目次
1. 精神科・心療内科の開業資金・平均年収に関して
(1)開業資金に関して
以下は、精神科・心療内科クリニックの投資予算のサンプルです。
精神科・心療内科 開業投資予算 サンプル
分 類 | 項 目 | 単 価 | 数 | 単位 | 計 | 税 込 |
---|---|---|---|---|---|---|
不動産 | 敷金 | 420,000 | 6 | ヵ月 | 2,520,000 | 2,520,000 |
礼金 | 420,000 | 1 | ヵ月 | 420,000 | 462,000 | |
仲介手数料 | 420,000 | 1 | ヵ月 | 420,000 | 462,000 | |
設計・施工 | 設計・施工費 | 500,000 | 35 | 坪 | 1,750,000 | 1,925,000 |
看板・サイン | 500,000 | 1 | 式 | 500,000 | 550,000 | |
システム | 電子カルテ | 3,000,000 | 1 | 式 | 3,000,000 | 3,300,000 |
WEB予約システム | 800,000 | 1 | 式 | 800,000 | 880,000 | |
オンライン診療システム | 400,000 | 1 | 式 | 400,000 | 440,000 | |
家具・家電 | 家具・家電 | 2,000,000 | 1 | 式 | 2,000,000 | 2,200,000 |
採用 | 採用経費 | 200,000 | 1 | 式 | 200,000 | 220,000 |
マーケティング | ホームページ制作 | 1,000,000 | 1 | 式 | 1,000,000 | 1,100,000 |
開業前WEB広告費用 | 2,000,000 | 1 | 回 | 2,000,000 | 2,200,000 | |
資材等 | ロゴマーク作成 | 100,000 | 1 | 個 | 100,000 | 110,000 |
名刺 | 50,000 | 1 | 式 | 50,000 | 55,000 | |
パンフレット | 300,000 | 1 | 式 | 300,000 | 330,000 | |
診察券 | 50,000 | 1 | 式 | 50,000 | 55,000 | |
封筒 | 50,000 | 1 | 式 | 50,000 | 55,000 | |
心理検査 | 心理検査各種 | 1,000,000 | 1 | 式 | 1,000,000 | 1,100,000 |
研修時人件費 | 研修時人件費 | 100,000 | 5 | 人 | 500,000 | 550,000 |
行政手続き | 社労士(労働保険、社会保険) | 100,000 | 1 | 式 | 100,000 | 110,000 |
行政書士(開設届関係) | 200,000 | 1 | 式 | 200,000 | 220,000 | |
その他 | 雑費(備品、ユニフォーム等) | 1,000,000 | 1 | 式 | 1,000,000 | 1,100,000 |
計 | 34,110,000 | 37,269,000 |
前提条件として「テナント開業」「35坪」「医師1名」のパターンで作成をしています。
ご覧の通り、精神科クリニックは大きな機器の購入が不要なため一般的には開業資金が抑えられる診療科目と言えます(上記の表では約3,726万円となっています)。機器が少なくて済むということは処置室や検査室も不要となり、また診察室も広くする必要もありません。結果、内装にかかる費用もほかの診療科目に比べて低くなる傾向にあります。精神科・心療内科で特徴的な費用である心理検査も、どこまで揃えるかによって変わるものの購入額として合計で100万円に満たない先生も少なくありません。ほかに若い患者さんの多い立地や若い患者さん向けのコンセプトの場合は、予約システムやオンライン診療を導入することなどもありますが、こちらも100万円に満たない投資となります。
(2)平均年収に関して
次に平均年収に関してです。まず、統計データでは、精神科の平均所得は約2,587万円(※1)となっています。もちろんこちらは統計値ですが、傾向としてほかの診療科目に比べて高くなっています(同じ統計で全体平均が約2,374万円)。
