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そもそも電子カルテの「端末」とは何か
近年の電子カルテはパソコンをはじめとしたさまざまな端末で使用できるようになっています。はじめに、電子カルテの「端末」とはどのようなものを指すのか詳しく見てみましょう。
端末の具体例
端末とはネットワークに接続され、情報を出入力する機能を持つ機器のことです。具体的には以下のような機器が挙げられます。
- パソコン
- タブレット(タッチ式デジタル機器)
- スマートフォン
また、近年ではテレビやオーディオ機器などの電化製品、時計などもネットワークに接続できるタイプのものが多くなっており、これらも端末の一種とされます。
現在のところ、電子カルテはパソコン(デスクトップ型、ノート型)、タブレット、スマートフォンで操作することができます。メーカーによってはタブレット、スマートフォンでの操作ができない電子カルテもありますので、導入する際には使用できる端末を確認することが大切です。
ITに不慣れでも操作しやすい
日頃、ITを使用する頻度が低く不慣れな方は端末で操作する電子カルテに苦手意識を持つケースも少なくありません。しかし、多くの電子カルテはITが不慣れでも使いやすくスムーズな診療ができるように工夫されています。医療従事者は幅広い年代の方がいます。近年の電子カルテはITに慣れた世代だけではなく、長く紙カルテに慣れてきた人でも使いやすく工夫されています。使い方をマスターすれば紙カルテよりも効率よく業務ができるようになるでしょう。
電子カルテ端末の機能
電子カルテ端末には、業務の効率化やヒューマンエラーの防止につながる機能など、紙カルテにはないさまざまな機能が搭載されています。
電子カルテ端末には具体的にどのような機能があるのか詳しく見てみましょう。
「定型文」を登録できる
電子カルテはパソコンのように定型文を登録することができます。各診療科や医療機関において頻度の高い所見を登録することで、「所見」と入力すれば「所見 腹痛: 嘔吐: 下痢:」などのように自動入力されるようになるため作業効率を高めることが可能です。
また、診療情報提供書などの文書作成も定型文を登録しておけば必要箇所だけ記載・修正するだけで煩雑な記載作業を大きく削減することにつながります。
必要事項の記入漏れを防ぐことにもつながるため、診療の質を高めることもできるでしょう。
音声入力できる
一部の電子カルテは音声入力の機能が搭載されています。音声を自動的に文字に変換してカルテ入力ができるため、文字入力の手間を省くことが可能です。特に患者数が多い外来や訪問診療などで役立つ機能ですが、正確な音声入力をするには専用のマイクが必要な場合もあります。一般的には、タブレットやスマートフォンでの音声入力は専用マイクなどのデバイスは必要ないケースが多いですが、パソコン端末ではマイクが必要である電子カルテが多くなっています。音声入力を活用する予定がある場合は、事前にどのようなデバイスが必要か確認しておきましょう。
データ入力を簡便化できる
電子カルテの種類によっては、数字入力やプルタブの選択によって検査データを簡便に入力できる機能が搭載されているものがあります。紙カルテに慣れていると電子カルテの文字入力は手間がかかると思われがちですが、紙カルテのように検査項目や数値など全てを記載する必要がないため、むしろ入力の手間を省くことが可能です。
また、異常値がある場合にアラートが表示される機能が備わった電子カルテもあり、検査結果の見落としといった重大なヒューマンエラーを予防することができます。
手書き入力もできる
電子カルテは文字入力やPDF化した文書や画像の取り込みだけではなく、手書き入力ができるものもあります。文字入力に慣れていなくてもタブレットにタッチペンなどで記載すれば紙カルテと同じように使用することができます。
特に、皮膚科のような視診所見の記載が必須である診療科では手書き機能が搭載されている電子カルテは非常に利便性が高いといえます。ただし、手書き入力のやり方やスムーズさは各メーカーによって異なりますので、導入を考えている場合は実際にデモ体験などを行い検討するのがよいでしょう。
過去のカルテをコピーできる
前回の診察時と同じいわゆる「do処方」をする場合に、処方内容をそのままコピーできる機能が備わっている電子カルテは一般的でしょう。近年の電子カルテの中には、処方だけでなく、高血圧や糖尿病など所見が大きく変わらない慢性疾患の診療では、過去のカルテ内容をコピーできる機能が備わっているものもあります。
一方で、自動的にコピーできてしまうことで所見変化の記載漏れが生じるケースもあります。コピー機能を活用するときは、記載漏れなどに十分注意してヒューマンエラーが生じないよう注意する必要があります。
