第二の人生のための事業承継
廃院するとカルテや思いは消える
「自分が医療を止めても、誰かが近くに診療所を開設し医療を始め空白を埋める。自院の患者も他の医療機関に鞍替えすれば足りる。それなのになぜ地域医療の灯を消さないということを事業承継の目的の一つにいれなければならないのか」という意見も正しいと思います。確かに診療所を廃院してしまったあと、他の医師が近隣で開業し患者を引き継ぐことはできるし、既存の医師がその患者さんを分け合うかもしれません。
しかし、院長の管理していたカルテは雲散霧消し、誰にも引き継がれることはありません。
院長の患者への思いも跡かたなく消えてしまいます。他の医師は最初から問診を行いカルテを作成し診察、検査をして患者とコミュニケーションをとり治療を開始するというゼロから診療活動が始まるのです。
電子カルテが普及しているとしての院長の診療データが他の医療機関により共有化されるのであれば、診療情報上は問題ないかもしれません。但し、それは珍しいケースですし、ほぼありえません。なのでここでの議論の埒外です。これは医療資源を無駄にすることですし患者も大きな負担を強いられます。
承継により地域に証跡を残す
事業承継により医療が継承されることで、そうした事態を防ぐことができます。過去の診療データの引継ぎにより院長の思いも残ります。
通常は、ある時期院長が廃院し第二の人生のスタートのためフェイドアウトしたり、診られた患者さんが亡くなられてしまうことにより直接先生との関係はきれてしまいます。ただ、前述のように他の医師にうまく承継できれば、診療所と地域のつながりは断ち切られることはありません。患者が亡くなったとしても診療所が承継され続けていく限り、かつて当院に世話になったという事実は、代々継承され続ける診療所とともに、患者家族の心や地域に引き継がれていくのです。
代々にわたり事業承継がうまくいけばいくほどその診療所で診療を受けた患者さんは累積し増えていくことになります。三代続いてこの診療所にお世話になったという診療所が多く見受けられるのはその事例です。継承により自院の患者を継続して診ていく環境を整えることで、「先生も随分代わったけれども、代々の先生には本当に助けてもらった」と診療所や医師の記憶を残すことで院長への思いを残すことができるのです。医師冥利につきるとは、このことをいうのかもしれません。
廃院することなく親族であれ第三者であれ、事業承継を完璧に行い診療活動を引き継ぐことは医師の役割であるとともに、院長が第二の人生をスタートしたのちも院長の証跡を残す方法であると考えているのです。
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