統合報告書 2024

PHCグループの現状と目指す姿特集2 サステナビリティ座談会

PHCグループは、2024年7月8日、サステナビリティに関する各地域の取り組み内容や課題、今後の展望について、グローバルの主要拠点の従業員とマネジメントによるオンライン座談会を開催しました。

  • 1. ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
  • 2. 原田 裕丈
  • 3. ノヴィ ホディジャ
  • 4. ミコライ タイボロフスキー
  • 5. 太田 紫穂
  • 6. 山口 快樹

参加者

  • ローラ カルドーゾ・スモドラーカ

    PHCヨーロッパ有限会社

    PHCEU、Legal and Compliance、ESG and Communication Specialist
    2023年9月にPHCEUに入社。ESGおよびコミュニケーションスペシャリストとしての役割を担っている。イタリア在住。

  • 原田 裕丈

    epredia

    エプレディア(New Erie Scientific LLC)、Corporate Planning、Vice President
    2024年2月からエプレディアへ出向し、米国に駐在中。出向前はPHCホールディングス(株)・CEO室長を務めた。PHCグループのESG活動立ち上げメンバーの一人。

  • ノヴィ ホディジャ

    PHCインドネシア株式会社

    PHCbi、Corporate Secretary
    1997年にPHC インドネシアに入社。インドネシアにおける女性活躍推進チーム「Kartini※1」のリーダーを務める。

  • ミコライ タイボロフスキー

    ascensia

    アセンシア、Quality Engineer EU、ESG Manager
    2023年3月にアセンシアに入社。ポーランドにて、同社のサステナビリティ活動を推進。

  • 太田 紫穂

    PHC GROUP

    PHCホールディングス(株)、経営企画部サステナビリティ推進室
    2024年2月にPHCホールディングス(株)に入社。グループ全体のサステナビリティをリードしている。

  • 山口 快樹

    PHC GROUP

    PHCホールディングス(株)、最高財務責任者(CFO)
    2024年6月までPHCホールディングス(株)の最高戦略責任者(CSO)としてサステナビリティ委員会の副委員長を務める。7月以降はCFOかつ同委員会の委員。

はじめに~加速するPHCグループのサステナビリティ活動

山口 快樹
山口本日はPHCグループのサステナビリティについて皆さんとざっくばらんにディスカッションできればと思います。現在、PHCグループのサステナビリティ活動は、グループ全体で本格的に取り組みを開始し、取引先からの要望や各地域の要請に対応するべく活動を加速させているといえます。当社は2021年10月に東京証券取引所に上場したのち、2022年に公表した中期経営計画(VCP)においてサステナビリティ活動の強化を打ち出しました。これを受けて、昨年2023年にグループ全体のマテリアリティやKPIを設定し、今年に入り当社グループとして初の統合報告書を発行、さらにサステナビリティ委員会を設置するなど、活動を強化しているところです。また、 事業上重要性を増しているSBT※2などの認証等への対応を進めています。
太田 紫穂
太田サステナビリティ委員会では、今年4月の会議においてグローバルなESGガイドラインや取引先からの要望と当社グループの取り組みのギャップを確認しました。また、直近では欧州におけるCSRD※3への対応状況を共有し、執行役員、各事業部長をはじめとした関係者の理解を深めることができました。このように、委員会の発足によりグループ全体が協力して取り組むための力強いスタートが切れましたね。

