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クラウド活用で、電子カルテを「デバイスフリー」「ロケーションフリー」に
電子カルテは、データをどこに保存するかによって種類が分かれます。データを院内サーバーに保存する「オンプレミス型電子カルテ」と、データをクラウド上に保存する「クラウド型電子カルテ」です。クラウド型電子カルテはインターネット環境さえあればどんな場所にいても利用でき(=ロケーションフリー)、利用する端末も問いません(=デバイスフリー)。自宅や往診先などの院外にいても、手元にあるノートパソコンやタブレットなどから電子カルテを閲覧したり、書き込んだりすることが可能です。このように、状況に応じてスムーズに仕事を進めることができます。
さらに近年は、状況に応じて院内サーバーとクラウドサーバーを使い分けられるハイブリッド型電子カルテも登場しました。ハイブリッド型は、「自分が使いやすいように画面や操作をカスタイマイズできる」というオンプレミス型の利点と、デバイスフリー・ロケーションフリーといったクラウド型の利点の双方を併せ持っています。
デバイスフリー、ロケーションフリーな電子カルテを使っている先生方がよく挙げるメリットの一つに、「カメラ機能が使える(カメラ機能がついた端末を使用できる)」という声があります。
例えば患部写真を撮影したい場合、電子カルテとカメラのデバイスが分かれている場合だと、デジタルカメラで患部を撮影した後、カメラと電子カルテの端末をUSB等で接続し、撮影データを取り込むという手順が必要です。一方、デバイスフリーな電子カルテならタブレットを使用できるので、タブレット付属のカメラで撮影・送信するだけで、電子カルテに撮影データを連携できます。
もちろん、皮膚科の先生など「タブレット付属のカメラよりデジタルカメラや一眼レフカメラの方が画質が良く、幹部の状態を正しく記録できるから」という理由でタブレットを使用しないケースもあるでしょう。しかし、タブレットのカメラを利用できる場合なら、幹部写真をその場で電子カルテに取り込み、写真に書き込みを加えることも可能になります。写真の目的・用途に合わせて撮影機器を使い分けられると便利でしょう。
また、外来で患者さんが見せてくれた健診結果や持参薬、在宅訪問先で患者さんの生活や家族のメッセージを記録する際など、文字情報だけでは表現しきれない場合もあるでしょう。そんなときもカメラ機能を使い、視覚的な情報として記録することができます。これは限られた診察時間を有効活用するという意味でも役立ちます。効率的かつ正確な記録ができれば、患者さんと向き合う時間もより長く確保できるようになります。
もちろん、デバイスフリー・ロケーションフリーな電子カルテのメリットは、カメラ機能だけではありません。
例えば、休日や出張中にかかりつけの患者さんの容態が急変し、搬送先の病院から患者情報の提供を求められる場合があります。しかし記憶頼みで答えるのには限界があり、「今すぐ電子カルテを確認できれば」と歯がゆい思いをしたことのある先生も少なくないでしょう。クラウド活用で電子カルテのデバイスフリー・ロケーションフリーを実現すれば、手持ちのデバイスからカルテ情報を確認できるだけでなく、やりとりの内容をメモとして記録することも可能です。
いつどんな場所にいても患者さんの容体を的確に把握できる体制を整えておくことは、必要な医療を施す上で重要な視点になるでしょう。
これからの医療に求められる「連携」にも対応
クリニック経営において必要となる「連携」とはまず、検査機器といった院内機器との、「院内に閉じた連携」です。
例えば、CTやMRIの画像データを管理するシステム「PACS」と電子カルテを連携させると、院内のパソコンやタブレットから画像データを閲覧できるようになります。また、レセコンと電子カルテを連携させると、一方に入力したデータがもう一方にも反映されます。入力の二度手間がなくなり、その分、入力ミスなどのヒューマンエラーが起こるリスクも低減されます。
もう一つは、「外部サービスとの連携」です。例えば委託先の検査センターと自院の電子カルテを連携させれば、電子カルテ上で検査依頼を送ることができ、検査結果が出ればリアルタイムで電子カルテに取り込んで参照できるようになります。
