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5人以上になると、社会保険への加入が義務付けられる
個人で開設したクリニックであってもフルタイムで働く従業員が5人以上になったり、法人化した場合は、健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が義務付けられます。加入すべき要件を満たした場合は、事実発生から5日以内に、事業所の所在地を管轄する年金事務所へ必要書類を郵送、窓口持参、または電子申請で提出しなくてはいけません。
厚生年金保険の被保険者は適用事業所に常用的に雇用される70歳未満の人で、国籍や性別、年金受給の有無に関わらず対象になります。パートタイマーやアルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所においてフルタイムで勤務している従業員の4分の3以上である場合は対象です。さらに4分の3未満であっても、被保険者数が101人以上の企業等は、週の所定労働時間が20時間以上、賃金の月額が8万8000円以上、学生以外は対象です。2024年10月からは、この企業規模の要件が被保険者数51人以上の企業等に拡大されます。
厚生年金保険料率は2017年9月以降、18.3%で固定されました。給与は「標準報酬月額」、賞与は「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算し、これを事業主と従業員が2分の1ずつ負担します。従業員が5人未満のクリニックであれば、従業員は国民年金に自分で加入するのが一般的ですから、事業主=院長(以下、院長)にとっては負担が増えることになります。
従業員5人以上になると健康保険はどうなる?
厚生年金への加入は義務ですが、健康保険はどうなるのでしょう。従業員4人以下のクリニックの場合、健康保険は自分で国民健康保険へ加入するのが基本です。ただし、院長が医師国民健康保険(以下、医師国保)へ加入していて、従業員が勤務時間や日数に関する基準を満たしていれば医師国保へ加入することもできます。これが従業員5人以上になると、医師国保へ加入を続ける、または全国健康保険協会(通称「協会けんぽ」)へ加入するという選択肢に変わります。
健康保険料は、加入している組合等によって異なり、医師国保は給与額に関わらず定額(東京都の場合)ですが、健康保険組合等は給与や賞与の額に保険料率を乗じて計算します。保険料率は協会けんぽの場合は都道府県ごと、健康保険組合等は組合ごとの財政状況によって異なります。
ちなみに、協会けんぽの保険料率の全国平均は10.00%。40歳以上の人は、これに介護保険料1.60%を加えた保険料率に給与や賞与を掛けて保険料を算出し、原則として事業主と従業員が2分の1ずつ負担します(健康保険組合の規約で事業主の負担割合を増やすこともできる)。ちなみに、医師国保は事業主負担の義務はありませんから、厚生年金同様に協会けんぽの場合は院長の負担が増えることになります。
上記の解説を読むと、院長にとっては医師国保の方が負担が少なくていいと考える人も多いでしょう。しかし、医師国保には被扶養者という制度がないため、家族が多いと保険料が高くなります。また組合員の高齢化や医療費の高額化から、保険料の値上げや算出方法の変更が行われている医師会も少なくありません。また医師国保であっても、従業員への福利厚生という観点から院長が半額を負担するケースも少なくないようです。
「医師国保」と「協会けんぽ」、保険料以外は何が違う?
保険料以外についての、医師国保と協会けんぽの違いを見ていきましょう。大きな違いは、病気やケガで仕事を休んだときに給付される傷病手当金、出産の前後に休暇を取ったとき(産前産後休暇)の出産手当金、育児休業中の健康保険・厚生年金保険の保険料が免除など、協会けんぽの方は給付などが充実しています。また、自家診療についても保険請求ができるというメリットがあります。
前述したように、健康保険は医師国保または協会けんぽのどちらにするかを、院長と従業員がそれぞれ選ぶことができます。給付などが充実していることから、従業員は協会けんぽを選ぶ人が多いようですが、院長の場合は医師国保に残るという考え方もあります。
というのは、院長は激務であることから健康問題につながるリスクが多く、ほかの職種と比べて仕事ができなくなったり、休業した際の経済的なダメージが大きい職業です。しかし、それを公的な給付でカバーすることは難しいのが現実ですから、医師国保に加入を続けることで保険料を抑え、保障が手厚い民間保険に加入するという考え方もあります。いずれにしても、一度、協会けんぽを選択すると医師国保には戻れませんから、判断をする際はさまざまな角度から熟考することが必要です。