失われた臓器や組織を修復・再生-臨床試験実施病院として再生医療を推し進める
医療法人徳州会 札幌東徳洲会病院
厚生労働省によって設けられた厳格な基準や、高額な費用などがネックとなって進展があまり見られない臨床分野での再生医療。札幌東徳洲会病院は昨年6月、全国に先駆けて臨床試験を積極的に実施するプロジェクトを立ち上げた蘆田副センター長にお話を聞きました。
再生医療プロジェクトをスタートさせたきっかけ
2009年の夏頃、徳洲会グループ全体で、再生医療に取り組もうというムーブメントがありました。HIVウィルスを発見したアメリカのメリーランド大学病院のドクター・ギャロ博士に共同研究者として日本に来ていただいて講演会をしたり、いろいろな動きがありました。徳洲会病院はどちらかというと臨床に強い病院ですので、研究分野で一度に全部の病院で同じように再生医療を始めることは困難ということだったんですが、湘南鎌倉病院と私ども札幌東徳洲会病院が手を挙げたということです。
アイソレータ型CPユニット(細胞培養センター)を選定した理由
手術というものが医学の世界に取り込まれた時、講義室のような所でやってたんですね。世界最初の手術は、マサチューセッツの総合病院マサチューセッツジェネラルホスピタルの講義室だったんです。そこにエーテルドームというのがあって、患者の顔にマスクを置いて、エーテルを垂らして麻酔をかける。周りにいる人達は無菌操作もしないで手術を見ていた。最初の麻酔手術はそんな状態だったようです。その後医学の世界はご存じのようになるべく感染を少なくし、手術のリスクを回避するために手術室システムを構築してきました。手術室という設備が外科手術を発展させてきたといえます。
それと同じようにアイソレータの導入は、大げさかもしれませんが、再生医療を行っていく上でのインフラではないかと思います。これがなければ、いくつもクリーンルームを作らなければなりませんので、大きな設備になってしまいます。
湘南鎌倉病院も同じシステムが入っています。その選定に関してはどこからも異論がなかったですね。我々が求める再生医療に適合したシステムということが言えます。私どもは旭川医科大学と関係が強く、同じシステムの導入を進めています。
札幌東徳洲会病院における再生医療の現状と展望
再生医療に取り組み始めて今できることは、非常に限られた範囲です。対象疾患も今は少なく、人工的に培養した細胞を疾患に対して薬のように使うことです。自己の細胞あるいは他の人からもらった細胞を培養して使います。現在は培養する設備やノウハウ、それから職員の教育などの精度を上げているところです。
今後の展望としては、アイソレータを活用するプロジェクトとして、我々が考えているのは細胞シートです。設備が充分整った段階で、細胞シートによるいろいろなアプリケーションを考えたいというのが一つ。
また研究者によるプロジェクトとして血管再生に取り組んでいきます。効果的に血管再生ができるようにしたいと考えています。まだ研究段階ではありますが、これを先に実現させたいと思っています。
元々、札幌東徳洲会病院は循環器に強い病院です。心臓血管の疾患の患者さんが沢山おられます。それから下肢末梢動脈の患者さんも。そんな患者さんを救いたいと思っています。
私は腸疾患の専門です。慢性の炎症性腸疾患というのがあるんですが、現段階では薬で治療をしています。けれどもなかなか症状の改善がみられない人がおられるんです。そのような人達の末梢血から取った単核球、いろんな細胞になるのですが、それを培養すると、炎症を抑えるサイトカインを出す単核球が分化するということがわかっているんです。そうすると、自分の体の細胞を使って炎症を抑えるように分化させて体に戻せば、ステロイドなどの薬を使わなくても炎症を抑えられる、ということがある程度わかってきていますので、そのような医療に使っていきたいと思っています。
再生医療の臨床試験機関を目指して
私どもは研究機関ではありませんので、大学病院などで研究された再生医療のいわゆる二次試験機関として位置づけたいと考えています。
当院は細胞を作るチームと臨床医チームに分かれています。いろいろな細胞を作って、臨床側に供給するというやり方をしています。
大学の研究の場合は例えば、脳外科なら脳外科が管理、血管内科なら血管内科が管理、というような構造単位というのでしょうか、そんなやり方になると思うんですが、当院ではそういったことはなくて、細胞を作るのは患者さんから採取して作り、それを診療科別に戻して治療に役立てる。完全に分業化でき、患者様本位の医療というのでしょうか、そこが大学の研究機関と違う当院の強みと言えます。
再生医療を進歩発展させることは、「困っている患者さんには手をさしのべる」という徳洲会の精神や役割を大きく飛躍させることにつながると確信しています。