目次
電子カルテとオーダリングシステムの違いとは?
電子カルテとオーダリングシステムはともに病院情報システムの一種です。混同されがちですが、それぞれどのような違いがあるのか詳しく見てみましょう。
まず、電子カルテとは、診察内容、検査結果、診断、治療などの医療情報を電子化して一元管理するシステムのことです。従来、これらの医療情報は紙ベースで管理されていました。電子化することで情報管理が簡便になり業務効率がアップすると考えられています。現在、国を挙げて医療DXが推進されていますが、電子カルテの普及率の上昇も課題の一つとなっています。
一方、オーダリングシステムとは、医師が看護師や薬剤師などの医療従事者に対して処方や検査の実施などを指示する際に使用するシステムのことです。これまで、医療機関では医師の指示は紙に記載されてそれぞれの部署に届けられていました。オーダリングシステムではそれらの指示を医師が直接コンピューターに入力することで各部署の医療従事者に迅速かつ正確に届けられます。 このように、電子カルテは診察情報を一元管理するシステムですが、オーダリングシステムは医師の指示を各部署に伝えるシステムであり、それぞれの役割は全く異なります。
現在ではオーダリングシステムと一体化した電子カルテもありますが、システムを導入するにはオーダリングシステムから導入していくのが一般的です。カルテのみ電子化してもオーダリングが紙ベースのままでは電子カルテの機能を十分に発揮することはできません。電子カルテのみの導入も推奨されていないのが現状です。
これから病院情報システムの導入を考えている医療機関は、システムを導入する順番や性能などをよく考えてからメーカーなどを決めるようにしましょう。
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電子カルテとオーダリングシステムの関係とは?
電子カルテとオーダリングシステムはともに病院情報システムです。患者さんの診療情報を電子化して一元管理する電子カルテと医師の指示を直接入力して各部署に送られるオーダリングシステムでは求められる役割が異なります。
では、電子カルテとオーダリングシステムにはどのような関係のものがあるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
電子カルテとオーダリングシステム「分別型」
医療情報システムを導入するには、オーダリングシステムから始めて、その後に電子カルテを導入するのが一般的です。具体的には、オーダリングシステムが搭載されたコンピューターに電子カルテのアプリケーションを別途取り入れて使用することになります。
このように電子カルテとオーダリングシステムがそれぞれ別のシステムとなっていて、連携して使用するタイプのものを「分別型」と呼びます。 分別型を導入する場合は、オーダリングシステムに問題なく連携できる電子カルテを取り入れることが必要です。メーカーによっては連携できないものもありますので、まずはオーダリングシステムのみを導入する場合は、電子カルテの導入も見越して連携できるものを選びましょう。
電子カルテとオーダリングシステム「一体型」
医療DXが推進されていく中、近年では電子カルテの機能の一つとしてオーダリングシステムが搭載されたものも販売されています。電子カルテとオーダリングシステムが一体化していると新たに別のアプリケーションを連携させる必要がないなどさまざまなメリットがありますが、システムにエラーが生じたときは一時的に医師の指示も出せなくなる可能性があります。また、メンテナンスや導入するコストが割高になるケースも少なくありません。
ただし、一体型は一つのシステムで完結するため作業効率がアップするのも事実です。医師からの日常的な指示の内容や件数などを考慮して導入することでコストに見合ったメリットがあるか検討してみましょう。
電子カルテとは?