考えられる要因として、精神科・心療内科は他科に比べて、原価(薬剤料や材料費)や各種販管費(家賃・看護師の人件費・機器のリース費・検査費・産業廃棄物費用)を抑えることができる点が挙げられます。その点では、仮に同じ売上であったとしても所得が多くなる診療科目と言えます。
2. 精神科・心療内科の開業ポイント
次に、各開業工程におけるポイントを記載します。
(1)立地
- 体は健康な人が多いのでビルの上層階でも問題ないです。
- むしろ、入っていくところが外から見えない建物を好む人もいます。
(2)内装
- あまり奇抜ではなく落ち着いた内装にされる先生が多いです。
- 声が漏れないように、壁は天井までつけて扉の厚さや隙間にも配慮が必要です。
- 家具は医療用のものである必要はなく、一般の家具屋にあるようなおしゃれな家具を採用しているクリニックもあります。
- 少し症状の重い方を診るクリニックでは、出入り口を2つ設けられるように設計する先生もいます。
(3)採用
- 一般的には受付に加えて、臨床心理士の採用を検討する先生が多くいます。
- 近年は公認心理士も求人媒体に一緒に載せるケースがあります。
- 現状、臨床心理士も公認心理士もカウンセリングは自費診療になります。そのため資格をもっているだけでは安心できず、まずは知り合いから声をかけているケースも見られます。
(4)マーケティング
- 内科系よりも若い患者さんもいらっしゃること踏まえるとWEBマーケティングが有効な診療科目と言えます。
- 社会復帰関連の取り組みの一環として、企業から産業医や顧問を受けるケースもあります。
- 訪問系の診療もおこなってケアマネジャーや内科系のクリニックと連携をしている先生もいらっしゃいます。
(5)その他
- 認知症の患者さんの増加に伴い、「周辺症状」に悩む患者さんの来院が増えており、開業時に認知症の検査キットを導入しています。
- 需要が増えているオンライン診療は精神科・心療内科でも希望者が増えています。(2020年7月現在、初診からの向精神薬の処方は不可ですので注意は必要です)
- 行政指導の面で、保険診療の後に自費のカウンセリングを実施すると“混合診療”とみられてしまう可能性があるので、予約のオペレーションで配慮が必要です。
- 精神科・心療内科は患者数を増やして売上を高くすることがほかの診療科目より難しい点があります。理由は診療報酬や報酬が「時間」に紐づいているケースが多いからです。例えば、精神科・心療内科で算定されることが多い通院精神療法(60分以上540点、30分以上400点、30分未満330点など)や自費で行うカウンセリング料も時間によって料金が変わる形態をとっているケースが多いです。臨床心理士や診療クラークの活用やシステムを用いて効率的に診療を進める工夫が必要です。
3. 実際にうまくいった医師の成功事例
以下に、特徴的な方法によって精神科・心療内科として成功されている先生の事例を記載します。
(1)オフィス街に、プライバシーに配慮しつつも気軽に入れる心療内科クリニック
- 「働く人の味方」というコンセプトにして、オフィス街を立地にし、休むほどではない軽度の方が精神科・心療内科に通院することに抵抗を感じないようマーケティングを実施
- 完全予約制で同僚と会ってしまうリスクもなく、待ち時間も短いため仕事をしながら昼休みや就業後に受診可能な体制の構築
- 11時など遅めの時間から開始にする代わりに昼休みも診療をおこない、夜間は21時まで診療し終業後の方が受診できるように
- 軽度な方はオンライン診療も実施して継続フォロー
(2)専門特化 児童精神科&女性婦人科のクリニック
- 小児と女性に特化した精神科として開業
- 学校の保健室や近隣の小児科とも連携し、ADHD・アスペルガーなどさまざまな小児の精神疾患に対応
- 医師含めてスタッフは全員女性にして小児やそのお母さんなど“男性”に恐怖を覚える方の「心の安らぎの場」とし、他県からも訪ねてくるほどの広い診療圏を確立
4. まとめ
精神科はほかの診療科目と比べれば少ない投資予算で開業ができ、運営コストを抑えやすい診療科目と言えます。「認知症患者さんの増加」「企業のメンタルヘルスへの取り組み」「精神科病床削減の動き」など、外部環境としてプラスの動きは多々あります。また、昨今、医療機関経営に大きな影響を与えている新型コロナウィルスの対策として完全予約制にすることも適している診療科目と言えるでしょう。
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