医療機関や薬局だけでなく、患者さんにとっても多くのメリットが期待される電子処方箋。具体的にはどのようなフローで運用されるのでしょうか? 電子処方箋の導入・活用により新たに得られるメリットとあわせて確認してみましょう。
電子処方箋の仕組み
まずは、電子処方箋を活用する場合のフロー概要を確認しましょう。
患者さんは医療機関を受診する際、受付でマイナンバーカードまたは健康保険証を提示します。医師は電子処方箋管理サービスから提供される調剤情報等を確認しながら患者さんの診察を行い、作成した電子処方箋を同サービスに登録します。その際、「引換番号」と呼ばれる番号を発行するよう要求します。この番号により、薬局側で患者さんの処方箋ファイルを特定することができます。
この番号を患者さん自ら、薬局に通知・提示することで、薬局は電子処方箋管理サービスから電子処方箋を確認できるようになります。これをもとに調剤し、患者さんに薬を交付します。薬剤師は調剤結果を作成して、電子処方箋管理サービスに登録します。
なお、処方箋には署名が必要となるため、HPKI等を用いた電子署名を使用します。HPKIとは保健医療福祉分野の公開鍵基盤の略称で、厚生労働省が所管する医療分野の26の国家資格を証明できる仕組みです。
これまでの検討経緯
電子処方箋の推進のため、厚生労働省が電子処方箋運用ガイドラインを示したのは2016年のことでした。このガイドラインでは、電子処方箋に対応していない薬局でも運用できるよう、「電子処方箋引換証」という紙媒体を使う仕組みが採用されていましたが、現場の作業がかえって煩雑化すると考える医療機関・薬局が大半だったために、電子処方箋の普及にはいたりませんでした。
こうした課題を解消するため、2019年に厚生労働省の受託を受け、株式会社メドレーが電子処方箋に関する実証実験を実施しました。同社は効率的なシステムの開発を行い、それを用いて76例のうち64例で調剤の完了を実現しました。残りの8例についても、本運用では問題が生じない事象であると報告されています。
この実証実験にもとづき、厚生労働省は2020年に「電子処方箋の運用ガイドライン 第2版」を発表しました。このガイドラインでは、前回のガイドライン策定時に課題となった紙の電子処方箋引換証について、これを用いない方法へと改定されました。
電子処方箋導入による変化
電子処方箋を導入すると、複数の医療機関や薬局をまたいでリアルタイムでの薬剤情報データを閲覧できるようになります。医療機関や薬局のサービスの品質向上に役立つだけでなく、システムへの入力作業の削減や疑義照会件数の削減などによる業務効率化を実現できる点も、紙運用と比較した際の大きなメリットです。患者さんにとっても、薬剤情報を一元的に確認できるため、服薬情報の管理が容易になると期待されています。
電子処方箋を導入するには、オンライン資格確認の環境を整える必要がある点には注意しましょう。オンライン資格確認では、患者さんがマイナンバーカードを利用することを前提として、過去3年分の薬剤情報(レセプト情報にもとづく)や特定健診情報を閲覧できます。ただし、直近の処方・調剤情報(1か月程度前~現在)を確認するには電子処方箋の導入が必要です。すなわち、「オンライン資格確認+電子処方箋」の導入により、包括的かつ詳細な情報を確認できるようになります。閲覧できる情報は、今後さらに拡大される予定です。
今回は電子処方箋を利用した場合のフロー概要を中心に、その仕組みをご紹介しました。さまざまなデータを活用できるようになり、医療機関・薬局・患者さんのそれぞれに大きなメリットをもたらす電子処方箋。ぜひ導入に向けて準備を整えていきましょう。