失敗事例から学ぶ後悔しない医療ITのシステム導入のコツ
医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む今、クリニックへのシステム導入もこれまで以上に拡大しています。一方、せっかく導入したのに思うように成果が上がらない事例が散見されるのも事実です。今回は、MICTコンサルティングの大西 大輔様を講師にお迎えし、システム導入を成功させるためのポイントをご紹介します。
[セミナー日時:2021年8月30日(月)]
1. 医療ITから医療DXへ
医療業界におけるITシステムは、現在大きな変革の時期を迎えています。医療ITの歴史をひもときながら、今クリニックが直面している状況を確認してみましょう。
かつて、病院やクリニックでは、紙カルテ、紙レセプト、フィルムといったアナログな手段で大量のデータを管理していました。こうしたなか、1999年にカルテの電子化が認められ、2006年にはレセプトのオンライン請求が義務化されると、院内のデジタル化が急速に進展します。さらに2010年代に入ると、デジタル化の波はコミュニケーションの領域にまで及び始めます。LINEなどのメッセージングツール、SNS活用、Web問診などが普及し、医療のICT化が進みました。
このような歴史を経て、デジタル技術により単に利便性を向上させるだけではなく、いかに新しい価値を生み出すかが重視される時代を迎えています。自動化の力を活用して業務を効率化しながら、医療の質を向上させることが求められるようになるのです。さまざまな業界で生じているDX(デジタルトランスフォーメーション)が、医療業界でも起こりつつあると言えるでしょう。このような流れは、2021年に開始されたオンライン資格確認や2022年開始予定の電子処方箋により、いっそう加速すると見られます。
2.電子カルテ等システム導入失敗事例から学ぶ
デジタルトランスフォーメーションの時代を迎えた現在、市場で展開されるクリニック向けのツールやシステムはますます豊富になっています。しかし一方で、これらを導入したものの期待したほどの成果が上げられなかった事例も数多く見られます。それは一体なぜなのでしょうか。
2-1.電子カルテ
多くのクリニックで導入されている電子カルテ。しかし、端末数が適正かという検証がないまま使用している例が多いのです。端末が少ないと、他のスタッフが入力している間に待ち時間が生じてしまい、業務効率が下がる原因になります。電子カルテの適正な端末台数は、常勤スタッフ1人に対して1台と言われます。端末のコストも以前に比べれば低廉化しているため、自院の端末数を改めて検討すると良いでしょう。
また、患者数の多いクリニックでは、「電子カルテ入力に十分な時間を確保できない」という声も聞かれます。記載内容が不十分になったり、記載ミスが増えたりするようでは、業務の品質や効率にマイナスの影響を及ぼします。
セット登録を積極的に活用して、入力の手間を減らすよう工夫しましょう。すでにセット登録を利用している場合でも、時間が経つうちにクリニックの実情に合わなくなってしまうこともあります。定期的に見直して、常に使いやすい状態に設定しておくよう心がけましょう。医師自身が入力するのではなく、クラークを配置して電子カルテ入力を任せるという方法もあります。
2-2.レセプト
レセプトを入力した後、点検はどのタイミングで行っているのでしょうか。月締めのタイミングに合わせて、月に1度まとめて実施しているクリニックも多いことでしょう。しかし、このやり方では点検日に業務が集中し、労働時間の長期化やミスの多発を招きかねません。
レセプトは、入力の都度点検を行うと、業務効率が大幅にアップします。医師の隣に事務スタッフを配置して、まずは入力した内容をその場で確認します。その後会計でも確認して、ダブルチェックによりさらに精度を向上させます。
チェックするポイントをリストアップしておくことも大切です。メディコムなど、チェック項目をあらかじめ搭載しているシステムを利用すれば、ミスを大幅に減らすことができるでしょう。
2-3.オンライン診療
新型コロナウイルス感染症への対応を通じて拡大したオンライン診療。しかし、患者さんが操作方法に戸惑い、スタッフが問い合わせ対応に追われているというクリニックも多いようです。導入当初からオンライン診療で受け付ける患者数をあまりに増やしてしまうと、患者さんとスタッフ双方に混乱が生じる可能性が高まります。
まずは利用シーンを限定し、対象となる患者さんには来院時にしっかりと操作方法を説明することで、このようなリスクを回避できます。検査結果の説明や新型コロナウイルス感染症に関する相談受付など、オンライン診療に適した内容を見極めてから運用を開始するとよいでしょう。
2-4.Web問診
紙の問診票を電子化したものの、来院後に患者さんに記入してもらうと操作に手間取り、かえって時間がかかるという事例もよく見られます。スタッフも患者さんの対応が増え、クリニックの業務効率にネガティブな影響が生じているのです。
そこで、Web問診はなるべく来院前に記入してもらうよう案内します。ウェブサイトや予約時の電話で、患者さんにお知らせすると良いでしょう。患者さんの待ち時間が減るだけではなく、事前に問診内容を把握できるため、スタッフも十分に準備をして診察日を迎えられます。
2-5.予約システム
来院の予約システムを導入しても、思ったほど待ち時間の抑制につながらなかったという事例も多くあります。直接来院される患者さんが多いと、当初予定していた診察スケジュールにずれが生じ、待合室に患者さんが滞留することになってしまいます。予約優先、または完全予約制にして、できる限りシステムで予約した時間どおりに患者さんを診察できるよう運用を見直します。
また、予約システムを電子カルテと連携させ、患者データを共有するのも業務効率化には有効です。システムは導入して終わりではなく、どのように運用するかが業務改善の鍵となることをしっかりと意識しましょう。
3.再考、電子カルテの選び方
ここまで、システム導入の失敗事例をご紹介してきました。これらを踏まえると、クリニックのITシステムの中核的な役割を担う電子カルテについて、選定のポイントが見えてきます。
クリニックITは、システム連携によりさまざまなニーズに対応する能力が拡がります。価格だけを重視するのではなく、自院が求める機能や連携の可否を事前にしっかりと確認しておきたいところです。
また、システムは導入するだけではうまく機能せず、それぞれのニーズに適した運用を行うことこそが業務改善の鍵であるとお伝えしてきました。適切にシステムを設定し、円滑に日々の運用を行うには、電子カルテメーカーのサポート体制がいかに充実しているかをチェックすることも大切です。自院のITスキルに合わせて、導入前や導入後のサポート内容を確認・選択しましょう。
最後に
今回は、クリニックのITシステム導入を成功に導くため、失敗事例をもとに気をつけたいポイントをご紹介しました。繰り返しとなりますが、成功の鍵は優れた運用方法にあります。メーカーのサポートも活用して、自院に適した運用方法を改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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