最適な端末の選び方
電子カルテ端末には上述したように紙カルテにはないさまざまな機能が搭載されています。それらの機能を上手く使いこなすことで業務の効率化を図ることができますが、どのような端末を選べばよいのでしょうか?それぞれのケースに適した端末の選び方について詳しく見てみましょう。
ノートパソコンが向いているケース
持ち運びしやすいノートパソコンは、医療機関内だけではなく訪問診療など院外で使用するのに適しています。電子カルテはクラウド型のシステムを使用すれば、院外でもネットワークがあるところでは問題なく使用することが可能です。また、院外で使用できるオンプレミス型の電子カルテもありますので、院外で電子カルテを使用する予定がある場合は導入前に使用可能かチェックしておきましょう。
院内のみで使用する場合でも、ノートパソコンであれば使用場所を移動することができます。診察室だけでなく院長室や検査室などでも使用するシーンがある場合は、1台を使いまわせるノートパソコンを選ぶとよいでしょう。
デスクトップパソコンが向いているケース
電子カルテを持ち運ぶ必要がなく、診察室のみで使用する場合はデスクトップパソコンが向いています。デスクトップパソコンはディスプレイの大きさや品質がノートパソコンに比べ高いことが多く、検査画像などを患者さんに提示する際に「見やすさ」を重視することができます。ノートパソコンでもディスプレイを設置することができますが、デスクトップパソコンは本体と外付けのキーボード、ディスプレイのみなので机上のスペースを広く使うことができます。
一か所でしか電子カルテを使用しない場合は、デスクトップパソコンを検討するのがよいでしょう。
タブレット端末が向いているケース
タブレット端末の一番の特徴は小型で軽いため、持ち運びが非常に便利です。医療機関内どこでも使用できるだけではなく、クラウド型の電子カルテを搭載すれば訪問診療時など院外でも自由に電子カルテを閲覧、記載することができます。
また、タブレット端末はコメディカルとの連携時にも役立ち、検査や処置の進行状況などを双方で伝え合うのに非常に適しています。さらに、検査や治療方法の動画などを搭載することで患者さんへの説明にも活用することができます。近年ではAI問診などと連携できる電子カルテもあり、今後はタブレット端末を活用する医療機関が増えていくと考えられます。
電子カルテをタブレットで利用するメリット
電子カルテはさまざまな端末で使用することができますが、タブレット端末が活用されるシーンも増えています。タブレット端末に対応した電子カルテも多く販売されていますが、タブレット端末の利用にはどのようなメリットがあるのか詳しく見てみましょう。
持ち運びしやすい
タブレット端末はノートパソコンよりも小型で軽いため、持ち運びに適しています。医療機関内の診察室だけではなく、訪問診療や緊急時に自宅などからでも電子カルテを操作することができるため、院外で使用する機会がある場合には非常に便利です。
画面のサイズなどはノートパソコンやデスクトップパソコンに劣りますが電子カルテの性能自体はパソコンと変わりなく、タブレット端末のみで十分な機能を活用することができます。過去カルテの閲覧だけでなく、検査結果や画像所見の確認、新たなカルテ記載も可能であり、タブレット端末が1台あれば問題なく診療を行うことが可能です。
タッチペンで手書きも
電子カルテの中には、タブレット端末にタッチペンを使用することで紙カルテのように手書きでカルテ記載できる機能が搭載されているものがあります。キーボードでの文字入力が苦手な場合でも紙カルテと同じ感覚で使用することが可能です。また、視診所見や縫合などの処置の所見をスケッチしてカルテに記載が必要な場合も、スケッチをそのまま入力することができます。
特に、皮膚科や整形外科などスケッチを記載する必要がある診療科には非常に適した機能であり、電子カルテへの記載を簡便化することで業務効率のアップにつながります。
画像の撮影・取り込みができる
タブレット端末は写真や動画を撮影するカメラ機能が搭載されているものが多く、撮影した画像をそのまま電子カルテに取り込むことができます。パソコンで電子カルテを使用する場合はデジタルカメラなどで撮影した画像を別途取り込む必要がありますが、タブレット端末はダイレクトにカルテ内に取り込みが可能です。業務の手間を省くことができるだけでなく、取り込み漏れやミスを防ぐといったメリットもあります。
医療現場でのタブレット端末活用例
タブレット端末を用いての電子カルテの操作は多くのメリットがあり、現在多くの医療機関でタブレット端末の活用が取り組まれています。では、具体的にどのような形でタブレット端末が活用されているのか見てみましょう。
