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ワクチンとは コラム|未来を創造するサイエンス

4 Apr 2022

1. 「ワクチン」とは何か?

「ワクチン」とは、「主に感染症を防ぐ目的で人や動物に投与される、免疫を賦活化する為の無害化された病原体などの物質を含む医薬品」です。ワクチンは、免疫系が病原体の抗原に対する抗体を作るように促す為、先にワクチンを接種しておく事で、実際に本当の病原体にさらされた時に重症化しない様に作られています。例えば、インフルエンザワクチンを接種した後で実際にインフルエンザウイルスに感染した場合、軽度の頭痛や微熱程度の症状で収まるはずです。しかし、ワクチンを接種しないまま、免疫系の準備が整っていない状態でインフルエンザに感染すると、ひどい頭痛や、高熱、関節の痛み、悪寒、倦怠感などの重い症状にみまわれてしまうことがあります。「抗腫瘍ワクチン(がんワクチン)」の様に治療を目的としたワクチンも存在しますが、多くのワクチンは一般的な薬剤の様に病気を治療する事を目的としたものではなく、体内の免疫系を刺激して病原体に対する免疫を賦活し、感染症の発症や重症化を予防する為のものです。

2. ワクチン接種の影響

ワクチンを接種する行為は「予防接種」と呼ばれ、「医学史上最も費用対効果が高く、成功した公衆衛生戦略の1つである」と言われています。毎年、ワクチンのおかげで、世界中のあらゆる年齢層の約200~300万人の命がインフルエンザをはじめとした生命にかかわる感染症から救われています。それでも未だに世界中で毎年150万人の子供たちが感染症で命を落としています。それは、死因の7分の1であり、また、感染症による死亡症例の98%を麻疹、破傷風、百日咳、インフルエンザ菌という4つの感染症が占めています。

しかし幸いな事に、ワクチン接種プログラムの改善によって状況は改善されつつあります。例えば2000年時点での麻疹による推定死亡数は、全世界で53万6千人でしたが、2018年には73%減少してわずか14万2千人となりました。また、ポリオウイルスが原因となるポリオは、非常に感染性の高い病気ですが、1977年に根絶された天然痘の様にワクチン接種の努力によって世界的に根絶する事が目標とされています。

現在、全世界の乳児の約90%がポリオワクチンの追加接種を受けており、野生株ポリオウイルスの存在が確認されているのは、現在、アフガニスタンとパキスタンの2か国のみです。WHOの報告によると、2020年時点で感染症による死者数の上位にある4種類を含む29種類の感染症に対して、認可済みのワクチンが存在します。

3. ワクチンの歴史

天然痘は6~17世紀にかけて猛威を振るった感染症ですが、天然痘への対処が始まりとなってワクチンの基礎が形作られました。天然痘は感染性も致死率も最大で35%と非常に高いものでした。当時の世界人口の約1割が天然痘ウイルスの影響を受けたと言われています。

古来よりアジアなどの地域では、天然痘に感染した人の膿やかさぶたなどを乾燥させるなどした後で健常人に接種する、「人痘法」と言う感染症予防法が存在していましたが、実際に天然痘に感染してしまう危険性を伴うものでした。

1796年に、英国の医師、エドワード・ジェンナーは、「酪農場で働く女性たちのうち牛痘を患った事のある者は天然痘にかからない」という話から、牛痘と天然痘の遺伝学的な類似性に気付きました。ジェンナーは、「症状の弱い牛痘ウイルスを用いることで、より重症化しやすい天然痘ウイルスに対する免疫を得ることが出来る」という仮説を立て、この仮説を検証する為に、牛痘にかかった農婦の1人(サラ・ネルメス)から膿を採取して庭師の9歳の息子(ジェームス・フィップス)に接種しました。1か月半後、ジェンナーはこの少年に天然痘ウイルスを接種しましたが、この少年が天然痘を発症する事はありませんでした。これは近代的なワクチンの世界初の成功例です。

