PHCグループは、社会課題の解決を通じ、
豊かな社会づくりに貢献します
PHCホールディングス
代表取締役社長
最高経営責任者(CEO)
宮﨑 正次
ヘルスケア業界と当社グループを取り巻く環境
現在、世界中で地域・収入による医療の質や医療アクセスの格差、医療費の増加等が社会課題となっています。また、ヘルスケア業界においては、コロナ禍をきっかけに貴重な医療資源や財源等を最大限かつ効果的に活用しようとする動きが加速しています。更に、健康増進や予防・未病に対する意識の高まり、医療機器・サービスに対するニーズの多様化、細胞遺伝子治療や再生医療といった最先端治療の活発化等も進んでいます。こうした社会課題や世の中の動きに対するアプローチとして、医療アウトカムを最大化しつつ、医療コストを最適化していく「バリューベース・ヘルスケア」という考え方が広まってきています。
PHCグループは、長年にわたり、研究から診断、治療、予防まで幅広く医療に関わるお客様に対して、リーディングブランドにある多数の高品質・高精度な製品・サービスを提供してまいりました。
私たちPHCグループは、これらの強みを生かして「バリューベース・ヘルスケア」の実現に貢献し、我々の経営理念である「新たな価値の創造」を通じ、豊かな社会づくりを追求してまいります。
精緻なモノづくりに端を発した長年の歴史
当社は1969年に「松下寿電子工業株式会社」として創業しました。創業時は豆電球の製作から始まり、その後は赤外線炬燵を作り、更にはテレビやビデオテープレコーダー、ハードディスク等を主力製品としていた時代を経て、血糖値センサを含むヘルスケア分野の製品サービスを展開する等、当社自体がトランスフォーメーションを繰り返し、それぞれの時代に応じた製品開発とサービスの提供を行ってまいりました。2010年に社名をパナソニック ヘルスケア株式会社に変更し、ヘルスケア事業をドメインにしたのが第二創業と言えるでしょう。パナソニックグループからカーブアウトしたのが2014年ですが、大企業から独立して一つの会社として歩む覚悟を決めたという意味で一つのターニングポイントの年だと思っています。更に、コーポレートブランドをパナソニック ヘルスケアからPHCに変えた2018年と、東京証券取引所に上場した2021年も転換点です。カーブアウト時の当社グループの売上高は900億円ほどでしたが、3つの大きなM&Aを経て、約10年後の現在は、当時の約4倍にあたる3,500億円ほどの売上高に成長しました。製造する製品は変わってきても、精緻なモノづくりに対する信念は変えずに時代の流れに応じて成長を遂げてきた歴史とDNAは、当社の強みの源泉だと思っています。
また、当社グループのもう一つの強みは、多彩な製品ポートフォリオとそれを支える従業員の多様性です。これらがあることで、医療・ヘルスケアの各領域に対してリーディングポジションにある高精度・高品質の製品・サービスを提供することができ、医療関係者の皆様から高い評価と信頼を頂いています。研究から診断・治療・予防まで、医療の川上から川下まで全てをカバーしているところは同業他社にはほとんど見ることができず、当社ならではの強みとなっています。結果として、医療機関や研究機関、検査施設、製薬メーカー、患者さんというほぼ全ての医療のステークホルダーと直接つながっていることも一つの大きな強みになると思っています。
こうした中で当社グループは血糖値測定システム等を扱う「糖尿病マネジメント」、ヘルスケアITや臨床検査等を扱う「ヘルスケアソリューション」、がん診断や新しい治療法や新薬の開発を支援する機器を扱う「診断・ライフサイエンス」の3つの事業領域を中心に当社の強みを生かした事業を展開し、冒頭に述べた医療アウトカムの最大化と医療コストの最適化を目指す「バリューベース・ヘルスケア」に貢献する様々な価値提供を行っています。
経営理念に込められた思いと、新たな成長領域
当社グループの経営理念は「わたしたちは、たゆみない努力で健康を願う全ての人々に新たな価値を創造し豊かな社会づくりに貢献します」です。「たゆみない努力」は、当社発祥の地である四国地方の出身者特有の真面目で勤勉という人間性から出てきたと思っています。「健康を願うすべての人々に」は全ての医療に関わるステークホルダーであり、そのステークホルダーに対し「新たな価値を創造」するというのは、日本発のグローバルヘルスケア企業としてイノベーションによって新しい価値を提供していく姿勢を示しています。最後の「豊かな社会づくりに貢献」は本業を通じて社会に貢献していこうということです。こうした思いを具現化し、我々は2022年11月に中期経営計画「Value Creation Plan FY2022-2025」を発表しました。
「バリューベース・ヘルスケア」に貢献することで、PHCグループの価値が提供できると考えており、中期経営計画では3つの成長領域で「バリューベース・ヘルスケア」の実現を目指すとともに、 ESG経営を強化してまいります。「糖尿病マネジメント」ではBGMからCGMへ、「ヘルスケアソリューション」は医療デジタルフォーメーション(DX)の推進と顧客基盤の拡大・強化へ、「診断・ライフサイエンス」では先端治療開発の効率化を実現し社会に貢献していくとともに、企業としても成長を実現していきます。
PHCグループの多様な企業が醸成するシナジー
当社グループは多様な企業の集合体ですから、シナジーの醸成は重要テーマであると捉えています。
