HACCP(ハサップ)とは?
HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point:危害要因分析重要管理点、通称「ハサップ」)は、1960年代終わり頃にアメリカ合衆国で最初に開発された食品の衛生と品質の管理手法の名称です。
HACCPでは、食品生産の各工程ごとに、潜在的な危害予測に基づいて、重要な工程を管理し記録します。NASA(National Aeronautics and SpaceAdministration:米国航空宇宙局)は、アポロ計画の一環として、米国陸軍研究所およびPillsburyCompany社と共同で、宇宙探査ミッションのための食品安全管理手法を開発しました。基礎となる重要管理点(Critical Control Points:CCP)のガイドラインは、武器の設計や試験を行うために使用されていた同様の管理手法に基づいています。この管理手法は、潜在的なシステム故障またはリスクの領域を特定して排除することで工程管理を行うものです。HACCPはまずNASAで成功し、続いて、製造業・農業・海産食品業・小売業などの多種多様な食品産業でも効果を発揮してきました。ここでは、HACCPの定義とその目的を簡単に紹介し、日本や他のAPAC諸国の食品事業において、この食品安全管理手法がもたらす利点についても解説します。
HACCP認証を受ける利点
世界的に貿易量や観光者数が増加するに従い、世界の各国政府は、食品安全管理手法を統合する動きを示しています。
HACCPのような国際的に認められた食品安全関連の認証を得ることで、以下の点が保証されます。
• 農場から食卓に至るまでのコンプライアンスに関する体系的なアプローチ
• 運用有効性の向上
• 在庫管理状況を改善して食品廃棄量を大幅に削減
• 食中毒や食物媒介性疾患の予防
• 品質と顧客満足度の向上
• 収益の確保
オーストラリアやニュージーランドなどの国々は、食品安全管理に関して古くから取り組んでおり、確固とした国際基準を採用しています。オーストラリアで施行されている食品安全基準は、小規模の自営業だけでなく、大規模の製造工場にも適用できる内容となっています。日本では2018年に食品衛生法が改正され、現在、多くの食品事業でHACCP認証の取得が義務付けられるようになっています。
HACCPで求められる12の手順について
国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations:FAO)では、HACCPで求められる12の手順を以下のようにまとめています。
食品微生物学の知見がHACCPに役立つ
HACCP計画の支援や整備にあたって、食品微生物学の知見が非常に役立ちます。微生物学的検査を行うことで、潜在的なコンタミネーションの経路や予防策を見出すことができます。HACCPチームでは、潜在的な危険有害性、その重大性、発生確率を評価するにあたって、微生物学の専門家が重要な役割を果たします。例えば、水質が使用に適しているか否か・時間・温度要件・pHレベル・混入した微生物の増殖に影響するその他のパラメーターについて、食品微生物学に関する知見から重要な洞察が得られます。今後2024年までに、世界の食品安全性試験の市場規模は210億米ドルを超えると推定されています。
食品微生物学の手法を用いて衛生プログラムの有効性を検証
清掃や衛生プログラムの有効性をモニタリングする際にも、食品微生物学的知見が役立ちます。例えば、まな板を洗浄して殺菌した後に、表面を拭き取って検体を得ることで、衛生プログラムが実際に有効かどうかを判断することができます。こうしたことを実際に実現するためには、機能的に優れた機器を導入することが大切です。冷凍機付インキュベーターの温度・照明条件などを調節することで、精度の高い環境でサンプルを培養することができます。こうした環境は、有効な保存期間を証明するためにも効果的な手段となります。他にも、設備の導入を検討すべき機器として、pHメーター・湿度分析計・屈折計・温度計・クリーンベンチ・オートクレーブ・コロニー計数器などが挙げられます。当該施設内で微生物学的検査を行うことが可能な場合には、こうした生命科学系の研究機器が必要となります。ほとんどの食品事業者は、取られている予防策と制御手段が有効かどうかを検証するために、外部の食品検査機関を利用しています。
HACCPで微生物学的データを活用する
食品微生物学的なデータは、原材料の購入先を検討する際など、さまざまな重要事項の決定においても役立ちます。購入を検討中の原材料業者から調査報告書と食品検査データを受け取れば、その業者の食品安全管理手法が有効なものかどうかを把握できます。また、食品微生物学的検査の報告書があれば、基準から逸脱してしまった際に、取るべき対策も明確になります。例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が多く計数された場合は、
食品を取り扱った担当者が十分に手を洗っていなかったことが示唆されます。また、購入検討中のバイヤー・販売会社・顧客などから、HACCP認証の遵守を求められる可能性もあります。輸入業者や輸出業者が認証を受けることは珍しくありませんが、さらに一般的な食品事業者(例えば農場など)も、HACCP認証を受ける利点に気付いて、認証を受ける方向で動いています。研究で用いられる試験法と、報告書自動作成機能、自動データ管理機能を統合することで、より効率的かつ短時間で情報検索することができます。
まとめ
日本では、国内の食品事業者が国際的な評価を得られるよう支援が進んでいます。そのためには、HACCP認証を取得することがとても重要です。APAC地域では、各国がそれぞれ異なる食品安全基準を設定していますが、HACCPは世界的に受け入れられた管理手法であり続けています。現在、シンガポールなども含めて、より多くの国々が科学的知見に基づいた管理手法を導入しています。食品微生物学的な分析方法を用いることで、HACCP認証をさらに有効に活用することができます。HACCPの手順では、食品微生物学の専門家と検査技師が大きな役割を果たすことになります。適切な実験機器を備えることで、既存の食品安全管理手法や、実施されている予防策、管理手段について検証し、有効性を確認することができます。