この様に、感染症に感染した少量のサンプルを計画的に健常人の体に導入する事を「予防接種」と呼びます。「ワクチン」という言葉はラテン語で牛を意味する“vaccinus”に由来していますが、これはジェンナーの牛痘法による種痘が牛のサンプルを使用していたことから来ています。さらに1800年代後半には、牛痘ウイルスによる天然痘ワクチンから移行して、実際の天然痘ウイルスを用いた安全なワクチンの開発が進められ、予防接種が行われるようになりました。1959年から、WHOによる世界的な天然痘根絶プログラムが開始され、約20年後の1980年に天然痘の完全な根絶が宣言されました。1977年にソマリアで発生した症例を最後に自然感染による天然痘の症例は報告されておらず、野生の天然痘ウイルスは絶滅したと考えられています。これは、ワクチンの接種を最優先の手段として組織的に感染症の根絶に取り組んだ事による、大きな公衆衛生上の成果です。理想的な目標は全ての感染症を地上から根絶する事ですが、今日までに根絶に成功したのは天然痘のみで、ポリオの根絶が次の目標となっています。

4. ワクチンの成分や投与法の種類

従来のワクチン技術は、病原体全体を用いる事を基本としていますが、これはさらに、生きた病原体を用いるもの(生ワクチン)と、死滅した病原体を用いるもの(不活化ワクチン)とに大別されます。

4-1. 生(弱毒化)ワクチン

生ワクチンとは、感染症の病原体を弱毒化したものを用いたワクチンです。生ワクチンの作用は自然感染に非常に似ている為、強力かつ長期的な免疫を得る事が可能です。ほとんどの生ワクチンは、1〜2回の接種で一生持続する予防効果が得られます。ただし、弱毒化されているとは言え生きた病原体が含まれている為、高齢者や、糖尿病などの慢性疾患を抱えて免疫力が低下している人には接種できないなど、いくつかの制限があります。
例: はしか(麻疹)、おたふく風邪、風疹、水痘

4-2. 不活化(死菌)ワクチン

不活化ワクチンには、熱処理・化学処理・紫外線などによる処理などで完全に死滅させたウイルスやバクテリアが含まれています。その為、ワクチン接種によって病気が引き起こされる心配はありませんが、体内の免疫系は病原体の表面抗原を認識して抗体産生を促します。ただし、通常、人間の不活化ワクチンは生ワクチンほど強力な免疫応答を誘導しない為、病気への予防効果を継続的に得るためには、ブースター接種と呼ばれる追加接種が複数回必要になります。これは、ブースター効果と呼ばれる、安全に徐々に免疫力を高める為の方法です。しかし、不活化ワクチンにも多少リスクが存在しており、病原体が完全に不活性化されて感染力を失っている必要があります。ワクチン内の病原体が完全に不活性されておらず、感染症の集団発生を起こしてしまうケースも稀にあります。
例: ポリオ、A型肝炎

技術的な進歩によって、病原体の一部(サブユニット)や分泌物(トキソイド)だけでも、目的の免疫反応を引き起こすことが可能になっています。

4-3. サブユニットワクチン

近年では研究の進展により、病原体の一部(サブユニット)や分泌物のみを用いて免疫反応を賦活するワクチンも開発されています。例えば、B型肝炎ワクチンはサブユニットワクチンで、B型肝炎ウイルスの有害な成分のみを用いています。多くの場合、サブユニットワクチンは不活化ワクチンと同じようにリスクはほとんどありませんが、効果を持続させる為に複数回の追加接種が必要になる場合があります。
例: インフルエンザ、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス

4-4. トキソイドワクチン

トキソイドワクチンは、病原体が分泌する毒素(外毒素)を薬品などで処理して毒性を消失させたもの(トキソイド)を用いたワクチンです。トキソイドワクチンは、病原体自体に対する免疫を賦活するのではなく、病原体の有害な部分に対する免疫を賦活することを目的としています。つまり、病原体全体ではなく毒素のみに対する免疫応答を促します。このタイプのワクチンは、病原体自体は無害でも、その分泌する化学物質が病気を引き起こすような、特定の細菌を対象としています。不活化ワクチンと同様に、継続的な効果を得る為には複数回の追加接種が必要になる場合があります。
例: ジフテリア、破傷風

さらに近年では、元の病原体の痕跡すら含まず、代わりに抗体をコードする遺伝物質を含んだワクチン(ウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンなど)が登場しています。

