海外では日本に先んじて電子処方箋を導入している国があります。エストニアでの事例を挙げながら、電子処方箋で何を目指しているのか、どんなメリットがあるのかをご紹介します。
何を目指している? どんなメリットがある?
エストニアでは2010年に電子処方箋(e-Prescription)の運用を開始しました。2021年時点では、処方箋の電子化率は99%となっています。
エストニアで薬の処方を受ける場合の流れを見てみましょう。医師は薬を処方する際にオンラインで情報を入力して処方箋を発行します。あとは患者さんが薬局に行き、国民IDカードを提示するだけ。薬剤師はシステムから患者さんの情報を取得して薬を用意します。定期的に服用している等で同じ処方を受ける場合は、都度の診察も必要ありません。患者さんはメールやSkype、電話で医師に連絡を取ることができ、医師もオンライン情報をもとに処方箋を発行できるのです。また、e-Prescriptionでは国の健康保険データを自動で参照し、受け取り資格のある医療補助金が適用されます。
電子処方箋の普及により、「利便性の向上と医療機関・従事者の負担軽減」のメリットがあったといえるでしょう。
エストニアを含むEUでは、電子処方箋を利用することで、国境を越えた医療サービスへのアクセス、いわゆる「クロスボーダー医療」の実現を目指しています。
2018年12月にフィンランドのデジタル処方箋(電子処方箋)がエストニアでも使えるようになったのを皮切りに、国境を越えた処方箋の利用が始まりました。2022年現在では、国を跨いだ処方箋の利用にフィンランド・エストニア・ポルトガル・クロアチアの4か国が参加。2025年までにEU加盟国27か国のうち25か国で段階的に導入されていきます。
エストニアでの高利用率の背景
エストニアで高い電子処方箋の利用率を実現できた背景には、いくつかの要因があります。
1 国民IDカードの普及率が高く、ほぼ全国民が保有していたこと
2 医療機関に電子データの登録が義務づけられたこと
3 患者さんは登録している家庭医を最初に受診する仕組みであること
エストニアでは国民IDカードが基本的に全国民に配布されており、IDカードには国民番号を含む電子証明書が格納されています。誰かが医師や薬剤師になりすまして処方箋を発行することはできず、患者さんも他者になりすまして薬を受け取ることはできません。シンプルかつ安全な仕組みで運用され、既に10年以上の実績があります。
また医療機関に電子化に対応するかどうかの選択肢は与えられず、電子データ登録が義務となっています。エストニアでは患者さんが自由に受診する医療機関を選ぶことはできず、登録された家庭医を最初に受診する仕組みです。専門医を受診するためには家庭医の紹介が必要であるため、家庭医と専門医の情報共有が重要となり、電子化が進められました。
海外の事例に学ぶ電子処方箋普及の鍵
日本でも2023年1月より運用が始まる電子処方箋。エストニアでの事例を見ると、利用率を高めるためには、環境の整備が重要であると言えます。マイナンバーカードの更なる普及拡大や、医療機関における電子処方箋の導入促進が鍵となるでしょう。
海外では日本よりも医療のデジタル化が進んでいる国があり、利便性が高いことをご紹介しました。日本でも海外の事例を参考にして普及が進められていくと予想できます。電子処方箋のメリットを最大限に活かすためにも、今からぜひご準備下さい。