統合報告書 2023

PHCグループの現状と目指す姿有識者との
サステナビリティ座談会

難しい目標に向けてチャレンジ力を発揮

PHCグループは、事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献する「サステナビリティ経営」に取り組んでいます。このたび、 ESG/SDGsコンサルトの笹谷秀光氏をお招きして、当社CEO宮﨑、COO佐藤の3名でサステナビリティ経営をテーマに座談会を行いました。

笹谷 秀光 / 宮﨑 正次 / 佐藤 浩一郎

社会要請に的確に踏み込んだ「ESG/SDGsマトリクス」を整理

佐藤ヘルスケア業界には、医療アクセスの格差や医療費の増加をはじめとする多くの社会課題があります。こうした課題解決に取り組む上での当社の強みとして、各事業の製品やサービスがそれぞれの領域でリーディングポジションにあることや、様々な外部パートナーとの協業を通じた速やかな製品開発やサービス展開が挙げられます。当社の強みを支えているのが製品の高い精度と品質と顧客の声を吸い上げて常に改善していく姿勢です。更に、長期的なパートナーシップに裏打ちされた調達力、125以上の国と地域に及ぶ販売先、そして、経験豊富なモノづくりの力と、各国の事業環境に精通した営業人財も当社の強みと言えるでしょう。

宮﨑私たちは患者さんの健康を支える製品を数多く提供していますので、品質は特に意識しています。品質の高さはPHCグループの強みの核心と言えます。

佐藤私たちは今回、強みを生かして環境・社会課題を解決していくために、当社グループが優先的に取り組むべき11の重要課題(マテリアリティ)を特定し、KPIを設定しました。マテリアリティの特定は社長をリーダーとし、私とCSO(最高戦略責任者)を中心に、全事業部門と本社部門で組織横断的かつグローバルな検討チームを立ち上げて、全社一丸となって議論して進めました。議論の際は、SDGsの思想を経営にビルトインして経済的価値と社会的価値を両立していくことを意識しました。その際に役立ったのが「SDGsマトリクス」です。これは各マテリアリティがSDGsにどう結びついているのかを一覧にしたもので、SDGsの17の目標のみならず、より具体的な目標である169のターゲットのレベルまで掘り下げました。なお、この議論の過程で、社会課題への感度が高い役職員が非常に多いことが分かり、今後、私たちがサステナビリティ経営を展開していく上で大きな自信になりました。

笹谷SDGsでは「17の目標と169のターゲット」がセットで示されています。社会課題の共通言語となったSDGsができてからは、世界最大の資金を保有する日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が企業による共通価値の創造においてSDGsを活用しているかを判断要素にすることを示しました。これは影響が大きく、ESGとSDGsはいわば「表裏一体の関係」になりました。PHCグループは今回、マテリアリティの特定にあたり、「SDGsマトリクス」でESGの各項目とSDGsの各目標の関連をターゲットレベルで識別する番号を付しました。ここまで網羅的にターゲットへの当てはめを行う企業はいまだ少ないので、他社との差別化ができます。結果、競争戦略としてのサステナビリティ体系ができました。

SDGsの各ターゲット番号で示すサステナビリティの取り組み

宮﨑当社グループは2022年11月に中期経営計画「Value Creation Plan FY2022-2025」を発表しました。その中で事業の成長領域を定義付け、今後の事業成長を牽引するための施策を明確化し、同時にサステナビリティ経営の強化を打ち出しました。サステナビリティでは活動に継続性を持たせ、企業のイノベーションにより本業で社会に貢献することが重要です。当社はコロナ禍においてもPCR検査の受託サービスの提供や、mRNAワクチンの製造・保存に使用される超低温フリーザー等、社会が必要とする製品やサービスを迅速に展開することができました。私たちにはグループの経営理念「たゆみない努力で、健康を願うすべての人々に新たな価値を創造し、豊かな社会づくりに貢献する」が根付いていると感じます。今後は更に発展させ、サステナビリティ経営を常にブラッシュアップしていくことが重要です。