電子カルテは診察情報を電子化して一元管理するシステムです。1999年に販売が開始され、普及率は年々上昇しています。最近ではクラウド型の電子カルテも普及しており、訪問診療など社会のニーズに合った場面で使用できる電子システムの開発も進んでいます。電子カルテの概要について詳しく見てみましょう。
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電子カルテの普及率
医療の場でのIT化は1970年代頃から少しずつ進んでおり、1999年には電子カルテの販売が開始されました。その後、電子カルテの普及率は年々上昇しており、厚生労働省によれば2008年には一般病院で14.2%、一般診療所で14.7%であった普及率が2020年にはそれぞれ57.2%、49.9%に上昇しています。特に病床規模が大きな一般病院ほど普及率は高く、400床では91.2%、200~399床では74.8%、200床未満では48.8%と病床規模によって普及率に大きな差があることがわかります。
一般診療所の普及率は一般病院に比べて高くありませんが、近年ではクラウド型の電子カルテも多く販売されているため、訪問診療や往診を行う医療機関で導入されるケースが増えています。また、新型コロナウイルス感染症拡大に伴ってオンライン診療も行われるようになり、電子カルテが必要とされる場面も多くなっていくでしょう。
さらに、政府が発表している骨太方針2023では医療DX推進が明示され、電子カルテ情報の標準化が進められることになっています。2024年度にはクラウド型の標準型電子カルテの開発が開始され、一部の医療機関で試行されることが決まっています。さらに、2030年までにはおおむね全ての医療機関に電子カルテを導入することを目指しており、今後も電子カルテの普及率は急速に高まっていくと考えられています。
電子カルテのメリット
電子カルテには、以下のようなメリットがあります。
業務効率の改善
電子カルテは診療から会計までのさまざまな医療情報を一元管理することができるシステムです。従来の紙カルテよりも情報を検索できるスピードが速くなり、定型文を登録することでカルテ記載や紹介状などの文書作成の効率を高めることができます。
また、医師が入力した情報は各部署に速やかに共有されるため会計などの業務効率も改善することが可能です。さらに電子カルテには画像検査結果を表示することもできるため、診察時に患者さんに提示しやすく、医療従事者だけでなく業務効率を高めることで患者さんにも待ち時間の短縮、より質の高い医療の提供など多くのメリットがあります。
ヒューマンエラーの予防
電子カルテは医療情報を電子化して保管することができるため、適切なバックアップをとっておけば必要な情報の紛失が生じません。また、文字がフォントで表示されるため読み間違えが起こりにくく、情報確認の手間も簡便化するため紙カルテよりもヒューマンエラーが生じにくいと考えられています。電子カルテのメーカーによっては血液検査の異常値などにアラートが表示されるものもあり、検査結果の見落としなども生じにくいように工夫されています。
もちろん、電子カルテだからといって全てのヒューマンエラーを完全に予防することは難しいですが、電子カルテに備わっている多くの機能を活用することでヒューマンエラーを抑えることが可能となります。
スペースの節約
カルテは5年間の保管義務があり、紙カルテの場合は膨大な量の記録を保管していく必要がありました。一方、電子カルテは多くの医療情報をサーバーに保存しておくことができるため医療機関内のスペースを有効活用できるのもメリットの一つです。
電子カルテのデメリット
電子カルテには、以下のようなデメリットがあります。
ITに不慣れ
電子カルテの使用にはパソコンやタブレットなどの操作が必要であるため、キーボードなどデジタル操作に慣れていないと紙カルテよりも、かえって業務の効率が落ちることがあります。多くの電子カルテはITに不慣れな医療従事者でも問題なく使用できるように操作方法は単純化されていますが、慣れるまでに時間を要するケースも少なくありません。
しかし、多くの場合は操作に慣れることで紙カルテよりも業務を効率化させています。ITに不慣れという理由で電子カルテを導入しないと決めるのではなく、実際に使用して使い心地などを検討するのがおすすめです。
セキュリティの管理
電子カルテは医療情報を電子化してサーバーで管理しています。サーバーは厳重に管理されていますが、情報漏えいなどのリスクはゼロとは言えません。医療情報は極めてプライバシー性が重視される個人情報であり、情報の漏えいは許されません。そのため、電子カルテを導入するには強固なセキュリティシステムを取り入れる必要があります。
導入や運用のコスト
電子カルテは上述したように業務を効率化することができ、医療機関の運営コストを削減できる可能性があります。一方で、電子カルテを導入する際にはパソコンやタブレットなどの端末、システムを利用するにあたっての設備工事など一定のコストがかかります。また、運用していく際にもメンテナンスなどの費用が発生し、紙カルテよりコストが必要になることもデメリットと言えるでしょう。
オーダリングシステムとは?