また、院内機器「連携」と外部サービス「連携」の複合形態として、在宅診療のシーンでは「多職種間連携」が可能です。
人口減少や高齢化が進む昨今、高齢者を支えるサービスを地域で一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の重要性が高まっています。その中で求められるのが、医師、ケアマネージャー、薬剤師や介護員といった様々な職業が連携をとり、患者さんに関する健康と医療を地域のみんなで診ていく体制です。
このような多職種連携を実現するには、院内機器連携や外部サービス連携といったシステム的な「連携」が欠かせません。地域包括ケアシステムでは、様々な役割を持つ医療従事者が、患者さんと触れ合います。それぞれの医療従事者から得られる情報を、患者さん本人の同意を得た上で一元管理することで、所属する医療機関の違いや診療時間の違いなどの制約を受けることなく、患者さんの正確な医療情報をリアルタイムで把握・更新・連携できるようになります。また、診察だけでは得られないデータを踏まえた選択が可能になるので、より患者さんに即した治療判断やサポートに役立つでしょう。このような医療情報連携ネットワークは、島根県の「まめネット」や長崎県の「あじさいネット」をはじめとして、様々な地域で取り組まれています。
さらに、厚生労働省が提唱する「データヘルス改革」では、前述の医療・介護現場の情報利活用の推進に加え、患者さんが、自身のデータを日常生活改善等につなげるPHRの推進が提唱されています。このような新しい医療・健康の実現を目指すためにも、ネットワークを用いたデータ連携について、注目が集まっています。
電子カルテだけではない、医療現場の「クラウド活用」
ここまで電子カルテに着目して解説してきましたが、医療現場では「連携の仕方」そのものがクラウド型になりつつあります。注目したいのはWeb APIです。
Web APIとは、ソフトウェアやプログラム、アプリケーションの間をつなぐ「API」の一種です。Web APIという「クラウド活用型の連携」を使うことで、連携用の専用機器を必要とせず、“双方向”でのデータのやりとりが可能になります。
電子カルテと受付システムを連携させた例を見てみましょう。
従来の連携方法では原則、受付システム側で受付をし、その情報を電子カルテが取り込む、という一方通行のやりとりしかできませんでした。
一方、Web APIというクラウド型活用型の連携を使うことで、電子カルテと受付システムのどちらからでも受付ができ、その情報を互いに共有できるようになります。このような双方向のデータやりとりが可能になることで、連携の幅が広がります。
実例として、当社の診療所用医事一体型電子カルテシステム「Medicom-HRf Hybrid Cloud」と、株式会社リクルートのオンライン順番受付システム「Airウェイト」をクラウド連携させると、電子カルテと受付システムとで双方向のデータやりとりが可能になります。それぞれのシステムに同じ情報を入力する必要がなくなり、受付業務を大幅に簡素化されるほか、患者さんが混雑情報を事前に確認できたり、診察の順番になれば患者さんに呼び出し通知を行ったりなどが可能になるなどして、待ち時間の短縮が期待されます。
また、電子カルテとキャッシュレス決済端末の例も見てみましょう。電子カルテシステム「Medicom-HRf Hybrid Cloud」と、モバイル型オールインワン決済端末「PayCAS Mobile」をクラウド連携させると、決済手続きが簡略化でき、医療事務担当が決済端末に診療報酬額を入力する必要がないため、入力ミスを防ぐことができます。さらに「PayCAS Mobile」は片手サイズで持ち運びしやすいため、医療事務担当が患者さんの待つ場所まで移動して会計することも可能です。
以上のように、デバイスフリー・ロケーションフリーな電子カルテやWeb APIといった「クラウド活用」は、業務プロセスを改善して医師やスタッフの業務効率を改善するだけではなく、より良い医療サービスの提供や患者さんの満足度向上につながります。
次号では、「どんな医療機関に電子カルテのクラウド化がおすすめなのか?」という観点から、クラウド化の強みを見ていきましょう。