宮﨑 正次

笹谷PHCグループは技術面で他社に比べ優位性がある上に、ヘルスケア業界の川上から川下までソリューションを提供できますから、コロナ禍において事業活動を通じて広く社会に貢献できたのは必然と言えるでしょう。
SDGsマトリクスを見るとPHCグループが何に重点を置いてサステナビリティ経営を進めているか一目で分かります。3番「健康と福祉」に関するソリューションと、それを支える9番「技術革新力」と17番「パートナーシップ」の強みが中心です。
その中でも更に深掘りをしており、SDGsの3番「健康と福祉」のうち3.4、3.8、3.9への貢献を記載しています。3.4は「2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する」というターゲットです。ここまで掘り下げることで、関連する製品やサービスをSDGsの具体策と紐付けて訴求でき、併せてPHCグループが果たすSDGsへの貢献が具体的に理解できます。
これらを各方面に丁寧に説明していけば、社会課題解決企業であることがより効果的に理解され、PHCグループの競争優位性が伝わります。また、自社の製品・サービスがSDGsのどのターゲットに繋がるかが社員にも分かるので皆さんの当事者意識も高めることができます。PHCグループの一人一人にマトリクスが浸透し、本業でのイノベーションに生かしていくことを期待します。

3 すべての人に健康と福祉を / 17 パートナーシップで目標を達成しよう

幅広いステークホルダーとの連携・協働を各事業領域で積極化

佐藤医療業界には「バリューベース・ヘルスケア」という潮流があります。地域や収入による医療アクセスの格差の広がりや医療費の増加等が社会課題となり、こうした課題に対して、人々にとっての医療アウトカムの最大化と医療コストの最適化を目指すという考え方です。当社は「糖尿病マネジメント」「ヘルスケアソリューション」「診断・ライフサイエンス」の3ドメインで事業を展開しています。事業を通じて、製薬企業、大学・研究機関、病院、診療所、薬局、患者さん等幅広い医療のステークホルダーと直接のコミュニケーションを図っています。皆様から製品・サービスへのフィードバックを日々収集してニーズや要望を踏まえ改善していくプロセス、これをVOC(Voice of Customer)活動として積極的に展開し、付加価値の創出に努めています。
更に、外部パートナーとの協業も積極的に進めています。例えば今年3月に、当社傘下のエプレディアが3DHISTECH社と提携して、がんや腫瘍病変の診断に関する迅速かつ正確な手法と装置の開発を目的とした「Pathology Innovation Incubator」をハンガリーに設立しました。

笹谷そのような事例はSDGs目標の17番「パートナーシップで目標を達成しよう」そのものです。連携によりイノベーションが生まれ、目標3番は英語では「Good Health and Well-being」ですが、今、重要視される、社会の人々の「Well-being」の向上にも繋がるでしょう。

Well-beingは、個人の幸福や生活の質の向上に焦点を当てる概念ですので、生活者一人一人の期待に着目する必要があります。その結果「PHCグループがあってよかった」「社会になくてはならない存在だ」「大きく事業を広げてほしい」という声が生まれ、これがPHCグループのビジネスモデルの強みであり、かつ価値創造の源泉であるという認識が形成されます。こうした評価は、PHCグループがSDGsを取り入れたことで一層客観的・視認的に伝わります。

3 すべての人に健康と福祉を / 17 パートナーシップで目標を達成しよう
笹谷 秀光

他社との優位性を感じさせるESGの各要素

宮﨑マテリアリティは当社グループが優先的に取り組むべき重要課題であり、今後も活動を深掘りしていきたいと思っています。「環境」の分野では「気候変動への取組」「省資源化による環境への配慮」「サーキュラーエコノミー社会の推進」の3つの課題にグローバルで重点的に取り組みます。CO2排出量や水の取水量、梱包材の使用量の削減等のKPIに対し、意欲的な目標値を設定しました。

笹谷SDGsのサステナビリティという概念をかみ砕くと、「世のため、人のため、自分のため、そして子孫のため」、つまり、次世代に良いものを残していくことです。その中でも投資家をはじめとしたステークホルダーが最も注目する一つが「環境」分野の「気候変動への取組」です。今後この分野を強化することによりステークホルダーからの更なる信頼強化にも繋がります。

宮﨑我々の製品の省エネルギー性能は業界トップクラスです。例えば、バイオメディカ事業の電力消費を極力まで抑えた超低温フリーザー「VIP ECO SMART」シリーズは、今年5月の国際学会※1で「優秀新製品賞」を受賞しました。このように、研究者や医療従事者の多様な課題を的確に捉え、革新的なソリューションの創出を通じて、これからも研究・医療現場の課題解決と新規治療法(モダリティ)の進化に貢献していきたいと思います。