サステナビリティ対応のグローバル展開

山口 快樹
山口それではPHCグループのマテリアリティやKPIが各拠点にどう受け止められているのか、どの程度浸透しているのかを聞きたいと思います。まず、米国の状況について、エプレディアの原田さんはいかがですか。
原田 裕丈
原田私が今年2月に米国に赴任した際の第一印象は、エプレディアの従業員が、サステナビリティに関する取り組みについて強い関心を持っているということでした。エプレディアでは今年4月に全従業員を集めて期初のキックオフミーティングを開催しました。そこで打ち出したエプレディアが今年重視するValueの一つに「サステナビリティ」がありますが、これはエプレディア従業員からの発案です。このようなことからも、エプレディアではサステナビリティに対する関心が高いと感じています。会社は異なりますが、ローラさんのいる欧州の状況はいかがですか。
ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
カルドーゾ・スモドラーカ私たちのチームから見て、PHCグループ全体のESG強化の取り組みは、欧州の従業員から広く支持されていると思います。今後は、意識強化による従業員へのさらなるESGの浸透や、CSRDに対応するための関連規制の体系化と、事業への影響の把握が課題です。これは簡単ではありませんが、このような欧州での我々の取り組みが、PHCグループにおけるグローバルの各拠点のロールモデルとなれると良いと考えているので、良い機会として前向きに対応していきます。他の皆さんの状況はいかがですか。
ノヴィ ホディジャ
ホディジャ当社はインドネシアで長年にわたりESGの取り組みを行ってきました。最近では、女性活躍推進チーム「Kartini」を2020年に立ち上げるなど、有志による活動も生まれています。インドネシアでは従業員のESGへの理解は浸透途上と感じるものの、例えば有志のチームメンバーの努力もあって、少しずつ状況が改善しています。多くの従業員にとって、ESGはこれまで身近に感じていない様子だったこともあり、2023年度はESG研修を全従業員に実施しました。今後も、グループ全体の取り組みを生かして、インドネシアでの活動をさらに発展させていきたいと思っています。
ミコライ タイボロフスキー
タイボロフスキーPHCグループが昨年設定したマテリアリティやKPIは、特に環境分野において、私たち欧州の取り組みを優先順位付けする上で非常に有益でした。現在、環境への対応は喫緊の課題であり、マテリアリティとKPIの設定により何をすべきか明確になっただけでなく、将来のロードマップを作るきっかけになったと思います。顧客などと目標を共有することもできましたし、今後私たちが目指す姿と、その実現に向けて私たちがすべきことがクリアになりました。これは、CSRD対応の準備にとっても素晴らしい出発点となりました。オランダのローラさんのチームと同様に、欧州の拠点の一つであるドイツでもCSRDは重要なトピックですので、しっかりと対応していきたいです。
山口 快樹
山口サステナビリティ対応は、欧州を皮切りに世界全体に広がっていくことが予想されます。CSRDへの対応は、第一段階として適用対象となる欧州における子会社での取り組みを先行させ、さまざまな開示要請に迅速に対応できる体制を構築するプロジェクトが進行中です。さらにその後は、EU以外の地域親会社の適用のほか、同様のスタンダードの発行が各国で予定されており、全社的な対応が求められます。サプライチェーン全体でのサステナビリティ向上を求める顧客も増加しており、ESG評価や認証取得の重要性も増しています。欧州での取り組みを成功させ、PHCグループ全体でサステナビリティ対応を加速度的に推進していくために、まずは欧州の取り組みに期待しています。

