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研究室のエネルギー消費量を減らすために コラム|未来を創造するサイエンス

2021.3.26

研究室は大量のエネルギーを消費する場所です。研究室で消費されるエネルギーは、大学や研究所で使われるエネルギーの最大3分の2に達します[1]。私たちの生活の質を高めるために、さまざまな研究開発が行われていますが、そうした場面では、より良い製品の開発が最優先事項とされ出費を惜しまない傾向があります。こうした背景から、研究室のエネルギー消費量についてはこれまであまり注意が払われてきませんでした。

しかし近年、エネルギー関連のコストが高くなり、環境問題への意識も高まっていることから、研究室のエネルギー消費量についても注意が払われるようになってきています。現在では、「品質と効率を維持しつつ、どうしたらエネルギー消費量を削減できるか?」ということは、研究室運営における重要な関心事となっています。

ノースカロライナ州立大学のサステイナビリティ・オフィス(Sustainability Office)では、研究室のエネルギー消費量削減の際のチェックポイントを提案しています[2]。ここで挙げられているチェックポイントのほとんどは、夜間に消灯する、オーブンの電源を切るなど、基本的な事項を徹底することに他なりません。また、節電は大切なことですが、研究の中断や遅延を起こすようなことはすべきではありません。一部の機器やほとんどの保冷庫は修理中以外に電源を切ることはあり得ませんので、もし電源を入れなおして再起動するような必要性が生じた場合には、まずメーカーに問い合わせ、再起動に必要な時間も確認しておく必要があります。

エネルギー消費量の削減計画を立てる際は、エネルギー容量の大小にかかわらず節約を検討した方が良いでしょう。小容量のエネルギーであっても、少しでも消費量を節約できれば、長期にわたる節約効果は大きなものになります。例えば、研究室の照明に使われるエネルギーは比較的小容量なものですが、最近の研究室の照明では、LEDを用いて照明の質は高く保ちつつ、エネルギー消費量は節約する「スマート」照明が採用されてきています。LED照明は白熱電灯や蛍光灯と比べて寿命が長く、エネルギー消費量は少なくなります。また、研究室全体を照らすのではなく特定の作業領域だけを明るくする作業用照明の導入も、エネルギーの節約につながります。近年、研究室では、柔軟性を高めるためのモジュール設計が採用されることが多くなっています。パンデミックという状況下であっても、複数の研究者が一つの研究室を安全に共有するために、研究室のモジュール設計はとても重要な役割を果たします。ここで使用されるモジュール形の作業用照明は、実験室備品・作業台・バイオハザード対策用キャビネット・電気・ガス・水道など、照明が必要とされる場所まで移動させることができます。

ドラフトチャンバーのエネルギー消費量削減について

ドラフトチャンバーは化学の研究室や化学関連の産業では不可欠な設備ですが、ドラフトチャンバーの保護機能を稼働させるためには、大きなエネルギーが必要です[3]。例えば、全開にしたドラフトチャンバーは、空調を効かせた室内の空気を1分間に7.08立方メートルずつ排気してしまい、結果的に空調のエネルギー消費量も増大させてしまいます。また、ドラフトチャンバーの排気やさまざまな機能制御にもさらに大量のエネルギーが必要です。そのため、典型的なドラフトチャンバー1台の運用コストは年間9,000米ドルを超えてしまいます[4]。ちなみに−80℃超低温フリーザーは、1キロワット時あたりの料金が平均0.1319ドルとすると[5]、1日あたりのエネルギー消費量は12 kwhで、1台の運用コストは年間600米ドル未満です[6]

こうしたことを踏まえると、ドラフトチャンバーのワークエリアを使用していない時はサッシを閉じておくように周知するだけで、相当な量のエネルギーを節約できます。ただこうした省エネ対策は、ルールが守られた場合だけ効果が見込めるものです。そのため、ドラフトチャンバー自体に省エネの機能が盛り込まれた「エコ」や「スマート」なドラフトチャンバーが好評を得ています。これらは、一定の風速を維持するために、サッシがどの高さにあっても状況に応じて気流の速度を変える機能を備えています。こうした可変的な気流システムがあれば、空調の効いた室内の空気が無駄に排出されにくくなり、エネルギー消費量の削減にも貢献します。その一方で、ドラフトチャンバーの価格は高くなり、機能も複雑になります。

