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時代は「紙カルテ」から「電子カルテ」へ
カルテとは、患者の病状や治療経過の診療情報を医師が記録したもので、厚生労働省が認める公的な文書のこと。電子カルテとは、紙ベースのカルテを電子へと変えたものですが、従来の紙カルテとの大きな違いはどんな部分にあるのでしょうか。
紙カルテにおいてこれまで煩雑な作業となっていたのが、書類保存と棚卸し作業でした。カルテは5年間の保存が義務づけられています。しかし、カルテを保存するスペースには限りがあるため、例えば、5年以上来院がない患者のカルテや、過去の膨大なカルテから要点のみを抽出・整理したりなど、人的な作業が多く発生していました。その分電子カルテの場合は、システム上で一括操作ができるので保存管理も便利でしょう。
また、電子カルテを使用する上で、「カルテの取り合いにならない」という大きなメリットもあります。紙カルテだと、持っている1人しか見られなかったり、カルテそのものが行方不明になり問題化したりすることもありました。しかし電子カルテの場合は、データの在処は一目瞭然で、複数人が別の場所から同時に閲覧することも可能です。
電子カルテ導入の普及率は、2019年7月時点では400床以上の医院で76.9%、診療所では、全体で37,253施設のうち39.0%が導入しています。現在、総合大病院の約95%では電子カルテが導入されており(※)、世の中のデジタル化の影響も相まって、キーボードでの打ち込み作業も負荷なく行える医師も増え、近年の新規開業を検討する若手医師の間では、電子カルテを選ぶ率が高まっています。スピード性や簡略性などを加味しても、電子カルテを選ぶメリットの方が大きいという状況になりつつあるといえます。
出典:医療施設調査 (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1.html
誰でも入力可能な電子カルテは「信用」できるのか?
カルテは、医療訴訟において法的な証拠となる重要な文書です。しかし電子カルテは、紙カルテのように筆跡や印鑑などで見分けることができません。そこで気になるのが、電子カルテは本当に信用できるの?という部分でしょう。
厚生労働省が規定している「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」のなかで、「真正性・見解性・保存性」が遵守すべき3基準と記載されています。電子カルテのシステムには、この3基準をクリアできる仕組みが施されており、医師はもちろん、クリニックで働くスタッフ全員がそれをしっかりと理解しておくことが重要です。
まず「真正性」とは、誰がいつ書いたのか?ということ。電子カルテにログインすることで自動的にログ(記録)を残すので、医師側が意識しなくても記名性が保たれます。変更履歴は、見読性を損なわないために通常は表示されていませんが、管理画面から確認できるのが一般的です。また、医師は、自身のログインIDとパスワードが悪用されないよう、定期的にパスワードを変更するなどの注意が必要です。「見解性」に関しては、緊急時や訴訟時など必要があるときに、カルテの内容が誰の目から見ても読み取ることができるということです。デジタル化されていることで、基本的には手書きの文字よりも見やすくなるのが一般的ですが、例えば、スキャンした画質が悪くて読み取れない、プログラム言語が入り混じっており判別が難しい、などが起こらないように注意が必要です。そして「保存性」に関しては、バックアップの機能が搭載されているなど、データの消失がないように注意する必要があります。これらの条件がしっかり担保できている電子カルテを選ぶようにしましょう。
これらの条件をしっかり満たしていれば、紙カルテと比較して、メリットも多いのが電子カルテです。例えば、過去に出した薬と飲み合わせの悪い薬をチェックできるシステムでは、間違いも未然に防げます。また患者の氏名や住所などの基本情報がデータ上にあるので、紹介状を作る際などもコピーアンドペーストで済み、業務の効率化を図れるでしょう。
電子カルテの種類
ここまで、電子カルテの普及状況や信頼性、利便性について見てきました。
では、電子カルテはどのように選べばよいのでしょうか?
電子カルテのシステムにはいくつかの種類があります。今回は「オンプレミス型」「クラウド型」「ハイブリッド型」の3つに分けて、各種類の特徴を紹介します。
データを院内サーバーに保存する「オンプレミス型」
「オンプレミス型」とは、電子カルテのデータを院内に設置したサーバーに保存するシステムです。インターネット環境が脆弱だった時代はほとんどがオンプレミス型でした。オンプレミス型はサーバーが院内にある分、インターネット環境に左右されることなく高速で快適に使えることに加え、カスタマイズ性が高いため、機能がリッチで使い勝手がよいという特徴があります。
データを院外の企業サーバーに保存する「クラウド型」
「クラウド型」とは、電子カルテのデータを電子カルテ提供ベンダーが用意した他社のレンタルサーバーに保存するシステムです。病院にはサーバーを用意する必要がありません。電子カルテ提供ベンダーが責任を持ってデータをバックアップすることからデータの保存性が高く、さらにインターネットに接続できる環境であれば、どこからでもデータを保存したり、取り出したりできる「デバイスフリー」という特徴があります。使用するPCの種類を問わず、タブレットからでもカルテを閲覧できるので、自宅や外出先からでも患者さんのカルテをチェックしたり書き込んだりすることが可能です。しかしながら、インターネット環境やサーバー障害などの外部の影響を受けることがあり、また通信容量やブラウザの制限などにより、カスタマイズ性が乏しいというデメリットもあります。
オンプレミス型の良さを残し、クラウドにも対応した「ハイブリッド型」
そして今回おすすめしたいのが、最新の「ハイブリッド型」。上記の「オンプレミス型」「クラウド型」のいいとこ取りのような内容で、院内のサーバーと電子カルテベンダーが用意した他社のレンタルサーバーを両方利用するシステムとなっています。基本的には院内サーバーを使用するためスピードは速く、高機能で快適な操作性を保持したまま、万が一、障害や災害により院内サーバーが停止した際にはレンタルサーバー運用に切り替えるため、システムが止まる心配もありません。また、ブラウザから閲覧できる機能や、高機能なカルテを外出先からも使用できるフルリモート機能も搭載されているので、ある程度のデバイスフリー、ロケーションフリーも担保できています。
まとめ
近年、医療のIT化を進めたい政府の動きにより、電子カルテを活用した地域医療連携や医療情報の標準化に向けた施策が進んでいます。そのため活用できる助成金や補助金なども増えています。これから開業を考えられる際には、オンプレミス型・クラウド型・ハイブリッド型それぞれの特徴を理解し、ご自身に合った電子カルテの導入を検討されることをおすすめします。
次号では、電子カルテの災害対策におけるメリットについてご紹介します。