診療報酬改定とクリニック(1)~その診療、いくらになりますか?~
コロナ禍に実施された2020年度診療報酬改定
2年に1度実施される診療報酬の改定。2020年度の改定については、実施される前後から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応に追われ、改定が及ぼすクリニック経営への影響について、きちんと確認ができないまま、今にいたっている医療関係者も多いのではないでしょうか。気がつけば、2022年度の改定に向けて中医協(中央社会保険医療協議会)などが行っている議論も聞え始める時期になっています。
ここでは、おさらいも兼ねてクリニックの収入構造について整理し、ご自身が行っている医療行為の一つひとつが、どれだけの収入につながっているのかを確認。その上で2020年度の診療報酬改定を改めてひもとき、クリニック経営、収入面にどのような影響を及ぼしているのかを解説します。
診療報酬点数は医療行為の価格表
クリニックの収入を大づかみに算出する計算式は、基本的に「患者単価×患者数」となります。この患者単価を決めるのが、診療報酬点数です。これは、患者に対する医療行為の対価が書き示された“価格表”と考えてよいでしょう。式をご覧になればわかるように、患者単価の元となる点数が引き下げられれば、収入を維持するためには患者数を増加させる必要があり、引き上げられれば、仮に患者数が横ばいでも収入は増えます。
改定によって診療報酬を請求する際の要件が変わることもあります。改定前は請求できていた診療が、改定後は請求できなくなることも起こりうるため、開業医にとっては死活問題です。もちろん勤務医の中にも、日頃から改定情報をチェックしている方は多いでしょう。ですが開業後はそれ以上に注意深く、その推移を見守る必要があります。ご自身が行う医療行為が「今いくらなのか」、そして「今後いくらになりそうなのか」、また「請求は今まで通りできるのか」という視点が不可欠になります。
2020年度の改定では、医師や薬剤師の技術料である診療報酬の本体部分が0.55%引き上げられ、薬価などは1.01%下げられました。また、本体部分の引き上げ分0.55%のうち0.08%は「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応」に充当されることになりました。
長期的視点で診療報酬改定を読み解く
診療報酬の改定は、2年に1度ということは、その年だけ改定情報を注目していればよいのでしょうか。今年、来年という短期的視点で見ればそれでよいかもしれませんが、クリニックを末永く経営していきたいと考えていらっしゃるなら話は別です。そもそも診療報酬改定には、「日本の医療をどこへ向かわせるか」という厚生労働省の思惑、つまり医療政策の潮流が色濃く反映されています。
2020年度の改定で言えば、まず制度面を確認すると、2025年問題だけでなく2040年問題を見据え、2040年の医療供給体制として「全世代型社会保障」というキーワードが盛り込まれました。それまでは「地域包括ケアシステム」の構築に関わる改定内容が多く盛り込まれていましたが、「地域包括ケアシステム」の構築は「地域共生社会」の実現に向けた通過点という位置づけのようです。
また、クリニックに関連する部分では大幅な改定はなく、より一層「かかりつけ医機能の強化」が推進されています。こうした診療報酬の改定から10 年後20年後の日本医療の姿を想像することは、開業前の先生にとっても決して無駄ではありません。経営者としての眼力を養うトレーニングだと捉え、関連するニュースの“その先”を読み解いてみてはいかがでしょうか。クリニック開業後に必ず「役に立った」と思える日が来ることでしょう。
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