意外に重要!クリニックの福利厚生
福利厚生とは「スタッフに提供する給与以外の報酬」
クリニック開業に向けて準備を進めている真最中は、開業地選定や資金計画、内装の検討など、目に見えて大きい懸案事項にばかり気をとられてしまいがち。しかし実際にはついつい後回しにしていまいそうな細かな事柄についても逐一検討し、判断を下していかなければなりません。一見たいしたことのないように見える事案でも「適当に決めておけばいいや」とぞんざいに扱っていては、知らず知らずに不利益を被っているかもしれないのです。今回お伝えしていく福利厚生も、そんな“意外に重要”なものだと心得ましょう。
そもそも福利厚生とは何でしょうか。一般的には「使用者が、労働者やその家族の健康や生活の福祉を向上させるために行う諸施策」などと言われていますが、開業医の立場からもっと有り体に言えば「クリニックのスタッフに提供する給与以外の報酬」のこと。「働いてもらった分の給料はきちんと支払うのに、その上さらに報酬が必要なの?」と思われる先生もいらっしゃるでしょうが、この福利厚生を上手に活用できれば、クリニック経営の成功につながるかもしれないのです。
社会保険にかかる経費はクリニックにとって軽くない
福利厚生は法律にもとづく「法定福利厚生」、すなわち社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険(雇用保険・労災保険)と、慰安旅行やレクレーションに代表される「法定外福利厚生」に大別されます。ここでは、開業時に関係してくる法定福利厚生について説明していきます。
スタッフを雇うことでかかる社会保険・労働保険の保険料は、雇用者が全額・あるいは一部を払わなければならず、その負担は決して軽いとはいえません。しかし個人で開業したような小規模なクリニックであれば、保険加入の対象とならない場合があります。労働保険については、スタッフを一人でも雇うならば医療施設の規模に関わらず加入義務が発生しますが(雇用保険の対象者は週20時間以上の労働かつ雇用見込31日以上)、社会保険については常勤スタッフが5人未満の個人経営クリニックなら加入義務がなく任意加入となっています。そのため、「最初からそんなにスタッフを雇えないし、加入しなくていいなら負担が少なくて助かる」と考える開業医の多くが、社会保険に未加入のままクリニックを開いています。
優秀なスタッフを集め、能力を発揮してもらうためのコスト
しかし未加入のクリニックが多いということは、逆に考えれば「社会保険を求人採用における奥の手」ととらえることも可能です。すなわち小規模クリニックにもかかわらずあえて社会保険を完備すれば、医療系の求職者に向けて「スタッフが働きやすい職場環境」というアピールができるということ。実際のところ、社会保険の有無をチェックする求職者は多数派で、他の条件が気に入ったとしても保険未加入がネックとなって大きなクリニックや病院へと志望変更することは珍しくないといいます。
自分の能力に自信のある人ほど良い環境を求めて求職活動をするでしょうから、保険完備によって他クリニックとの差別化ができれば、より良いスタッフの確保が期待できます。たしかに保険料負担の分は経費が増しますが、それは優秀な人材を集めるためのコスト、さらにはその優秀なスタッフにこれからずっと力を発揮し続けてもらうための「給与以外の報酬」でもあります。医療といえども煎じ詰めればサービス業ですから、人材は宝物。そのためにも、福利厚生を上手く活用なさって下さい。
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