患者さんへの説明
タブレット端末は患者さんが実際に触れて操作したり、近い位置で見たりすることができるため、治療内容や病状の説明などの際に活用されています。パソコンの画面では伝わりにくい内容もタブレット端末を用いて画像や資料を提示することでより伝わりやすくなります。特に、画像はタッチペンなどで病変部分をマーキングすることなどで視覚的に分かりやすい説明をすることが可能です。
また、手術や検査の説明動画を取り込み患者さんに提示することで従来の口頭だけの説明よりも分かりやすい説明ができるようになります。
問診票の記載
タブレット端末は持ち運びしやすく、患者さんが待合室などで自由に触れることができます。近年ではタブレット端末で事前問診を行い、情報を連携する機能を搭載した電子カルテも増えています。転記ミスや確認漏れなどのヒューマンエラーを予防することにもつながり、さらにはAI技術を用いて問診から考え得る疾患をリストアップするサービスなども開発されているのが現状です。
その他にも、待合時間に治療や検査、薬剤の説明動画を流すなど患者さんの医療体験の向上に役立たせる医療機関も増えています。
検査入力や指示の確認
タブレット端末は検査結果の入力や指示の確認などにも使用されています。持ち運びが便利で場所を取らないため、リハビリ室や検査室などでも手早く必要な情報の入力や確認をすることができます。また、電子カルテと連携しているため入力した検査結果や実施したリハビリ内容がそのまま電子カルテに自動入力されるため、業務の効率化や転記ミスなどのヒューマンエラーを防ぐことにもつながります。
情報を管理する
タブレット端末は小型で軽く持ち運びに便利ですが、電子カルテを操作することで的確な情報管理を行うことができます。特に訪問診療などを行う場合には、持ち運びが便利で必要な業務ができるタブレット端末は非常に優れています。上述した手書き入力ができるだけでなく、Bluetooth(ブルートゥース)などでキーボードとの接続が可能なものもあり、一般的なパソコンと同じように操作することができます。
また、自宅や学会などの出先でも患者情報を閲覧して遠隔指示を出すこともできるため、どのような場においても診療に従事できるようになっています。
実際の医療現場でのタブレット端末導入事例
タブレット端末には多くのメリットがあり診療の場においても活用される機会が増えています。最後に、実際の医療機関でどのようにタブレット端末が導入されて活用されているか事例を見てみましょう。
緊急時に担当医が患者情報を確認できる
夜間や休日などに患者さんが急変した場合、従来であれば担当医に電話で指示を確認する必要がありました。しかし、電話だけでは十分な情報が医師に伝わらないケースも多く、急変時の対応が困難なことも少なくありませんでした。そこで、医師がタブレット端末を所持して遠隔地でも電子カルテを閲覧することができる医療機関も増えています。その結果、的確な指示を迅速に出すことができるようになり、さらに担当医が急いで来院する必要も減っているため患者さんと医師双方にメリットがあるとされています。
専門医の診断を受けることができる
夜間や休日など専門医が不在の場合も、医師がタブレット端末を所持することで遠隔地にいる専門医に確認ができるようになった医療機関もあります。具体的には、放射線科読影医がいない時間帯でもタブレット端末でCT画像の確認を依頼することができるようになり、日時を問わずより専門的な診断を下すことが可能となっています。
リアルタイムでの確認が可能となることで医療の質と安全性が向上したとの意見もあります。
情報収集の手段とする
タブレット端末は電子カルテの閲覧だけでなく、さまざまな情報収集をするのに適しています。医療機関に所属する医師やコメディカルの管理職にタブレット端末を配布したところ、場所にとらわれず情報収集をすることができるようになり、働くモチベーションを高める環境が整ったという医療機関もあります。
各スタッフ同士が診療をサポートすることでより質の高い医療を患者さんに提供することができ、さらに業務の効率化を促すことも可能となるという意見も上がっています。
まとめ
近年、タブレット端末で電子カルテを活用する医療機関が増えています。タブレット端末は持ち運びが便利であり、手書き入力の機能などを使いやすいため電子カルテの活用に大きなメリットがあります。また、患者さんへの説明などに活用することもできるため、業務の効率化だけでなく質の高い医療の提供を可能とします。
電子カルテを導入する際にはどのようなシーンで操作する必要があるのかよく考え、必要であればタブレット端末に対応しているものを検討しましょう。