繁盛する診療所の10の戦略
診療所をめぐる状況は、近年ますます厳しいものとなっています。日本の人口が減少傾向にある一方で、診療所の数は増加しており、競争は激化し続けていることもその一因です。今後の診療所経営においては、こうした環境を生き抜くための確固とした戦略の策定と実行こそが鍵となります。では、どのような視点で戦略を練り上げていく必要があるのでしょうか。
今回のセミナーでは、多数の病院・診療所の経営コンサルティング・会計業務を担うホワイトボックス株式会社 代表取締役の石井 友二様を講師にお迎えして、「繁盛する診療所」を実現する10のポイントをお伝えします。
[セミナー日時:2021年6月22日(火曜日) ※Web会議ツール(Zoom)での配信]
1.計画的行動
すべての戦略の基礎となる重要な考え方が、「計画的行動」です。
「PDCA」というフレームワークについて、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。「計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)」というプロセスを循環させることで、業務品質の向上を目指す概念です。
PDCAによる効果を最大化するには、起点となる「計画(Plan)」の精度を高めることが非常に重要です。ここで方向性を誤ったり、十分に煮詰まらないままサイクルを回し始めたりしてしまうと、期待していた成果が得られなかったり、そもそもサイクルを上手く回すことができなかったりと、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。ここで登場するのが、ASCS(アスクス)というホワイトボックス社が開発したフレームワークです。
ASCSでは、到達点(Attainment)と現状(State)を明らかにし、両者の乖離の確認(Confirmation)を経て、解決策(Solution)を導き出すというプロセスを進めていきます。この解決策をもとにPDCAサイクルの計画(Plan)を策定することで、その精度を高められるのです。
ASCSを運用するときに大切なのは、常に「定量化」を意識すること、つまり、あらゆる要素を数字として可視化していくことです。診療所の事業計画であれば、損益分岐点分析を行い、いくらであれば利益が出せるかを明らかにします。また、導き出す解決策も、「紹介の患者を○件に増やす」などのように数値化します。このように事業計画と年間目標を明確にして、目標から現在の行動を決定することが、計画的行動において重要になるのです。この「ASCS」、および「定量化」は、10の戦略すべてを成功へと導く鍵となります。しっかりと意識したいポイントです。
2.時間・曜日の工夫
ASCSを活用し、現状(State)の分析を行うことで最適な診療時間を設定しましょう。自院の患者さんの年齢層や男女比、時間帯別の来院患者数などを分析することで、「土日に診療した方がよさそうだ」、「通勤前や退勤後の時間帯だと患者さんが来院しやすいらしい」といったことが見えてきます。
新型コロナウイルス感染症の影響で患者数が減ってしまった診療所も多くあるかと思われますが、診療時間の見直しが増患につながる可能性は大いにあると言えるでしょう。アフターコロナを見据え、患者の利便性確保に向けた時間や曜日の工夫について、今から検討を始めてみませんか。
3.非凡なものづくり
マーケティングのフレームワークとして広く知られるものに「4P」があります。
4つのPは、Place(流通・場所)、Product(製品・サービス)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)を指しますが、マーケティングの第一人者とされるセス・ゴーディンは、これにPurple Cow(紫の牛)を加えることが大切だと提唱しています。紫の牛、つまり「非凡なもの」を自院の強みとすべきだということです。
4つのPで差別化を図ることも有効ですが、まったく新しいサービスを提供して増患を目指すという方向性もあります。たとえば、近隣の診療所との連携を強化したり、二診体制をつくったり、新しい治療・診療科を設置したり、といったアイデアです。新しい治療としては、デイケアなど今後の社会で求められるサービスを検討することでヒントが得られるかもしれません。
4.健康倶楽部組成
自院からの積極的な情報発信で、コミュニティを形成していくことも大切な取り組みです。診療所は、多くの人が強い関心を持つ「健康」という重要な情報を持っています。これを活用し、ホームページや院外報などで情報を積極的に発信したり、健康相談窓口を開設したりすることで、地域住民との関係を深めます。
また、こうしたコミュニティに近隣の診療所を含められれば、より幅広い情報の発信や、増患に向けた体制を作れるでしょう。
5.地域への露出
地域との連携強化の重要性はさきほどご説明したとおりですが、まだ来院したことのない患者さんにも自院を知ってもらえるよう、積極的にアピールしていく意識も常に持っておきましょう。
地域に根ざす診療所として認知度を上げていくには、休診日や夜間・昼間の時間を利用して院内・院外でセミナーを行ったり、地域のイベントに参加したり、といった取り組みが大切です。体調に不安を感じたときに、「あの診療所に行ってみよう」と名前を思い出してもらえるよう、できるだけ多くの接点を作り出すことを心がけたいものですね。