目 次
1. 近年の設計事情
クリニックには主に承継希望と新規開業の案件がありますが、両者の内装の特徴は異なっています。以下で詳しく見ていきましょう。
(1)医療機関らしさの違い
承継希望の古いクリニックは、入ったらすぐに医療機関とわかるような内装が多いです。待合室のイスもビニール製の長ベンチが置かれていて、床も医療機関(または学校のような)汚れや水をはじく質素な材質のことが多いです。一方で最近のクリニックの内装は温かい木の作りでカフェのようであったりとても高級感のあるホテルのようであったりと、医療機関とは思えないようなデザインも増えています。これはクリニックにおけるおもてなしの考えや先生方の意向の変化に加え、床や家具の材質の進歩もあります。
(2)バリアフリー化(条例を確認)
2006年ごろから各自治体が高齢者や障がい者のための法制度を整えています。この法整備では不特定多数の人が出入りする医療機関も対象になっている自治体が多いです。具体的には段差・廊下幅・トイレ・出入口などに規定が設けられています。参考として東京都では以下のような条例があり、具体的な寸法や要件の記載や行政への確認方法が細かく決まっています。
参考:東京都都市整備局「建築物バリアフリー条例パンフレット 」
参考:東京都福祉保健局「東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル(平成31年3月改訂版) 」
こういった法律や条例に関しては、開業する先生が全て理解するというよりも、条例を理解していて類似の仕事をしたことがある設計士に依頼をするのが現実的です。
(3)各種システムの導入
近年は医療機関においても便利なシステムが開発され積極的に取り入れる医療機関も増加しており、結果的に医療機関建築にも影響を及ぼしています。以下がその例です。
- 電子カルテ → 紙カルテの保管庫の大幅削減、受付のスペースの広大化
- 自動精算機 → 受付回りに自動精算機を設置するスペースの確保
- 予約システム → モニターの設置できる場所の確保、予約制導入による待合室の縮小
- iPad(本や動画を閲覧できるソフト入り) → マガジンラックスペースの排除
- デジタルサイネージ → 院内掲示物の廃止
(4)対人の距離
これは近年(2020年6月現在)、流行している新型コロナウイルスの影響を受けて今後の医院の内装設計にも影響が出てくると考えられます。特に人同士の接触や距離、換気についての考え方が変わっていくと予想されます。例えば、以下のような設計がより好まれる可能性があります。
①待合室
- イスの間隔を広くすることが好まれる、場合によっては仕切りをつけることも考えられる
- 待合室にも手洗い場を設けたり手指消毒コーナーを設けたりする
- より除菌をしやすい家具を入れたり、雑誌やぬいぐるみ(小児科の場合)など菌がつきやすいものを撤去したりする
- 待合室では、人が座る向きを考えた配置にする
- 窓のある場所に待合室を配置する
- 感染者用入り口や感染者待合室を確保する
②受付
- 自動精算機を設置して受付スタッフとの接触や会話を減らす
- クレジットカード、オンライン決済(電子マネー決済)システムの導入
- 予約システムや問診システムを積極採用し、受付スタッフとの接触や会話を減らす
- かつてはやったような、受付と患者さんを透明のボードで仕切る受付が復活する
2. 各診療科のデザインのポイント
診療科目によって来院する患者さんの層は変わってきます。ここでは「建物デザイン・立地」「待合室・診察室」について診療科目によって変わる点を記載します。
(1)内科
①建物デザイン・立地
一般内科・循環器内科・糖尿病内科などの内科系クリニックは高齢者の割合が多いため、できれば1階や広めのエレベーターがある建物が好まれます。看板などに関しては医療機関であることがしっかりとわかるデザインが良いです。高齢者が多い点からも入り口の付近は交通量が多すぎず、タクシーや送迎の車が止めやすい少しゆとりがある場所が良いでしょう。
②待合室・診察室
待合室や診察室に関しては、車いすの利用者や同伴者のためにも広々したデザインがおすすめです。
(2)小児科
①建物デザイン・立地
小児科もベビーカーを押してくる方のために、できれば1階や広々としたエレベーターがある建物が良いでしょう。医療機関を選択する際、若いお父さん・お母さん達はスマートフォンなどでしっかりと調べます。そのため建物外観の視認性は重要ですが、内科より効果的な集患の方法が多くなります。
②待合室・診察室
小児科はかなりの確率で同伴者がいるため、ベビーカーを置くスペースや子どもが遊ぶスペースなど待合室はそれなりに広めに設計をする必要があります。また感染対策で入り口を分けたり、隔離した待合室などを用意したりすることもあります。この点に関して元々の建物の広さの兼ね合いで限界がある場合には、Web予約制を入れるなどのオペレーションで解決をするという方法もあります。診察室は子どもの泣き声などを加味すると防音の気遣いをすることもあります。
(3)整形外科
①建物デザイン・立地
整形外科は内科や小児科よりもさらに1階が好まれ、車が乗り付けられるような広々とした場所が好ましいです。また、車いすでも入りやすいように広い入り口が必要で、自動ドアであることも必須です。
②待合室・診察室
車いすや松葉づえの人のために滑りにくい床と段差のないフラットな環境は必須です。足腰が悪い人のために高さの違うイスを用意したり、手すりやスロープなどを設置したりする配慮も必要です。
(4)精神科・美容・自費診療系
①建物デザイン・立地
クリニックに入っていくところをあまり見られたくない人もいるので1階である必要性はありません。また比較的若い人も多くスマートフォンで検索をするために、看板などを目立たせる必要もあまりないです。
②待合室・診察室
予約制にする場合は、そこまで待合室を広くする必要もありません。ただ会話が聞こえないように防音に配慮する必要があります。
3. まとめ
一口に「クリニックの内装」と言っても診療科目・地域・戦略によって大きく異なります。ご自身が満足をするデザインにするのはもちろんですが、「ご自身の診療のメインターゲットとなる性別・年代・症状の方にとって喜んでいただけるのか」という視点が非常に重要であると同時に、建物や内装などの欠点をオペレーションやシステムの導入で補うという視点も非常に重要となってきます。
筆者プロフィール
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