オーダリングシステムは、医師が各部署にコンピューターで行うシステムのことです。オーダリングシステムで指示できるものとしては、処方、注射、検査、食事、文書作成、レジメンなどが挙げられます。一般的には、日付とオーダー内容を簡便に直接入力できるようになっており、それらの情報が各部署に迅速かつ正確に届けられます。
オーダリングシステムは1990年頃から導入が開始されましたが、現在のオーダリングシステムについての概要を見てみましょう。
オーダリングシステムの普及率
オーダリングシステムは1990年頃から導入が開始され、一般的には電子カルテよりも先に導入されています。そのため普及率も電子カルテより高く、厚生労働省によれば2008年のオーダリングシステムの普及率は一般病院で31.7%でしたが、2020年には62.0%まで上昇しています。特に病床規模が大きな一般病院での普及率は高く、2020年には病床数が400以上の一般病院での普及率は93.1%となっています。また、病床数が200~399床では82.0%、200床未満では53.3%となっており、電子カルテと同じく病床規模によって普及率にも大きな差があることがわかっています。
なお、オーダリングシステムは各部署で情報を伝達し合う役割があるため、複数の部署がある一定規模の医療機関で導入されるケースが多く、部署の垣根がない小規模な医療機関では導入されていないケースも少なくありません。一方で、電子カルテを導入してもオーダリングシステムがない場合は医師の指示のみが紙ベースでの伝達となるため電子カルテのメリットを最大限に発揮できない可能性があります。近年では、機能の一つとしてオーダリングシステムが搭載されている電子カルテが販売されており、一体型の電子カルテを選択する医療機関も増えています。
▽参考
厚生労働省『電子カルテシステム等の普及状況の推移』(PDF)
オーダリングシステムのメリット
オーダリングシステムには、以下のようなメリットがあります。
指示出しの簡易化
オーダリングシステムは医師がパソコンやタブレットなどを用いてシステムに直接指示を入力するだけで、それらの情報が迅速に各部署に伝わります。これまでは各指示は紙ベースの指示箋や指示簿に記載して各部署に届けられていました。そのため、オーダリングシステムを導入することで指示出しの業務が簡単になります。
また、業務が簡易化することで業務効率を改善し、時間的・人員的なコストの削減にもつながります。
ヒューマンエラーの予防
オーダリングシステムのメリットの一つとして、電子カルテと同じくヒューマンエラーの予防が挙げられます。従来の紙ベースでの指示出しでは指示の書き間違えや読み間違えだけでなく、指示箋や指示簿の紛失により適切な指示が伝わらないというケースもありました。オーダリングシステムは医師が指示を直接コンピューターに入力するため、ミスが起こりにくくヒューマンエラーの予防に大きく貢献します。
他の医療情報システムとの連携
オーダリングシステムの多くは、電子カルテや会計システムと連携することができます。そのため、診療報酬の算定漏れやミスが起こりにくくなるのもメリットの一つです。また、医師の指示をさまざまな部署で確認することができるようになるため、即時的な医療情報を共有することが可能となります。
オーダリングシステムのデメリット
オーダリングシステムには、以下のようなデメリットがあります。
導入コスト
オーダリングシステムを導入するには、パソコンやタブレットなどの購入費用、インターネット環境を整えるための費用などさまざまなコストがかかります。従来の紙ベースでの指示出しも印刷のための紙やインク代などが必要ですが、オーダリングシステムの導入にかかるコストと比較するとコストはかかりません。
また、ITに不慣れな医師であればオーダリングシステムの操作に精通するまでに時間を要するため、その間の業務効率が下がることで診療患者数が減るなど経営面に影響を与えることもあります。
システムダウン時の対応
オーダリングシステムの使用にはインターネット回線が必要であるため、停電などが発生した場合には使用できなくなることがあります。指示出しができなくなれば診療に混乱が生じることも少なくないでしょう。
オーダリングシステムを導入する際には、万が一システムがダウンして使用できなくなったときに、どのようなフローで正確な指示出しをするか想定しておくことが大切です。
医療のDX化に向けてシステム導入を
電子カルテとオーダリングシステムは同じく医療情報システムの一つですが、役割は大きく異なります。電子カルテは医療情報を電子化して一元管理するシステムであり、オーダリングシステムは医師が指示を直接コンピューターに入力することで各部署に指示が迅速かつ正確に伝わるシステムです。
医療DX推進が国を挙げて掲げられている中、今後も電子カルテやオーダリングシステムを導入する医療機関はますます増えていくと考えられます。それぞれにメリットとデメリットがありますので、今回説明した内容を参考にどのような機能を備えたシステムを導入するか検討しましょう。