各地域のサステナビリティの取り組みとグループレベルでの情報共有

山口 快樹
山口それでは次に、各地域ならではの取り組みがあれば教えてください。ミコライさん、欧州ではいかがですか。
ミコライ タイボロフスキー
タイボロフスキー最近では特に、包装資材の削減に力を入れています。これは、環境への負荷軽減だけでなく、顧客満足度の向上や市場競争力の強化にもつながります。顧客は環境に配慮した製品を求めており、当社に限らず競合他社も包装資材削減に取り組んでいます。また、サプライヤーやベンダーとの協働が不可欠なため、バリューチェーン全体におけるサステナビリティ向上にもつながります。環境面と社会面の両方でのバランスが重要であり、ビジネスの側面からも高く評価されると信じています。原田さん、米国ではいかがでしょうか。
原田 裕丈
原田エプレディアは欧州、米国、中国に製造工場があるのですが、米国をはじめ、どの工場でも熱心に取り組んでいます。私の赴任後、エプレディア内にサステナビリティチームを設立しました。毎月の会議で進捗を話し合って、その内容をエプレディアの経営陣で共有・議論しています。エプレディアのKPIはPHCグループの目標に一致しており、 CO2排出量の削減、廃棄物削減、リサイクル率の向上、梱包材料の削減などに重点を置いています。研究開発部門や調達部門等を巻き込んで組織横断的な取り組みを進めています。さらに、中国の工場に太陽光パネルを導入したり、英国の工場では再生電力を使用したり、製造拠点ごとの具体的な取り組みも進捗しています。顧客から多くの問い合わせを受けるので、サプライチェーン評価や製品のライフサイクルアセスメント評価についてもこれまで以上にしっかりと対応していく必要があります。
ノヴィさん、インドネシアではどのように取り組まれているんですか。
ノヴィ ホディジャ
ホディジャ私からは2020年に立ち上げたチーム「Kartini」について、もう少し詳しくご紹介します。このチームは私を含めて18名の女性従業員で構成されています。当初の目標は、セミナーやキャンペーンを通じて会社のサステナビリティ目標の達成をサポートし、従業員のモチベーションを維持することでしたが、これだけでは不十分と感じました。私たちは会社としてインドネシア・ブカシ市の孤児院を長年支援してきた経験があり、もっと熱心に取り組むためには、従業員のやる気を引き出す動機付けが必要だと考えたからです。PHCグループ全体のサステナビリティへの取り組み方針が示されたことを受け、ESG活動に密接に関連する活動に重点を置くことができました。
私たちのチームは、地球を守ることの重要性を訴求し、従業員や地域社会の意識を高め、サステナビリティ推進の面においてもインドネシアがPHCグループきっての工場になることを目指しています。シンプルな活動から始めたばかりですが、確実に前進していると思います。
ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
カルドーゾ・スモドラーカPHCEUでは、CSRD対応が主な活動となっています。環境への影響を軽減するための取り組みはまだ始まったばかりですが、いくつかの重要なステップを踏み出しています。例えば、PHCEUは新本社に移転しましたが、新本社はグリーンエネルギーを活用しています。これはESGにおける小さな取り組みの一つに過ぎませんが、GHG※4削減に向けた重要な第一歩です。もう一つの取り組みはコラボレーションです。グローバルで実施している従業員エンゲージメント調査のアンケート結果に基づき、人事部門と密接に連携し、社会的な取り組みや企業文化の改善に取り組んでいます。さらに、PHCグループのESGチームメンバー間の連携を強化し、グループ全体のESG戦略に沿ったプロジェクトや活動の実施に重点を置いています。
山口 快樹
山口顧客からの問い合わせが増加傾向にあるなかで、うまく連携をとりながら組織内での効果的な管理方法や対応の構築も重要ですね。
ミコライ タイボロフスキー
タイボロフスキー私たちは営業部門と連携して管理・対応しています。顧客との接点になる営業部門と協力し、顧客の要望に沿った最良の回答を用意しています。また、私たちは、地域だけでなくPHCグループ全社の取り組みと連携する必要があります。たとえば、顧客目線で長期的に何が必要か考え、パイプラインのようなものを示していくことが重要だと思います。パイプラインが先に進むと営業部門だけでなく、他の関係者も関与して対応する状況になると思います。
また、対応力を高めるためにはESGの理解と認識を深めることも必要です。PHCEUのローラのチームと協力して、従業員向けにESGトレーニングを組織的に実施する予定です。よく受ける質問に回答するためだけでなく、ESG活動について他の質問があった場合にどう対処すべきか、顧客が本質的に何を求めているのかを理解してもらうために、従業員トレーニングは重要だと思います。
ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
カルドーゾ・スモドラーカ私が所属するPHCEUでは、顧客からのESGに関する質問は営業担当者を通してESG担当者の私に届くことになっています。今後はさらに対応を強化するため、今年6月の営業会議を皮切りに、営業チームのトレーニングを開始しました。このアプローチにより、営業チームが一般的な質問に自ら回答できるようになり、問い合わせに一貫して対応し、当社がサステナビリティに真剣に取り組んでいることを顧客に示すことができるようになります。
原田 裕丈
原田営業部門にとって有益な情報提供を行うウェブサイトやイントラネットの構築も良いですね。顧客からの問い合わせや質問に対応する際、営業部門はさまざまな部門に情報を探しに行く必要がありますが、その手間を省くための集中的な情報ソースがあると便利だと思います。そこにはESGデータ、ポリシー、取り組みのリスト、顧客と共有できる評価機関からの証明書などが集約されていると良いと思います。
山口 快樹
山口PHCグループには、「One PHC」と呼ばれるグローバルのグループイントラがありますので、これを基盤に情報共有を進めるのも良いと思います。
太田 紫穂
太田一方通行ではなく双方向のコミュニケーションプラットフォームで取り組みを見える化したいですね。進捗状況をリアルタイムで共有し、コミュニケーションと議論を増やすことで、グローバルの従業員全員が積極的にサステナビリティに取り組む環境を作ることが、私たちの目標でもあります。