ダクトレスドラフトチャンバーは空気を排出せずに再利用するドラフトチャンバーで、他のドラフトチャンバーと比較して最もエネルギー消費量が少ない選択肢です。ただこのドラフトチャンバーは、設計上、毒性が強い材料や放射性物質を扱うには適していません。

保存機器のエネルギー消費量削減について

ほとんどの医薬品・試薬・中間体・生体サンプルなどは、もしきちんと適切な温度で保管できれば、数年間は安定的に保つことができます。そのため、生命科学分野の研究室では保存機器は必須の設備です。こうした機器は、化学・環境・材料科学など、他の多くの研究分野でも非常に大きな役割を果たしていますが、効果的に使用するためには正しい使用法を知っておくことが大切です。世界保健機関(WHO)によると、重要な医薬品の約25%が温度管理に関連した原因で劣化していると推定されています[7]

生命科学研究ではさまざまな場面で低温保存が必要とされるため、一般的な研究室には通常、複数の保冷庫やフリーザーが設置され、休むことなく稼働しています。保冷庫やフリーザーも、研究室で大量のエネルギーを消費する設備です。貴重な研究費を有効に活用するためには、エネルギー関連の費用にも注意を払う必要があり、省エネに必要な基本的事項を守ることが非常に役立ちます。

フリーザーの扉を開く前には、作業者は取り出す物が庫内のどこに入っているか、あらかじめ場所を把握しておくことが大切です。家庭用冷蔵庫でも扉を開いたままにすることは問題ですが、研究室の貴重なサンプルを保管しているフリーザーならなおさら、低温の庫内を室温に晒すことは最小限にしなければなりません。

各メーカーは、研究室用や薬用の保冷庫やフリーザーに多くの省エネルギー機能を組み込んでいます。国際エネルギースタープログラムの基準を満たす冷却ユニットは、主にアジアで製造され全世界で販売されているものですが、この冷却ユニットを採用することにより、年間のエネルギー消費量を75%以上節約することができます。また、各メーカーは、例えば生体サンプルや医薬品など、保管物に応じた特殊な保冷庫やフリーザーも設計しています。エネルギー効率を最大化するためには、保管物に対してフリーザーの大きさが適切であることも重要です。冷却ユニットが大きすぎると電力の消費量が過剰になりますが、保管スペースが不十分だと庫内が一杯で保管物の取り出しが難しくなり、結果的に扉を開ける時間が長くなってしまいます。

また、保冷庫やフリーザーのエネルギー効率を高めるために、以下のような運用面での改善点が挙げられます[8]

  1. 設定温度を−80℃から−70℃に上げることを検討しましょう。
  2. 凝縮器フィルターに付着したほこりを除去してください。ほこりが付着するとエネルギー効率が低下し、ユニットの寿命も短くなってしまいます。
  3. コンプレッサーが作動する頻度を観察して、短い間にオンオフのサイクルが何度も続く際は、メンテナンスか修理が必要である場合があります。
  4. 投資利益率や総運用コストを計算する際は、その時点でのエネルギー使用量を考慮に入れてください。
  5. まとめ

    研究室のエネルギー消費量を減らすためには、計画・注意・実際の行動、のどれもが大切になります。全体的なエネルギー消費量を削減する際は、ドラフトチャンバーのサッシを閉める、使わない時は照明を消す、使用していない機器を止める、フリーザーの設定温度を上げる、といった誰でもできる対策を取り入れることが効果的です。また、研究機器そのものについても、新規導入の際に省エネ設計の「エコ」な製品を選択したり、古い機器を見直して必要に応じて更新するなど、ハードウエア面でのエネルギー消費量削減も検討する価値があります。既存の機器の定期点検を行うことで、高いエネルギー効率を維持し、機器の故障などによる損害を防ぐこともできます[9]

    PHCbiについて

    私たちの新しい事業ブランド「PHCbi」における「bi」は、「Biomedical(生物医療)」を表すとともに、弊社の強み・哲学である「Biomedical Innovation(生物医療における革新)」を表すものです。私たちは、1966年の薬用保冷庫1号機の発売以来、「Sanyo」「Panasonic」両ブランドにおいて、その技術力を駆使し、高品質で信頼性の高い製品・サービスを創造し、ライフサイエンス分野や医療業界のお客様の期待に応えるべく努力してきた長い歴史を持っています。より詳細な情報は "PHCbiについて"をご参照ください。

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