以外に必要な書類についてまとめます。
新規にクリニックを開業する場合は、内装工事の院内レイアウトとクリニック名を決定する前に保健所に相談に行きます。内装工事の図面が出来上がった段階で、レイアウトの確認をします。
そのほか、常時雇用する従業員が5人以上の場合もしくは5人未満でも任意で社会保険に加入する場合は社会保険の手続きが必要になります。
項目 | 内容 | 期限 | |
---|---|---|---|
厚生局 | 保険医療機関指定申請書 | 保険医療を行う場合 | |
社会保険事務所 | 保険医登録申請書 | 開業に合わせて | 毎月1日付で指定 |
保険医療機関指定申請書 | 開業に合わせて | 毎月1日付で指定 | |
保健所 | 診療所開設届 | 開設後10日以内 | |
診療用X線装置備府届け | 診療用X線装置を使用 | 開設後10日以内 | |
麻薬管理者・施用者免許申請書 | 診療所開設届出後 | 随時 | |
結核予防指定医療機関指定申請書 | 診療所開設届出後 | 随時 | |
診療所使用許可申請書 | 有床診療所の場合 | 開設前 | |
福祉事務所 | 生活保護法指定医療機関指定申請書 | 診療所開設届出後 | 随時 |
労働基準監督署 | 労災保険指定医療機関指定申請書 | 診療所開設届出後 | 随時 |
労災保険の保険関係成立届 | 従業員を雇用する場合 | 事業開始から10日以内 | |
地区医師会 | 母体保護法指定医師指定申請書 | 診療所開設届出後 | 随時 |
都道府県税事務所 | 個人事業税の事業開始等申請書 | 青色申告する年の3月15日まで | |
税務署 | 所得税の青色申告承認申告書 | 青色申告をする場合 | 開業後1ヶ月以内 |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色事業専従者に該当する場合 | 青色申告する年の3月15日まで | |
給与支払事務所などの開設届出 | 従業員を雇用する場合 | 開業後1ヶ月以内 | |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 毎月ではなく年2回の納付を希望する場合 | 随時、提出の翌月から適用 | |
公共職業安定所 | 雇用保険適用事務所設置届 | 従業員を雇用する場合 | 事業開始から10日以内 |
届出・申請に関連するコラムはこちらもご参照ください。
クリニック開業手続きで必要な診療所開設届と保険医療機関指定申請
筆者プロフィール
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