4-5. ウイルスベクターワクチン

ウイルスベクターワクチンは、ワクチンの対象となるウイルス(病原体)とは異なるウイルスを無害に改変し、それを「輸送手段(ベクター)」として用いることで、目的の物質を細胞内に送達します。従来のワクチンとは大きく異なり、ワクチンの成分には病原体由来の物質ではなく、病原体の抗原をコードするDNAが含まれています。ウイルスベクターワクチンが体の細胞に入って抗原が生成されると、免疫応答が誘導されて抗体産生が促されます。この様にして、病原体を体内へ導入することなしに、安全に予防効果を生み出します。ウイルスベクターを用いたワクチンや治療法は比較的新しく、がんや遺伝性疾患の細胞治療など、様々な分野に応用されています。2022年現在、一部のCOVID-19ワクチンはウイルスベクターワクチンで、ベクターは風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスが用いられています。

4-6. mRNAワクチン

mRNAワクチンは、免疫を賦活する為の物質として遺伝物質を含んでいるという点ではウイルスベクターワクチンと似ています。ただし、ウイルスベクターワクチンと違う点として、ワクチンの成分に含まれる遺伝物質がDNAではなくmRNAであること、DNAよりも病原体の抗原タンパク質を速く合成できること、ウイルスをベクターとして用いる代わりにmRNAを細胞内へ直接導入すること、が挙げられます。体内でmRNAを介して抗原が作られた後は、ワクチン成分のmRNAは細胞質内で分解される為、細胞のDNAが保存される核に入って遺伝子を改変する様な事はもありません。

mRNAワクチンはウイルスの一部を全く含まない点も、ウイルスベクターワクチンがベクターとして別のウイルスを必要とする事と比べて利点となります。ただし、mRNAは非常に分解しやすい為、mRNAワクチンは超低温下で保管する必要があります。こうした事情から、特に発展途上国や離島など、特殊な冷蔵設備を持たない場所ではmRNAワクチンの保管が難しい場合があります。これに対して、ウイルスベクターワクチンはmRNAと比較して安定的なDNAを用いており、通常の冷蔵庫の温度で保管できるため、超低温保管の問題は起きません。COVID-19のパンデミックに対抗する為に開発されたワクチンのうち、Pfizer社/BioNTech社とModerna社が開発したワクチン(日本国内では武田薬品工業が承認申請)はmRNAワクチンで、AstraZeneca社やJanssen(Johnson & Johnson)社のワクチンはウイルスベクターワクチンとなっています。

mRNAワクチンは、開発時間を大幅に短縮できるという大きな利点がありますが、人間に適用されるのは今回のパンデミックで特例承認されたCOVID-19ワクチンが初めてです。副反応や長期的安定性などについては情報が限られており、今後の研究が待たれます。
例:COVID-19(新型コロナウイルス)

5. ワクチンのさまざまな投与法(投与経路)

ワクチンにはさまざまな投与法(投与経路)があり、予防効果の持続期間や効果の高さに大きく影響します。

5-1. 経口投与

錠剤タイプのワクチンは経口投与された後、消化管で溶解・吸収される為、「食べられるワクチン」と呼ばれる事もあります。経口投与ワクチンとして有名なのは、ポリオの生ワクチンです。他に、ロタウイルスワクチンなども経口投与されます。

5-2. 経鼻投与・吸入投与

鼻や喉の粘膜(上皮)から吸収する点鼻薬タイプのワクチンも存在します。経口投与や経鼻投与は、身体に針を刺したり傷付けたりすることもなく非侵襲的で、注射器など特別な器具も必要としない為、近年注目が高まっています。 また、点鼻薬タイプのインフルエンザワクチンも開発されており、一部はすでに使われています。

5-3. 経皮投与

経皮投与には、ガーゼや粘着性パッチを用いた方法、ジェットインジェクターと呼ばれるガスの圧力を用いた方法、マイクロニードルと呼ばれる微小な針を用いた方法などがあります。経皮ワクチンは、貼るだけなどの簡易な方法で用いる事が可能で、皮膚が備えた獲得免疫応答の誘導機能を活用する為、高いワクチン効果を発揮することが期待されています。

5-4. 皮下投与(SC)

