クリニック内での言葉遣いには気をつけて
言葉遣いを疎かにしていると開業してから苦労する
今回のコラムのテーマは、接遇における「言葉遣い」。病院で長らく働いてきた先生であれば、「社会に出たばかりでもないし人並みにはできる」とお考えでしょう。ですがあまりに言葉遣いに無頓着なままでいると、いざ自分のクリニックを開いた時に苦労するかもしれません。診療の腕前ではなく、医者の話し方や態度によって「良いクリニックか否か」を判断する患者が少なからずいるからです。もし言葉ひとつで再診率が変わるとしたら、気を配らない理由はありません。今からでも初心にかえり、ご自身の「医者としての言葉遣い」を点検してみることをお薦めします。
しかしその前に大前提として、医者と患者は対等な存在であることを肝に銘じる必要があります。患者に対して「治してやってるから感謝しろ」という思いがあると、知らず知らず接遇時の言葉や態度ににじみ出てしまいます。このような先生は年々少なくなってきたこととは思いますが、もし心の奥に患者蔑視の感情を少しでも見つけたならばきっぱりと決別しておきましょう。
難しい専門用語は、やさしい日常語に言い換える
医者が言葉遣いにことさら気をつけなければならない理由のひとつとして、専門用語の存在があげられます。先生方にとってみればお馴染みの単語でも、一般的とまでは言えない言葉は病院内に溢れています。例えば、「カテーテル」「生検」「誤嚥」などなど。説明は正確に、という信念もあってこれらの用語をお使いかもしれませんが、伝わらなければ意味がありません。それぞれ「細くて柔らかい管」「悪いところを少し切り取って顕微鏡などで調べる検査」「飲食物などが気管に入ってしまうこと」というように、相手の理解度に合わせながら日常語に言い換えていく工夫が必要です。
これに対して「全部を理解してもらう時間なんてないよ」と思われた先生もいらっしゃるはず。たしかに言葉を簡単にするほど、説明は長くなりがちです。しかし、たとえ患者がすべてを理解できなくとも、噛んで含めるように話しかける態度はやはり重要です。患者が最終的に拠り所とするのは、「目の前の医者を信頼できるかどうか」。「詳しいことはよく分からなかったけれど、優しく丁寧に説明してくれていることは伝わってきた。このお医者さんに診てもらえるなら安心だ」という心境になってもらえたら、それは理想的な接遇・話し方といえるのではないでしょうか。
患者に対しては尊敬の念を持った接遇マナーを
クリニックを開いたら、スタッフの言葉遣いにも気を配らなければなりません。クリニックの印象を左右するものは、院長の言葉遣いだけではないのです。なかでも医療現場で最近よく話題にあがるのが、高齢患者の呼称の問題です。最近では「○○さま」ではなく「○○さん」とさん付けで患者を呼ぶ病院・クリニックが増えてきましたが、この親しみやすさを重視する流れの中で、高齢の患者に対し「おじいちゃん/おばあちゃん」と呼びかけるスタッフがいるというのです。本人はよかれと思ってのことでしょうが、今の高齢者には“年寄り扱い”を嫌う人が多いのも事実。子どもをあやすような言葉遣いについても、評判が良いとは言えません。自尊心を傷つけられた患者は、その場で不満は言わずとも胸の内にモヤモヤしたものが残ります。その積み重ねが、患者をクリニックから遠ざける一因になりうることをスタッフに理解させる必要があります。尊敬の念と、それにふさわしい緊張感。医療に限らず、サービスを提供する側の人間には、この両方が欠かせないことを心に刻んでおきましょう。
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