各地域から見る今後の課題

ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
カルドーゾ・スモドラーカ二つ課題があると考えます。一つ目は、ESGの取り組みが広がるにつれ、時間や労力を費やして、活動の継続や進捗状況を示す必要があることですが、これは容易なことではありません。二つ目は、ESG関連のトピックが国や地域ごとに異なる速度で進んでいることです。ヨーロッパは他の地域に比べて先行していますが、他地域の状況も踏まえていつ、どのように行動すべきかを考える必要があります。
原田 裕丈
原田私からも二つ。まず一つ目は、KPIを達成する方法について議論する際、グループ内で他拠点がどのように取り組んでいるかの共有が重要だと思います。例えば、廃棄物削減や梱包材料の削減などアイデアを出し合い、相互に学び、成功事例を共有することで、グループ全体でより効果的でよりスピード感を持った対応ができると思います。One PHCの力を示す素晴らしい機会でもありますよね。二つ目は、サステナビリティの活動と企業の成長をどのように結び付けるかです。持続可能な方法で事業を展開するために、成長の原動力としてサステナビリティを活用する必要があります。したがって、明確な戦略を持ち、最良の方法で実現するために今後も皆さんと議論していきたいと考えています。
太田 紫穂
太田皆さんが言う通り、地域ごとに異なるスピードで進む中で、情報と意識、ベストプラクティスの共有は重要ですね。すでに取り組んでいることとしては、ミコライさんとローラさんと、ポータルサイトやウィークリー会議で定期的にEUの最先端情報のアップデートや議論を行っています。この取り組みは我々の戦略にスピード感を持って適合させるのに非常に効果的なため、今後このようなメンバーを増やして活動を拡大していきたいです。
ノヴィ ホディジャ
ホディジャインドネシア政府は、各企業が持続可能な目標に企業がどれだけ貢献しているかを検証しています。ですので、小さな取り組みであっても、事業許可や輸出入許可など事業にとってプラスの効果をもたらすと考えています。昨年は、環境活動の一環として食品廃棄物削減キャンペーンや植樹活動を行いましたが、もう少し強化したいと思っています。
ミコライ タイボロフスキー
タイボロフスキー市場入札で落札して契約を獲得する際、多くの場合ESGの要素が含まれているのを思い出しました。ESG取り組みが入札にも影響すると言えるのではないでしょうか。いずれにせよ、私たちは事業を推進するに当たり、製品の品質やユーザビリティーなどはもちろんのこと、「サステナビリティ」というキーワードも頭の中に入れておかなければならないですね。

サステナビリティを目指し、PHCグループに期待すること

原田 裕丈
原田PHCグループのサステナビリティ活動は発展途上ですが、今後、活動強化を追い風にして会社を成長させたいですね。他の皆さんは、PHCグループの将来に対してどのような期待を抱いていますか。
ノヴィ ホディジャ
ホディジャ私は、PHCグループが事業に留まらず、将来の人類のために、世界的に環境保護に対して真剣に取り組んでいることを期待しています。
ローラ カルドーゾ・スモドラーカ
カルドーゾ・スモドラーカ現在PHCグループが行っている活動を継続し、持続可能な社会、特に企業のサステナビリティに貢献し続けることを期待しています。そのために、環境の変化に素早く対応できることも重要ですね。そうすれば、ヘルスケアのイノベーションはもちろん、企業のサステナビリティの面でも、会社がより良くなると思います。
ミコライ タイボロフスキー
タイボロフスキーそうですね、私たちは製品やサービスが提供されるまでのプロセス全ての環境と社会面で責任を持つべきだと考えています。つまり、ビジネスのライフサイクル全体にわたって持続可能な責任を果たす必要があると考えます。
太田 紫穂
太田PHCグループは、2030年までに持続可能な経営を実現することを目指しています。ESGを経営計画とのその評価に組み込み、長期的な財務の健全性を確保することが、持続可能な成長を支えるために重要と考えています。また、PHCグループのDNAには「精緻なモノづくり」が刻まれていますが、将来的にはESGがPHCグループのDNAに深く根付くことを期待しています。
山口 快樹
山口今後も私たちPHCグループは、ヘルスケア業界において人々の生活の向上に貢献し、優れたサービスを提供していきます。また、サプライヤーや顧客を含む世界中のステークホルダーと協力し、持続可能な成長を目指していきます。今日の議論では多くの学びがあり、またグループとして成長できる可能性が大いにあることを実感しました。皆さんの取り組みに感謝します。本日は、ありがとうございました。
グローバル主要拠点マップ イメージ

PHCグル―プは、「One PHC」のマインドを胸に、
世界の各地でサステナビリティ活動を推進しています。

  • ※1「Kartini(カルティニ)」は、インドネシアの国民的英雄であり、女性の権利と教育の向上に尽力した人物。女性の教育と地位向上に関する彼女の思想と活動で知られている。
  • ※2Science Based Targetsの略。パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃:WB2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。
    関連リンク:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/files/SBT_syousai_all_20210810.pdf
  • ※3Corporate Sustainability Reporting Directive(企業サステナビリティ報告指令)の略。2023年1月5日に発効した、EUのサステナビリティ開示規制のこと。EU加盟国は2024年7月6日までにCSRDに定められた目標を達成するための国内法制化の措置をとる必要がある。CSRDは早ければ2024年1月1日に開始する会計年度から適用される。
  • ※4Green House Gasの略。二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量のこと。