「ヘルスケアソリューション」の目玉事業として健康経営事業に取り組んでいますが、2023年4月に、これまで2つの事業会社に分かれていた健康診断や予防医療といった健康経営関連事業をウィーメックスに統合、また、PHCとLSIメディエンスそれぞれに診断薬事業がありましたが、2023年11月に一つに統合しました。組織内の統合・再編はシナジーを発揮する一つの戦略だと考えていますので、速やかに実行していきます。
オペレーションにおいては、診断薬事業部のメンバーをLSIM事業へ出向させたり、病理事業(エプレディア)の海外工場にバイオメディカ事業部からエンジニアを出向させたりする等、優れた人財や技術を横展開しグループ全体の底上げを図っています。
医師不足への課題解決や2024年度からはじまる「医師の働き方改革」においても、グループ内やパートナーとのシナジーを発揮し、医療DXの推進や遠隔医療の活用、社会課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。
2023年3月期の振り返りと今後
2023年3月期は、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が落ち着いてきたことによる経済活動の制限の緩和等、景気の持ち直しが見られた一方で、ウクライナ情勢の悪化や物価の高騰により、先行きが不透明な状況が続きました。そうした中で、当社グループの売上収益は、3,564億円(前年同期比4.7%増)となりました。
セグメント別では、「糖尿病マネジメント」は為替の好影響があり、増収となりました。BGMをスリム化しつつ、CGMにしっかりと投資をして伸ばしていきます。
「ヘルスケアソリューション」は新型コロナウイルス感染症のPCR検査の数量減少や診療報酬引き下げの影響が大きく、減収となりました。今後は、電子処方箋や健康経営事業等の新たな需要を取り込んでいきます。
「診断・ライフサイエンス」は病理事業・バイオメディカ事業ともに増収となりました。減損損失を計上した病理事業(エプレディア)の収益性改善は最重要課題と認識して取り組んでいきます。
バイオメディカ事業は先端治療開発ソリューションとして新製品(ライブセル代謝分析装置)の販売を伸ばすとともに、細胞遺伝子治療向けのソリューション開発に投資していきます。
高い目標設定と適切な舵取りを礎に
私は「当社の一番の強みは、多彩な製品ポートフォリオとそれを支える従業員の多様性」と申し上げましたが、これにも増して重要なのが「従業員一人一人の成長」であり、これこそが当社グループを発展させる原動力であると考えています。そのために、多様な人財が新たな技能・技術を学べてチームの一員として課題を解決したり、グローバル規模で各自の成長を実感できたりするとともに、活気にあふれた働きやすい職場づくりを目指しています。グローバルな連携や事業間のシナジーを発揮できる環境を整えるためには、従業員一人一人のアイディアがイノベーションの芽を生み出す企業文化を築くことが必要です。また、グループの成長戦略を基に、同じビジョンに向かって働く仲間とともに、従業員一人ひとりが自分自身の目標や志を実現しながら、積極的に活躍の場を広げていくことができる企業風土も築いていきたいと考えています。
私は、従業員の皆さんが作り出しているPHCグループの魅力を、全てのステークホルダーに知っていただきたいと強く願っています。投資家の皆様に対して当社グループの魅力を伝えていくことは当然ですし、取引先やお客様に当社グループの事業や取り組み内容を理解してもらうことも大事です。採用面においても、当社グループの魅力をしっかり伝えていくことが大切です。こうした全てのステークホルダーにしっかりと伝わる情報を発信していくためには、改善のループを回していく必要があります。他社に先駆けているところは更にブラッシュアップして伸ばし、劣っているところや課題は愚直に改善していくことが必要です。
また、こうした改善に限らず、私は何事においても高い目標を持つのが非常に大事だと考えています。低い目標では低い成果しか出ません。経営者は当然のこと、従業員一人一人が高い目標を持ち、自らチャレンジしていく意識を育て、そのためのコミュニケーションを図りたいと思っています。従業員に高い目標を持ってもらうには、当社グループの立ち位置やビジョン等を理解してもらい、共有していくことが必要です。社内に対してはタウンホールミーティングをグローバルに行って伝えてまいりましたが、今回制作した統合報告書は従業員に向けたメッセージでもあります。
私は松下寿電子工業の時代からPHCグループに長年勤めてまいりましたが、常に同業他社を上回る高い目標を設定してきました。私の部下は本当に大変だったと思います。「よく遊び、よく学ぶ」を合言葉に、多くの仲間が自ら率先して仕事において高い目標にチャレンジしていました。いつも全力で取り組むことで、当社のトランスフォーメーションが何度も成功したので、カーブアウト時の売上高900億円から約10年で約4倍の3,500億円規模に成長できたと思っています。
高い目標にチャレンジする過程では、失敗したり、想定外の出来事に遭遇したり、思うとおりに進まないことも多々あります。そういう時こそ、いち早く間違いや異変に気付き、この先どう進めるべきかを瞬時に見極め、別の方向に舵を切ることが何より重要だと感じています。
世の中は常に変化し、その変化に合わせて社会課題も変容していきます。私は、その変容していく社会課題をいち早く掴み、高い目標を掲げ果敢に挑戦し、短期・中期・長期、それぞれの視点を持って適切な経営判断を行うことで、「バリューベース・ヘルスケア」の実現と豊かな社会づくりに貢献してまいります。PHCグループの更なる進化と今後の成長に、ぜひご期待ください。