人生の最期をどう迎えるか
「家族ががんなどにかかり、最期を看取る」という経験はほとんどの方がすると思います。しかし、最期を看取ることは人生で何度もあるわけではなく、いざというときに、どのようにすればよいか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか?大切な人の最期をしっかりと援助できるように、今回はターミナルケアについて解説していきます。
1.ターミナルケアとは
ターミナルケアは日本語に言い換えると「終末期ケア」となります。最近では、エンドオブライフ・ケアと言われることもあります。一人ひとりの人生の締めくくりにおいて、その人に寄り添う、医療者が行うケアがターミナルケアです。
筆者は緩和ケア医で、がん患者さんの心身のつらさを緩和する仕事をしています。その中で、終末期を迎えたがん患者さんを診察する際に「人生の最期をどのように過ごしたいですか?」という質問を患者さんにすると、例えば下記のような答えが返ってきます。
「大事な人と、大好きな海を見ながら死にたい」
「家族に囲まれて、一人ひとりにお礼を言いたい」
「最期まで仕事をして、そのことを引き継いで死にたい」
など、人によってさまざまです。
こういった希望を叶えてあげて、その人らしい最期を援助するのがターミナルケアです。
今回はがん患者のケースを中心に、自宅での看取りについて書いていきます。
2.自宅での看取り
最近では、最期まで自宅で過ごすことを希望する方が増えてきました。そして、それが可能となってきています。ひと昔前までは、がんになると病院で亡くなることが当たり前でしたが、今では自分がどこで最期を迎えるのかを選択できる時代になっています。最期は在宅かホスピスか、あるいは病院がいいのか、家族は患者さんとしっかり話し合って決めましょう。その意思を、主治医をはじめとする治療病院のスタッフは尊重し支援してくれるでしょう。
しかし、患者さんとしては、気持ちが途中で変わるということもあるかもしれません。最初は自宅でと思っていたものの、心配になってきてホスピスに入りたくなった、ということもあるかもしれません。あらかじめ、患者さんの地域のホスピスや、入院できる病院のことを調べていれば自宅以外での看取りに変更することも可能です。気持ちが変わることは当然だと思い、さまざまな選択ができるように準備をしておきましょう。
介護保険などの公的支援
自宅での介護を、家族だけで行うことはとても大変だと思う方も多くいるでしょう。
しかし、そういった介護者を支える制度があります。
まず介護保険などの公的支援を受けましょう。40歳以上のがん患者ならだれでも介護保険を受けられます。介護保険を受けると、ケアマネジャーという福祉の専門家が付き、相談に乗ってくれます。これにより「電動ベッド」「入浴介助」「病院への送り迎え」「改築工事の援助」など、さまざまな福祉関係のケアやアドバイスが受けることができます。
訪問介護士や在宅医といった選択肢
家でつらい症状が出てきたり、病気が急に悪くなったりしたらどうしよう、と不安に思う方もたくさんいます。そういった医療の面においては、訪問看護師や在宅医が対応してくれます。在宅は病院に比べ十分な治療を受けられないのではないか、と心配される方もいるかもしれません。しかし、彼らは在宅においてもつらい症状を緩和する治療やケアを十分に行うことができます。
看取りは患者さんにとって最期の大切な時間です。したがって、在宅医や訪問看護ステーションの選択はとても大事なものになります。在宅医や訪問看護ステーションは自分で選ぶことができるので、実際に会ったり評判を聞いたりして決めましょう。その際「24時間対応してくれ、症状緩和をしっかり行える在宅医」「24時間対応してくれる訪問看護ステーション」を探すことが大事なポイントです。24時間の対応であれば、夜や休日でもご家族や患者さんの心配事に対応してくれるので安心できるでしょう。
急変したときの対応も在宅医に確認しておくことが大切です。素人には予期できないことが多いので、その時になって慌てないためです。
これらの援助を受けることで、安心して住み慣れた自宅で過ごすことができるようになります。
患者の家族のケア
ここまで患者さんのためになる点で解説してきましたが、患者さんの家族も同じく心身のつらさを抱えていることが多く、ケアの対象です。一人ですべてを抱え込んで患者さんを介護しようとしてしまうと必ず燃え尽きてしまいます。
そのような家族は下記3種類のサポーターを見つけましょう。
①家族のかわりになって患者さんを助けてくれる人
例えば患者さんの食事を作ってくれたり、患者さんを病院への送迎をしてくれたりする人です。
②家族の知らない情報を教えてくれる人
患者さんの病状がこれからどうなっていくかを知ることはとても大事なことです。在宅医、訪問看護師は患者さんの病状・治療・ケアの状態、そして、家族がなすべきことを教えてくれます。
③気持ちを癒してくれる人、情緒的な部分のサポーター
大事な家族が弱っていく姿を見るのは誰でもつらいものです。気持ちのつらさを分かってもらえる人に話してつらい気持ちを手放すことで、気持ちが楽になり勇気をもらえます。
3.本人の意思を尊重した社会になるには
数年前からアドバンスケア・プラニング(Advance Care Planning,ACP)を進めていこうとする動きが医療の世界で盛んになり、国もそれを奨励しています。
ACPとは、がんなどの重篤な病気を抱えた患者さんが、今後もし病気が治らなくなったらどんな治療・ケアをしてもらいたいか、最期をどこで過ごしたいかなどについて、まだ患者さんが元気なうちに、家族、医療者とともに話しあうプロセスのことです。その話し合いは、単に延命治療をするかしないかではなく、患者・家族の意向,価値観が尊重され、「患者がどう生きたいのか」ということを大事に扱います。
今後、ACPを社会に浸透させ、本人の意思を尊重する社会になるためには、死をタブー視せず、どのように生き、どのような最期を迎えたいかということも、オープンに話し合う事が大切です。
「家はええ。一番や」
長い入院生活を終え、自宅に帰った患者さんが筆者に言った言葉です。
ある在宅医は「人は入院したら患者になる。でも家に帰ったら病気を抱えた人に戻る」と言いました。
病院は治療の場で、家は生活の場です。自宅で問題なく過ごせるようにし、その人らしさを支えることが、在宅医療の一番大事な点であると私は思います。
人は皆、いずれ死にます。死を生活の延長上にある当たり前のものだと考えると、自宅で死ぬことはごく当たり前のことです。患者さんの望む最期を援助するためには、「死は忌むべきものではなく、死について普通に話しあえるようになること」が大切です。これが、これからの社会にとって求められているものと言えるでしょう。