皮下投与では、皮膚の下で筋肉の上にある脂肪細胞の結合組織に、注射器を用いてワクチンを投与します。結合組織の血管は細いため、ここに投与されたワクチンは、ゆっくりと血流に乗って作用していきます。

5-5. 静脈内投与(IV)

静脈内投与では、ワクチンは注射器によって血管に直接投与され、血液を介して全身に送られる為、非常に速効性があります。 血管への注射はほとんどの場合、動脈ではなく、組織から心臓に向かって血液を運ぶ静脈に対して行われます。静脈内投与されたワクチンの内容物は、最初にある程度血液で希釈されて、高濃度のワクチンが一部の組織に留まることなくすぐに体内の各組織へと送られる為、腫れや痛み、特定の組織の持続的な損傷などの副作用が緩和されます。また、静脈は動脈よりも皮膚の表面に近いところにあるため、比較的容易に注射を行うことが可能です。

5-6. 筋肉内投与(IM)

最後に挙げる筋肉内投与(筋肉注射)は、ワクチンの一般的な投与経路の一つです。筋肉内投与では、身体に対して垂直に注射針を刺して、ワクチンを深部の筋肉組織に到達させます。注射されたワクチンは一時的に筋肉組織に保持されてゆっくりと血流に放出され、効果も徐々に作用します。ジフテリア、破傷風、百日咳、A型肝炎、B型肝炎、HPV、インフルエンザ、COVID-19など、さまざまなワクチンが筋肉注射によって投与されています。

6. PHCbiの超低温フリーザーと薬用保冷庫はワクチンの保管に適しています

PHCbiの薬用保冷庫やバイオメディカルフリーザーは、貴重なワクチンや生物製剤などの医薬品管理のための包括的なコールドチェーンソリューションを提供しています。PHCbiの超低温フリーザーと薬用保冷庫は、高性能かつ精密な冷却システムと庫内設計に基づいて、信頼性、庫内温度の均一性、迅速な温度復帰性能、エネルギー効率と、冷蔵庫の置かれる多様な環境への適応性を同時に実現します。その為、様々な保管上のプロトコルや管理要件を満たし、庫内の保管物を安全に保管することが可能です。さまざまな技術・機能に支えられながら、頻繁なドア開閉後も迅速に庫内温度を回復させつつ、保管物の品質保持に必要な温度を維持します。

例えば、−60℃〜−80℃の超低温フリーザー(MDF-DU702VHなど)は、新型のワクチン(mRNAワクチンや、ウイルスベクターワクチン)などの保管に適しています。ワクチンの開発や製造などにもかかわる酵素など生体材料の保管には、-40℃のバイオメディカルフリーザー(MDF-MU549DHなど)が最適です。従来のワクチンや、薬品・試薬、他の生体試料などを短期~中期保管する際は、−30℃のバイオメディカルフリーザー(MDF-U731など)をご活用いただけます。更に、2℃~8℃の冷蔵庫と−30℃の冷凍庫という、2つの温度帯を1台で提供できるフリーザー付き薬用保冷庫(MPR-N450FHなど)は、小規模の研究室やクリニックの様な場所でも、スペースを最大限活用できるように設計されています。フリーザー付き薬用保冷庫は、保冷庫とフリーザーがそれぞれ独立しており、庫内の保管物の安全性を最大限守るように設計されています。また、2℃~8℃の温度帯をカバーする薬用保冷庫(MPR-S500Hなど)は、ワクチンの解凍から接種まで、数日程度の短期保管を目的として設計されています。

参考文献

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19. “Medical Refrigerators and Freezers for Safe Vaccine Storage.” PHC Corporation of North America, 2021.

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私たちの新しい事業ブランド「PHCbi」における「bi」は、「Biomedical(生物医療)」を表すとともに、弊社の強み・哲学である「Biomedical Innovation(生物医療における革新)」を表すものです。私たちは、1966年の薬用保冷庫1号機の発売以来、「Sanyo」「Panasonic」両ブランドにおいて、その技術力を駆使し、高品質で信頼性の高い製品・サービスを創造し、ライフサイエンス分野や医療業界のお客様の期待に応えるべく努力してきた長い歴史を持っています。より詳細な情報は "PHCbiについて"をご参照ください。

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