佐藤「社会」の分野では、ヘルスケアソリューション事業を中心に、医療政策の方針に沿った製品開発とサービス提供をどこよりも早く行うことを目指してきました。これが現在の電子カルテにおける国内シェアNo.1※2の実績に繋がっていると思います。更に、医療DXの浸透により個人が自らの健康データを活用して健康増進を図る社会が到来するでしょう。我々は、この新しい社会のインフラ構築に貢献できる強みがあります。電子カルテや保険薬局向け電子薬歴におけるITテクノロジーやオンライン資格確認の早急な普及を支援できる強固な顧客基盤、そして約50年にわたる実績と信頼が当社のヘルスケアソリューション事業における強みの代表例です。

笹谷PHCグループは、「人々の健康」という「社会」の中でも最重要な分野で事業を展開していますから、顧客のニーズをしっかりとつかみながら、技術力と商品開発力を武器にして、困難な社会課題の解決に取り組んでいただければと思います。顧客のニーズに即した医療の「DX」の推進は喫緊の課題でSDGs目標9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」ですし、目標11番「住み続けられるまちづくりを」に該当する医療コミュニティや地域社会との連携においても貴社が果たせる役割は極めて大きいと思います。

9 産業と技術革新の基盤をつくろう / 11 住み続けられるまちづくりを

宮﨑当社グループは世界で9,000人近い従業員が働いています。多様性(ダイバーシティ)は人的資本における強みの一つです。我々は従業員一人一人が生き生きと働けることを重要視しています。事業や国を跨いだ人財の異動や交流等ダイバーシティ&インクルージョンの文化を根付かせる取り組みも行っています。グループ内の連携を促進するグローバルな統合人事プラットフォームの構築やグローバル評価制度の導入も進めています。 PHCグループは、日本発のグローバルヘルスケア企業として、多様性を尊重し、連携しやすい環境と透明性の高い活力のある組織・文化を目指しています。
「ガバナンス」の観点でも多様性を重要な要素と捉えています。 PHCホールディングスの取締役会は性別や国籍でも多様な8名で構成されています。男性だけでなく女性の取締役が在籍し、国籍も日本、アメリカ、スペイン等多様であり、更に、私・佐藤以外の取締役6名が社外取締役です。

笹谷ガバナンスが全ての基本になりますが、PHCグループはダイバーシティを生かしたガバナンスを形成しています。
SDGsを盛り込んだ国連合意文書「2030アジェンダ」の前文に示された「5P」を思い起こします。「People(人間)」、「Prosperity (繁栄)」、「Planet(地球)」、「Peace(平和と公正)」、「Partnership (パートナーシップ)」でSDGsの17の目標はこれにより整理されています。これら全てが貴社の目指す経営の方向性や活動内容とシンクロしています。

社会課題の解決に向け高い企業目標を掲げ続ける

宮﨑社会課題は常に変化しますので、これに対応しつつ、透明性を高めるためにマテリアリティやKPIを定期的に見直し、成果を積極的に公表していきます。高い目標を掲げ、新たな価値を生み出す企業として成長し続けたいですし、サステナビリティを通じてPHCグループだからこそ実現できる「豊かな社会づくり」に貢献していきます。

佐藤当社グループは様々な企業の集合体である強みを生かし、高い目標をグループ従業員の皆さんと一緒に乗り越えていけるよう、多様な事業をしっかりと束ねてバリューベース・ヘルスケアの実現に貢献してまいります。

佐藤 浩一郎

笹谷貴社のESGを概括すると、「環境」分野では、気候変動への対応力が非常に高いと評価できます。「社会」分野では、「バリューベース・ヘルスケア」を推進され、最近重視される「人的資本」にも力を入れています。「ガバナンス」分野では、多様性を尊重し、イノベーティブな経営をしておられます。ESGについて今回SDGsにあてはめて整理した結果、PHCグループは、SDGs目標の3番「健康と福祉」を中心に、ビジネスモデルの強みである9番(産業と技術革新の基盤をつくろう)と17番(パートナーシップ)で的確に事業を遂行しています。そして、喫緊の課題の13番「気候変動に具体的な対策を」にも焦点を当てて、総合して、サステナビリティ経営を深めています。
今後は世界に向けて効果的に発信していくことが重要です。私は、近江商人の「三方良し」に発信の重要性を加えた「発信型三方良し」を提唱しています。PHCグループのサステナビリティ体系は他社との差別化も図れる内容ですので、積極的な世界への発信に期待しています。

3 すべての人に健康と福祉を / 9 産業と技術革新の基盤をつくろう / 13 気候変動に具体的な対策を / 17 パートナーシップで目標を達成しよう
  • ※1米国で開催のバイオバンクの国際学会、International Society for Biological and Environmental Repositories(環境及び生物学的リポジトリ国際学会)2023年度年次総会
  • ※2診療所向け電子カルテ