目 次
1. 医師の労働時間の実態
新型コロナ対応で医療従事者、特に医師の過重労働が社会問題となっています。
医師がどのくらい過重労働なのか、その実態を知る前に、まずは「労働基準法」の規定を確認しましょう。
労働基準法では、労働時間を1日8時間、1週間40時間と定め、休日についても毎週1日の休日付与を使用者の義務としています。時間外労働は、事前に労使で協定(36協定)を結んだ上で、⽉45時間・年360時間の上限が定められています。1月4週とすると1週の労働時間の上限は51時間ほどになります。
この労働時間の上限規制は、医療機関も医師を除き2020年4⽉1⽇から適用されています。医師については、医師法の応召義務を理由に現在は対象外です。
では、現状、医師の労働時間はどのくらいなのでしょうか?
厚生労働省の2019年の調査によると、「病院・常勤勤務医」の場合、男性医師の41%、女性医師の28%は1週間の労働時間が60時間を超えています。
同調査の診療科別統計では、全診療科の労働時間の平均値は56時間22分/週です。全体として一般労働者の法定労働時間を超える労働が常態化していることがわかります。
特に労働時間の長い診療科は、外科、脳神経外科、救急科の順で、これらの救急搬送の対応などの多い診療科では、医師の約半数は週当たり60時間を超えて働いています。
診療科 | 週当たり勤務時間 | 診療科 | 週当たり勤務時間 |
---|---|---|---|
外科 | 61時間54分 | 形成外科 | 54時間29分 |
脳神経外科 | 61時間52分 | 小児科 | 54時間15分 |
救急科 | 60時間57分 | 麻酔科 | 54時間06分 |
整形外科 | 58時間50分 | 皮膚科 | 53時間51分 |
産婦人科 | 58時間47分 | 放射線科 | 52時間45分 |
臨床研修医 | 57時間26分 | 病理診断科 | 52時間49分 |
総合診療科 | 57時間15分 | 眼科 | 50時間28分 |
泌尿器科 | 56時間59分 | リハビリテーション科 | 50時間24分 |
内科 | 56時間13分 | 精神科 | 47時間50分 |
耳鼻咽喉科 | 55時間02分 | 臨床検査科 | 46時間10分 |
全診療科平均 | 56時間22分 |
出典:「第9回 医師の働き方改革の推進に関する検討会 医師の勤務実態について」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf)
出典:「第9回 医師の働き方改革の推進に関する検討会 医師の勤務実態について」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf)
2. 2024年問題によりますます気になる医師の労働環境
「働き方改革関連法」の労働時間の上限規制は、一般企業だけでなく医療機関でも2020年4⽉1⽇から適用となりました。医師については、医師法の応召義務を理由に対象外とされてきましたが、2021年5月には医師の健康確保のために「勤務間インターバル規制」や面接指導、連続勤務時間の制限などを義務づけた改正医療法が成立しました。2024年4月からは、勤務医にも罰則付き時間外労働時間の規制が適用となります。これが「医師の2024年問題」です。
医師の労働時間・環境改善が注目される理由は、過労により医師の健康状態が悪化し続ければ、医療の質や安全性の確保が難しくなってしまうからです。医師の過労死や労災認定も稀ではありません。
過労死等防止調査研究センターの調査では、2010~2015年の5年間で医師の脳・心臓疾患は17件、医師の精神障害事案は8件が報告されています。その原因である過重労働の背景として、慢性的な人手不足による業務負荷の増加、オンコール・休日診療、教育・指導、管理的業務、学会・論文作成などが挙げられています。
過労死までは至らなくても、労働環境の悪さにより医師本人の健康状態の悪化だけでなく、日々の診療にもさまざまな影響が生じます。地域医療を守るためには、医師も「働き方改革」の対象として法規制を行っていかなければなりません。
出典:「第11回医師の働き方改革に関する検討会(平成30年11月9日)資料3」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000516867.pdf)
3. 労働環境の悪さが医師に与える影響
医師の労働環境の改善については、2024年4月から時間外労働規制の上限規制が始まることになっています。しかし、医療の現場では労働時間の把握や休日の取得など労働基準法で定める基準もまだ守られていない医療機関も少なくないようです。では、このような労働環境の悪さが医師に与える影響はどのようなものでしょうか?
(1)医療ミスの原因に
「勤務医労働実態調査2017」では、医療過誤の原因について、第一にスタッフ連携不足、第二に疲労による注意力不足を挙げています。そのほかにもスタッフの不足や診療時間の不足など、人と時間が足りないことが医療過誤の原因となっているようです。
疲労による注意力不足については、8割の医師が当直勤務後の通常勤務で集中力・判断力が低下していることを認めています。前述の通り、当直明けの医師の約8割が通常勤務についており、当直明けの通常勤務では電子カルテの入力ミスなど単純なものも含めて、診療上のミスが通常時より増えると回答した医師は6割強でした。
出典:全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査 2017 最終報告 全文」ドクターズ・ユニオン ニュース 第23号 P.22
全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査2017 最終報告 ダイジェスト版」 p.5
(2)健康への悪影響
「勤務医労働実態調査2017」では、約4割の医師が健康に不安を感じています。「病気がち」と回答した医師も約3%います。過労死ラインを超える労働時間の長さが健康に悪影響を与えていると考えられます。
出典:全国医師ユニオン「勤務医労働実態調査2017 最終報告 ダイジェスト版」p.6
日本医師会が2015年に実施した「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査」でも、労働時間が長く睡眠時間を削って激務をこなさざるを得ない医師が健康上および精神的な課題を抱えていることが示されています。
- 当直日の平均睡眠時間4時間以下 39.3%
- 主観的健康観(健康でない・不健康) 20.1%
- 平均睡眠時間5時間未満(当直日以外) 9.1%
- 最近1カ月間で休日なし 5.9%
- 抑うつ症状尺度QIDS中等度以上 6.5%
- 自殺や死を毎週/毎日具体的に考える 3.6%
出典:日本医師会「勤務医の健康支援に関する検討委員会 答申」平成28年3月、p.3より著者抜粋
4.勤務医がしんどい場合は「開業」も手
医師の働く環境は少しずつ改善されていますが、抜本的な問題解決にはまだまだ時間がかかりそうです。勤務医がしんどいならば開業を選択する方法もあります。勤務医と比べた開業のメリット・デメリットと開業の方法について解説します。
(1)開業のメリット
- 高い収入を得られる可能性が高い
- 自分の裁量で理想とする医療を提供する体制を整えられる
- 当直やオンコールに縛られず、診察時間・休診日を決められる
- 自分で診療方針・働き方を決め、プライベートの時間を充実させられる
(2)開業のデメリット
- 給与と違い、安定した収入が得られるわけではない
- 借入金を返済し、税金を払うと手取りは少なくなる可能性もある
- 経営者として、診療以外の経営面、組織運営面の負担が大きい
- 病気や老後の保証はなく自己責任となる
開業すると一国一城の主として、すべて自分の裁量で決めることができる一方、経営上の責任やすべてのリスクも背負わなければなりません。 一番大きなリスクは、自分の健康状態によっては希望していた医療を提供できなくなること、また、集患できないと高い収入も得られません。
(3)開業の方法
開業すればすぐに患者が集まる時代ではありません。立地や診療科によって成功の確率は大きく変わります。しっかり時間をかけて、理想の医療を提供するための開業計画を作りましょう。医療以外の経営面の知識やスキルを身につけるには、研修や書籍で学ぶ以外にも、クリニックに勤務し実務を習得する、経営コンサルタントの支援を受けながら実践的な開業計画を作るなどの方法があります。
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