目 次
1. 前提
ここで記載する内容は参考としていただきながらも、最初のアクションで「同じ医局、同じ病院から開業した先輩に聞いてみる」ということは重要です。やはり、各医局・各病院ともにさまざまなルールやしきたりがあり、実際に同じ経験をした先輩から留意点を聞いておくのが何よりの近道だからです。
2. 開業スケジュールの観点
医局や病院側のスケジュールの前に、自身の新規開業のスケジュールの中でいつまでに伝え、いつまでに退職をできていなくてはならないか把握しておかなければなりません。
(1)退職を伝えることができるタイミング
あらかじめ「将来開業を考えている」という場合は、決心が固まり次第報告をするので問題ありませんが、具体的に“いつ辞める”ことを確定するためには、以下の項目を決める必要があります。
・賃貸借契約書の締結
まずは賃貸借契約書の締結です。これは退職するのに賃貸借契約書が必要ということではなく、「物件が確定している」ことが必要ということです。開業をすると決めても、1年以上かかってから開業物件が決まる先生もいました。また、ご自身の中で開業物件として決めても、審査などを進めている間に他人に取られてしまうケースもありました。
開業物件が決まれば、そこからは逆算をして開業までの時間を算出することができます。
・銀行融資の承諾
賃貸借契約書を締結しても、融資が通らなければ事業を開始できません。先に融資審査を通すか、融資が決まらなければ解約できる特約を付ける必要があります。ただ、この場合は融資が実行されるまで待つ必要はなく、承諾の回答をもらうだけで大丈夫です。
開業物件と銀行が決まれば、多少工事が遅れたり採用に苦戦したりしても、多少の遅れ程度で開業をすることができます。何よりも開業自体がなくなることはありません
(2)何カ月後に辞めると伝えればよいか
では、上記の物件確定後、何カ月後に辞めると伝えればよいのでしょうか。一般的に、テナント開業の場合は物件決定後、5カ月~6カ月ほどで開業となることが多いです。また、物件決定後は開業を手伝ってくれる業者が作成するスケジュール通りに進む可能性が高くなります。そのため、そのスケジュールに基づいて説明し、辞めるタイミングを伝えれば問題ありません。
(3)留意点は「開設届」
留意点は、“開業日”と“開設日”の違いです。開業とは、先生のクリニックが実際に患者さんを受け入れる日を指します。一方で、開設日とは保健所に提出をする開設届に記載をする日付です。この違いは、保険診療の有無です。
以下が、一般的な開業の行政手続きの流れです。(東京都 個人クリニックの場合)
保健所へ開設届提出(ここで自費診療は可能になる)
↓
毎月10日(※)までに関東信越厚生局へ開設届提出
↓
翌月1日より、保険診療可能
※日付は地域や月によって異なります。
上記の流れの開設届を提出するタイミングで、“常勤医としては退職している”必要があります。つまり、保険診療のクリニックの場合、開業(患者を診療開始する)したい月の前月までには退職をしている必要があるということです。
※全国の多くの都道府県では上記の流れですが、一部例外の地域もあるため必ず事前に保健所にご確認をお願いいたします。
簡単にまとめると、一般的には、賃貸借契約書の締結(物件の確定後)から5~6カ月以内に開業になり、開業の1カ月前までに退職をしている必要があります。
3. 医局に告げる場合の留意点
医局は何か雇用契約のようなものを締結しているわけではないものの、これまでの関係性などを悪化させたくないものです。また、医局によっては上記のスケジュールで通すのは難しくなることもあるでしょう。その場合は以下のような点を留意しながら進めてはいかがでしょうか。
(1)医局人事が決まるタイミングへの配慮
毎年の医局人事が決まった後に開業を告げるのは、長期間の引き留めや印象の悪化を招く恐れがあるため、留意が必要です。
(2)先に医局から離れて開業準備をするという方法も検討
承継案件での開業など開業準備の期間が短いパターンもあります。その場合は、先に医局から離れる時期やスケジュールをしっかりと医局側の要望と合わせて決定し、医局を離れてから開業に向けて動き出すほうが、迷惑をかけないこともあります。医局を離れてから開業までの間は、例えば非常勤でクリニックの外来や仕組みを学ぶためのアルバイトをするという方法もあるでしょう。
明確な決まりなどがない中でも、迷惑をかけない配慮が必要となります。
4. 病院に告げる場合の留意点
医局派遣ではなく、医療法人(病院・診療所)などで勤務をされている場合の留意点は以下となります。
(1)事前に雇用契約書、就業規則の確認
退職の通知に関して、就業規則や雇用契約書に記載があると思います。必ず全員がその記載通りになるかは相談によって変わりますが、把握しておくことは重要です。また、雇用契約書に「3カ月前に通知」などの記載があっても、上記のように“開業が確定したタイミング”で早めに伝えましょう。
(2)理事長や院長に聞く前に、事務方への確認
相談をする際、いきなり理事長や院長に話をするのではなく、事務長や労務担当がいれば、これまでの退職者の流れなどを聞いてみても良いでしょう。
(3)現在自身が院長(管理医師)の場合はさらに注意が必要
医療法人のクリニックで勤務している場合など、自身が院長(管理医師)の場合はさらに配慮が必要です。理由は、後任が見つかりにくいという点に加え、管理医師は医療法人の理事になるということです。競業避止義務(すぐ近くで開業する、スタッフを連れていく、など法人の利益に反する行為を避けるような規定)などが契約書や就業規則に入っている可能性もあります。この場合は開業地や診療内容などにおいても配慮が必要となり、より慎重な話し合いが必要になります。
5. まとめ
元職場の病院や医局の先生と開業後も連携している先生は非常に多く、実際、事業をやる上で敵は少ないに越したことはありません。本記事を参考に、円満に退職いただければと思います
筆者プロフィール
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